音楽の本質を理解することは、生命なるものの芯を見据えることと同じである。本書では、シューベルトをはじめとする音楽家の作品に向き合うことを通して、音楽について考えた。シューベルトの名曲のように、音楽の本質を考える作業は常に「未完成」に終わる運命にある。たとえ完結しなくても、少しでも美しい響きに近づいてくれれば良い。そう思って日々を過ごせば、人生はしみじみとした喜びに満ちている。出会った音楽に感謝したく
聴く前と後では、きっとなにかが違っている。それを信じたい。そして信じるということもまた、一つの真摯な音楽なのだ。
わからないものは、わからない。わからないのなら、断定的なことを語らない。これが釈迦の「無記」の思想であり、死後の世界や魂の存在の有無について、いっさい答えない、という仏教の哲学である。音楽に対しても、私はこういう姿勢で臨みたい。 解釈を拒絶して動じないものだけが美しい。
言葉にならないものの存在を知ることは、貴重な体験だ。「言葉にならない=わからない」ものを探すこと。積極的に、自らの意志で探ること。その能動性が、脳に強い喜びをもたらす。〈私〉の生命運動に活力を与えてくれる。
アーティストというのは、「なにかをキャッチする力」を持った人間です。身のまわりで起きていることを、常に観察している人たちなのです。