木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか [Kindle]

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  • 新潮社
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感想・レビュー・書評

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  • 本を読んでいると、その登場人物たちの熱量のみならず、作者自身のそれをひしと感じられることがある。

    本書はまさにそういった本だった。足掛け18年、歴史に翻弄された昭和最強の柔道選手がなぜ力道山を殺さなかったのかを、武道、プロレス、男たちの歴史などから読み解く。

    隅々まで熱が込められた文が次々と繰り出される。それぞれが、徹底した取材と文献調査にしっかりと裏打ちされていることがよくわかる。例えば本書で重要なファクターを閉める力道山の生年月日について、色々な説があることを紹介しつつ、最後は「どの説をとっても1歳差だから、大勢に影響はない」と判断を下している。

    本書によれば、主人公・木村政彦はその昔、一日10時間の練習をこなしていたという。しかし筆者の増田氏も、それに負けじとも劣らないエネルギーと情熱を、この本の上梓の為に注ぎ込んだに違いない。

    人の人生を描くというのは、きっとそういうことなのだ。本書を読了後、しばらく他の本に手をつけられなかった。

  • たいへんなものを読んでしまった。これは昭和29年12月22日の力道山との一戦で惨敗を喫した柔道家・木村政彦のレクイエムであると同時に、昭和のレクイエムだ。
    1993年の猪瀬直樹(現東京都知事)が書いた木村へのインタビュー記事をきっかけに、18年の歳月をかけて取材した著者が見たものは、戦中戦後の日本柔道界、政財界、博徒の裏社会、そしてブラジルの日系人など昭和の歴史そのものだった。これらをすべてカバーしないことには、不世出の柔道家・木村政彦を語ることはできなかったのだ。
    著者が涙を流し、歯を食いしばりながら筆を進めたことが行間から伝わってくる渾身の一冊は、異彩を放つ歴史書としても価値が高い。

  • めちゃめちゃ読み応え有りましたが、700ページ、長かった・・・
    講道館と力道山に対する今までの印象がかなり変わりました。

    • 05さん
      わあ、ホントです!電子書籍ではないです
      わあ、ホントです!電子書籍ではないです
      2020/05/16
    • 05さん
      ご指摘ありがとうございました!
      ご指摘ありがとうございました!
      2020/05/16
    • moboyokohamaさん
      指摘というほどのことではなくお節介程度ですね。
      単行本の後しばらくして文庫本上下巻にもなっていますね。そちらの方が写真の資料が豊富で嫉妬しま...
      指摘というほどのことではなくお節介程度ですね。
      単行本の後しばらくして文庫本上下巻にもなっていますね。そちらの方が写真の資料が豊富で嫉妬しました。
      2020/05/17
  • 東京アンダーワールドで力道山の話が出ていたから、読みたくなった。

    これは実にいい本だと思う。著者自ら、北大の柔道部出身であり、格闘家を肌でわかっている。しかし、この本が出るまでの労力と時間を考えると、仕事としては、全く、割に合わないと思う。それだけ熱い想いがあるのだ。

    p.299 梶原一騎 未完の絶筆劇画「男の星座」は猪瀬直樹が絶賛だが、ウソもある。

  • 「どっちが強い/こっちのが強い」話が男の子たちは大好きだ。増田俊也氏のこの分厚い本もつまるところそういう話である。どうだ!柔道家の木村政彦は強いだろ、めちゃくちゃだろ!そう思わないか?みんな!——と。噂に違わぬ傑作ノンフィクションでした。

  • 文句無しの五つ星だ。
    私は高校から大学までプロレスが好きだった。
    八百長ではないことを信じていた時期もあった。
    それくらい世間知らずだった。冷静に考えれば真剣勝負20分間を毎日しながら過ごすのは無理だろうというのは気づきそうなものだが、そうではなかった。

    木村政彦という名前は知っていたし、力道山との巌流島もYouTubeなどでみたこともあった。プロレスがわからの視点でしか見ておらず、柔道日本一だとは思えないほどボコボコにやられているなというのが初見時の印象だった。
    その後プロレスから興味もなくなり、2000年代の格闘ブームはそれなりに追っかけていたが、それも後退していた。
    この本で全く見方が変わってしまった。

    格闘技に興味がなくとも、戦前・戦中・戦後と社会風俗史としても面白い本だ。
    ブラジル移民の話は一般常識として知っていたが、終戦を受け入れる受け入れないの勝ち組負け組の抗争など全く知らなかった。

    それにしてもテレビの力というのは恐ろしく、力道山の狡猾さが際立つ。

    しかしこの著者の筆の走り方はなんだろう。グイグイ引き込まれ、中毒性がある。読むことがやめられないという経験は久しぶりだ。大著にもかかわらず平日3日程度で読んでしまった。

  • すごいボリューム。

  • 戦前柔道最強の男、木村政彦。戦後はプロレスに転向し、ブラジルでグレイシーに勝つ。そして帰国して、彼の運命を変えた力道山との一戦。
    大変に分厚い大著だが、綿密な取材に基づいた木村政彦史といえる内容で、グイグイと引き込まれる。自らも柔道をやっていたという著者の木村への愛着と、力道山や戦後柔道界への怒りが文章の根底に流れる。師匠の牛島、力道山、大山倍達、グレーシー一族と、格闘技ファンは必読の内容が満載で、戦前からの格闘技史はこれで概観できる。
    しかし、本書の魅力は何と言っても、最強ながら不器用な生き方しかできない木村の人間そのものであろう。柔道を続けていれば、力道山と戦わなければ、油断しなければ、などタラレバを言いたくなるエピソード多いが、でも彼はやはりそういう道を選択せざるを得なかったんだろうなと、彼の心情がわかったような気持ちにさせてくれたりもする。ドキュメンタリーとしても、伝記としても物語としても楽しめる一作。

  • GHQの圧力により、武道からスポーツ。 そして講道館柔道に一本化された、柔道もとい柔術の裏側史。

    あるいは、筆者が史上最強と崇める木村政彦の敗北を、執念的な程に時間を掛けた取材に基づく史記を書く過程で受け入れながらも、一方で今や停滞するプロレスに対して、怨讐の篭った介錯として綴られた様にも読み取れる。

    武道だった頃の柔道で、最強無敗を極めた、鬼の柔道家木村。
    プロレスラー転向後は、戦後の変動期に於いて、時代の徒花であった。

    力道山戦の敗戦は、鬼と呼ばれた勝負師でありながら、
    プロレスラーとして臨んでしまった事による隙が産んだ悲劇というべきか。

    その裏側を描く過程で、プロレスの(台本)の存在を公にしており、
    プロレス全盛時代には決して出版されなかったであろう、
    内容も淡々と語られている。

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著者プロフィール

1965年生まれ。小説家。北海道大学中退後、新聞記者になり、 第5回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞して2007 年『シャトゥーン ヒグマの森』(宝島社)でデビュー。2012年、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)で第43回 大宅壮一ノンフィクション賞と第11回新潮ドキュメント賞をダブル 受賞。他の著書に『七帝柔道記』(KADOKAWA)、『木村政彦 外伝』(イースト・プレス)、『北海タイムス物語』(新潮社) などがある。

「2022年 『猿と人間』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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