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感想・レビュー・書評
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貧しい村では、長男以外の男子なら他所へ奉公や養子に出す「口減らし」や、器量のいい女子なら置屋へ売り渡す、老人なら「姥捨て」など一家を守るための行為は当たり前に存在していました。本書では、普段知ることのないマタギの世界を描きながら、こうした厳しい時代背景もしっかりおさえ、リアリティ重視の作風に圧倒されます。日本人の多くが、食べるため、生きるためだけに必死だった時代がそこにはありました。それは悲惨な話なんですが、その日を生きるのに精一杯な当人たちにとってみれば、哀しむ暇もなく、それが当たり前の日常だったわけです。その苦しい日々の中にも、ささやかな楽しみを見つけ、人生を学びながら成長していく過程にこそ生きるための希望があります。そして、生きる目的も、「自分のため」から「誰かのため」や「何かのため」へと社会とのかかわりを含んだものに変遷していきます。では、本作の主人公の生きる目的とは何だったのか、そうした視点を持って読んでみるのも一興かと。
閑話休題、本作発表から、数年後(2008年)こんなこともありました。
直木賞作家の熊谷達也さんが月刊文芸誌「小説すばる」(集英社)に発表した小説に、アフガニスタンなどの紛争地取材で活躍するフォトジャーナリスト、長倉洋海さんの著書から表現などを無断で使用していたことが15日、分かった。同誌4月号に経緯と「お詫び」が掲載された。
同誌などによると、熊谷さんは同誌昨年12月号に「聖戦士の谷」を発表。これについて、長倉さんから「自著に依拠して表現を無断使用している個所が複数あり、見逃せない」などと抗議を受けた。編集部で精査し、熊谷さんとも協議した結果、著作権侵害に当たる可能性が高いと判断、連載打ち切りを決めた。同誌4月号に熊谷さんと編集部の連名で、1ページの「連載中止の経緯とお詫び」を掲載した。
このなかで熊谷さんは「深く反省し、二度とこのようなことを起こさない」、編集部は「確認作業が至らなかったことを反省し、再び起こらないように注意する」としている。
リアリティ重視の作家は、わざわざ関係者にインタビューしたり現場に足を運んだりという取材活動を入念に行いますが、多忙ともなると、インタビューのかわりになるものを手っ取り早くという誘惑にかられることもあったのでしょう。もちろん、禁じ手です。
熊谷 達也(1958年4月25日 - )は、日本の小説家。東京電機大学卒業。宮城県仙台市出身。宮城県佐沼高等学校、東京電機大学理工学部数理学科卒。卒業後、埼玉県と宮城県気仙沼中学校で公立中学校の数学教諭を8年間勤める。その後、宮城県に帰り、保険代理店業を経て1997年『ウエンカムイの爪』で作家としてデビューする。2011年震災当時も2013年現在も仙台市在住。
2004年、『相剋の森』から始まり『氷結の森』で終わるマタギ3部作の第2作『邂逅の森』で、初の山本周五郎賞と直木賞のダブル受賞を果たす。
『荒蝦夷』や『迎え火の山』など東北地方や北海道の民俗・文化・風土に根ざした作風で知られる。
プライベートでは外国製のオートバイをこよなく愛することで知られる。
文学だけでなくK'zというロックバンドでギターを弾くなどミュージシャンとしての一面も持つ。
受賞歴
1997年 - 第10回小説すばる新人賞 ( 『ウエンカムイの爪』 )
2000年 - 第19回新田次郎文学賞 ( 『漂泊の牙』 )
2004年 - 第17回山本周五郎賞( 『邂逅の森』 )
2004年 - 第131回直木賞 ( 『邂逅の森』 )
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全く知らないマタギの世界が詳しく描かれていて、グイグイと読み進めました。主人公の富治の生き様凄かった〜
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時代は大正~昭和初期、あるマタギの半生を描いた小説。
山や獣との対峙を描くのみに留まらず、
壮絶な恋愛模様であったり、途中で鉱夫に転身したりと波乱万丈なストーリー。
マタギの習俗、その時代の人々の生き方がよく描かれており
ストーリーも勿論面白かったが、勉強になる部分が多かった。 -
古来からの、不器用でありながらも真っ直ぐでかっこいい男と芯を持って自分を貫くことができる女2人の話。
イクと文枝が、お互いを睨み合った後にお互いの頬をぶって、一言も交わさずその場を後にするも、お互いの思いが伝わっているシーンは非常に印象的だった。自分の意思ははっきりと表明する、しかし相手の境遇は慮る態度は非常にかっこいい。
また、マタギとして狩猟をしているシーンもリアリティがあり、非常に惹き込まれた。 -
時代設定は明治末期から大正時代。秋田県の若きマタギ松橋富治は師匠と仰ぐ善次郎の狩猟組で経験を積むが、 文枝と関わりを持ったばかりに村を追われる。鉱山で過ごしそこで出会った小太郎と再び狩猟の世界に戻る。そして、小太郎の姉のイクとの出会い。更には文枝との間にできた長男が訪れ文枝との再会。下界での生活とマタギとしての揺れ動く決意、健気なイクや文枝との人間関係に心打たれた。山の神様に乞うための最後の寒マタギ。そこで出会った大クマのコググマとの戦いは壮絶だった。波乱万丈の富治、イクのもとに戻ってほしいと願った。
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マタギの半生と思いきや、一人の男の一生というのが、読後すぐの感想。
山に生まれ、山に生き、山に生かされ、山に救われる。
遠い昔の、遠い物語。 -
こんなに生々しかったっけ
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中学・高校の頃は、勉強の合間の息抜きに、良く小説を読んだ。
息抜きであるから、難しい本は読まない。いわゆる、大衆娯楽小説というやつである。
今もその傾向を引きずっていて、仕事の合間に読む本は、今風に言うと、いわゆるエンタテイメント小説というやつであろうか。
本書もその類いである。
生まれ育った村を追われ、鉱山で厳しい労働を強いられる、一人の男。山と狩猟への思いが断ち切れず、流れ着いた村で再び、マタギを生業とする男。
ラストシーンは、男と熊との、互いの命をかけた一騎打ちである。
片足を失い、全身傷だらけで戦いに勝利した男が向かう先は・・・。
この年になって、大自然の厳しさ、過酷さと、一方で、命の偉大さを思い知らされた気がしている。