水滸伝 十二 炳乎の章 (集英社文庫) [Kindle]

著者 :
  • 集英社
4.23
  • (5)
  • (6)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 37
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (342ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • Kindle見つかりました

  • 前巻の最後、暗殺されてしまった晁蓋(ちょうがい)。
    それが梁山泊の面々に与えた影響は、目に見えないものだけに大きかったと言える。

    徹底的に慎重だった宋江が、全軍を率いて北京大名府へ出動するなど、晁蓋が生きていた時には考えられなかったことだ。
    扈三娘(こさんじょう)や韓滔(かんとう)、呼延灼(こえんしゃく)らも、それぞれに晁蓋を救えなかったことで自分を責める。
    特に韓滔は食事もとらず痩せ衰え…と思ったら…。

    その一方で、梁山泊は戦いだけではなく、ひとつの国家のように体制を整え、法を整備していく。

    “「とにかく、やらねばならぬことが、次々に出てくる。人の営みとはすごいものだと、改めて考えさせられる」
     その営みの中で、人は悲しんだり怒ったり、そして喜んだりしているのですね」”

    名もない庶民が安心して生きられるように、法を整備していく裴宣(はいせん)。
    しかし裴宣(はいせん)は、法の限界も知っている。

    “「法は、いつでも人のために作られる。どんな法も、最初はな。それから、少しずつ執行する者が都合よく解釈するのだ。そういうことができないようにしても、時が経つとそうなる」”

    拷問のシーンなども読んでいてつらく、燕青の張りつめた想いに読んでいて息がつまるほどだったが、最後、楊令が真っ直ぐに育っている様子に、ようやく安堵の息をついた。

  • 晁蓋亡き後を描く。呉俊義の逮捕、燕青による救出、関勝の作戦、魚肉饅頭の借り。物語は佳境に。

  • まずは恒例の各章のサブタイトルとその星が表す豪傑の名前の列挙からです。

    地健の星: 険道神・郁保四
    地傑の星: 醜郡馬・宣贊
    地正の星: 鉄面孔目・裴宣
    地蔵の星: 笑面虎・朱富
    地隠の星: 白花蛇・楊春

    この巻のメインは闇塩の道の首魁・盧俊義の受難とそれを助け出す燕青の活躍、そして大刀関勝の梁山泊入りというあたりでしょうか。  でもね、この物語2周目の KiKi にはそのメインのストーリーラインからはちょっと外れている「王進スクール遊学中の楊令の成長」が結構心に残りました。  

    もちろん初読の際には晁蓋を失った以降の宋江の変化やら盧俊義の受難やら燕青の常人離れした活躍にかなり目を奪われていたんですよ。  でもね、基本的にホラー系が苦手な KiKi にとっては盧俊義の拷問シーンな~んていうのは読んでいてさほど気分の良いものじゃない。  しかも今回は読書の最中に体調を崩していたという事情も重なって、そこはちょっと流し読み・・・・・ ^^; 

    逆に梁山泊という切った切られたの世界からちょっと距離を置いているようでいて、しっかりと戦士教育を受けている楊令の姿に何かほっとするものを感じちゃったんですよね~。  さらに言えばその目撃者である「地隠星: 白花蛇・楊春」の立ち位置がいいと思うんですよね。  何となく周りの状況に流されて今ここにいる楊春。  「志」もさほど強く持っているわけではないし、何となくずっと一緒にいた仲間たちと一緒にいることが当たり前とだけ思って梁山泊入りした楊春。  でも、そのずっと一緒だと思っていた嘗ての仲間と配属先で切り離され、精神的迷子状態の楊春。  そんな楊春が「王進スクール遊学中の楊令」の成長目撃者というのはなかなか練られた構図だと思うんですよね。



    108人も登場人物がいるとその一人一人の描き分けがかなり難しいと思うんだけど、この「北方水滸」の面白さのポイントの1つは戦シーンではほとんど同じような描写になってしまう戦士一人一人にちゃんと梁山泊入りするまでのストーリーを与えてあげているところだと思うんですよね。  KiKi は岩波少年文庫の「水滸伝」しか読んでいないから、原作ではどの程度一人一人にストーリーがあるのかはよく知らないんだけど、108人も人が集まればそれは多種多様な人間がそこにはいるはずで、その個別のストーリーにそれなりの説得性がないとかなり嘘っぽくなっちゃうと思うんですよね。  そういう点ではこの「迷い道クネクネ楊春」の描写はなかなかいいなぁと感じられます。

    話は変わって、さっき KiKi は

    ホラー系が苦手な KiKi にとっては盧俊義の拷問シーンな~んていうのは読んでいてさほど気分の良いものじゃない。

    と書いたわけだけど、「拷問って」と言うべきか「中国人って」と言うべきかは迷うところだけど、KiKi の想像を超えるレベルの残虐性があるんですねぇ。  青蓮寺が「闇塩の道の首魁容疑者」として捉えた盧俊義たち北京大名府在住の18人の大商人に行う拷問の内容も目を覆いたくなるような残虐さなら、関勝と一緒に梁山泊入りした宣贊が受けた刑罰(?)も酷いし、梁山泊軍に大敗した北京大名府軍の将軍たちへの処罰もものすごい・・・・・。  世が世なら「人権擁護団体」にとっちめられちゃうだろうほどの人権無視ぶりです。

    こういうことってやっぱりどこかで「自分が進んでいる道こそ正義」という思い込みというか信念がなければできないことなんじゃないのかなぁ・・・・。  そしてもしもそうだとすると、そういう硬直化した思想ほど恐ろしいものはないと感じずにはいられません。  

    さて、ようやく大刀関勝も仲間入りした梁山泊軍。  そろそろ童貫元帥も重い腰を上げそうな雰囲気だし、お互いの「譲れないもの」と「国家のありようはこうあるべき」というビジョンを賭けての全面戦争の空気を漂わせて13巻へ進みます。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

北方謙三の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×