- Amazon.co.jp ・本 (413ページ)
感想・レビュー・書評
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親父から譲り受けたシリーズ。久しぶりに大ヒットが来た(「母」「土」に続き、明治時代の貧民の痛烈な生活を読むのが好きらしい)。
360人もの元女工(既に1970年代当時で60-90歳台の老人)にインタビューをし、資料だけでなく伝聞を加えた評論だけに魂を揺さぶるものがある。
基本的には、日清・日露でなぜ勝てた?→最新鋭の軍艦→なぜ買えた?→生糸貿易の輸出黒字→じゃあ誰が生糸を作ってた?という疑問から生じて、本書の研究が進んだ。
本書で取り上げられた女工たちの劣悪な環境は、語るに忍びない。それでも、農村で暮らすよりは出稼ぎに出たほうが何倍も良かったと語る女工たちから鑑みるに、明治の農村の貧窮っぷりは想像を絶していただろう。尾上松之助や国産第一号戦艦「薩摩」に湧く都会の人との対比が良く登場するが、まさにその戦艦を信州が支えていたことなど、当時は誰も知らなかっただろう。
非人道的に超安価で女工を雇っていた背景に、破滅の道を歩むことを予定調和としていたかのような、歪な製糸業界の構造が挙げられる。生産費100に対して、なんと原材料である原料繭が80%を占めていた。女工への給金は僅か4%。更に、明治時代の不平等条約下、意図的に操作されたマーケットにより、マージンを不当に海外卸勢に奪われていた。つまり、製糸業者は、1)乱高下する生糸相場、2)原料繭価、3)女工のコスパの三つがキーポイントで、その内最もターゲットにし易かったのが、女工の人件費なのである。確かに4370円/斤から540円/斤の振れ幅はゴマなど比べ物にならない。ただのギャンブルである。
つまるところ、女工が劣悪な扱いを受けていたのと時を同じくして、製糸家たちもリスクのど真ん中にいたのである。インタビューを受けた女工たちも、「旦那様」を悪く言わなかったのは、そのことを承知で働いていたのではなかろうか。では、その莫大なマネーはどこへ動いたのか?それは最高クラスの資本家の懐を経由して軍艦に変わっていったのだ…歴史を振り返れる今だからこそ判明しているこの事実を、当時の女工/製糸家たちが知っていたら…そんな想像をしてしまう、見事な作品である。
超おススメの一冊。詳細をみるコメント0件をすべて表示