続西方の人 [Kindle]

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  • 2012年9月27日発売
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  • 芥川龍之介が聖書を枕元に置いて死ぬまで書き続けという本稿です。迷える精神に救いを求める荒寥感が漂ってきます。(昭和2年7月10日・遺稿)

  • 一・再びこの人を見よ
    クリストは「万人の鏡」である。
    わたしは四福音書の中にまざまざとわたしに呼びかけてゐるクリストの姿を感じてゐる。

    二・彼の伝記作者
    人生に失敗したクリストは独特の色彩を加へない限り、容易に「神の子」となることは出来ない。ヨハネはこの色彩を加へるのに少くとも最も当代には、up to date の手段をとつてゐる。
    クリストは如何に葡萄酒に酔つても、何か彼自身の中にあるものは天国を見せずには措かなかつた。彼の悲劇はその為に、——単にその為に起つてゐる。

    四・無抵抗主義者
    クリストは又無抵抗主義者だつた。それは彼の同志さへ信用しなかつた為である。近代では丁度トルストイの他人の真実を疑つたやうに。

    九・クリストの確信
    クリストも亦あらゆるクリストたちのやうにいつも未来を夢みてゐた超阿呆の一人だつた。若し超人と云ふ言葉に対して超阿呆と云ふ言葉を造るとすれば。……

    十一・或時のクリスト
    平和に至る道は何びともクリストよりもマリアに学ばなければならぬ。マリアは唯この現世を忍耐して歩いて行つた女人である。(カトリツク教はクリストに達する為にマリアを通じるのを常としてゐる。それは必しも偶然ではない。直ちにクリストに達しようとするのは人生ではいつも危険である。)

    十五・クリストの歎声
    阿呆たちは彼を殺した後、世界中に大きい寺院を建ててゐる。が、我々はそれ等の寺院にやはり彼の歎声を感ずるであらう。
    「どうしてお前たちはわからないか?」——それはクリストひとりの歎声ではない。後代にも見じめに死んで行つた、あらゆるクリストたちの歎声である。

    十八・二人の盗人たち
    彼等は、——サドカイの徒やパリサイの徒は今日でも私かにこの盗人に賛成してゐる。事実上天国にはひることは彼等には無花果や真桑瓜の汁を啜るほど重大ではない。

    十九・兵卒たち
    クリストはクリスト自身の外には我々人間を理解してゐる。彼の教へた言葉によれば、感傷主義的詠嘆は最もクリストの嫌つたものだつた。

    二十一・文化的なクリスト
    彼はロオマの詩人たちにも遜らない第一流のジヤアナリストだつた。同時に又彼の愛国的精神さへ抛つて顧みない文化人だつた。

    二十二・貧しい人たちに
    彼のジヤアナリズムはいつも無花果のやうに甘みを持つてゐる。
    我々はエマヲの旅びとたちのやうに我々の心を燃え上らせるクリストを求めずにはゐられないのであらう。

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