老狸伝 [Kindle]

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  • 2012年10月4日発売
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  • 佐藤垢石(さとうこうせき:1888-1956)。エッセイスト、釣りジャーナリスト。
    垢の石って何だ?というところだが、これは釣り用語からきているのだそうだ。鮎は石に付く水苔を食う。釣り人はこれを垢と呼ぶ。石の垢の減り具合で鮎の所在を知るのだそうである。

    垢石は釣りジャーナリズムの揺籃期に多大な貢献をした人で、雑誌「つり人」の初代編集人である。釣りに関する著述はもちろんだが、それだけではなく、食や旅、生きものなどに関するエッセイも数多い。エッセイ集『たぬき汁』はベストセラーになったという。
    本稿は『たぬき汁』の何冊かの続編の1冊、『たぬき汁 以後』に収められたもの。
    まとまりのある論考というよりは雑多なエピソードの羅列といった感じだが、飄々とした味があってなかなかおもしろい。

    タイトルは「老狸伝」だが、熊の話も少し混じる。
    「ご馳走が極端に払底」していた頃とあるから、初稿は戦中か戦後すぐだったものか。越後岩国の友人から狸と熊の肉をもらう。この肉を牛蒡などと煮ておいしく食べたという話から、狸と貉(むじな)と貛(あなぐま)の違いや、月の輪熊の本場は奥州や出羽ではないかといった話が語られる。狸の呼称にはいろいろ混同や混乱があり、狸と貉は同じものかといった論争もあったようである。

    後半が主題の「老狸」の話。
    著者は群馬の出身だが、榛名山麓には古来、狸が多く、分福茶釜の話の元になった茂林寺があるのもこの地域である。
    分福茶釜にはどうも2種類の話があるようだ。
    1つは、寺に仕えた少年僧・守鶴の話である。守鶴は、法会の際、大勢の客に茶を出す茶番をしていた。不思議なことにいくら茶を出しても釜の湯がなくならない。後日、守鶴が疲れて寝込んでいるところを和尚が覗き見たところ、毛むくじゃらの狸が大の字で寝ていた。正体を知られた狸は寺を去ったというもの。
    もう一方は、寺に守り伝えられた釜から毛むくじゃらの手足が生えて踊り出したというもの。これを見た和尚が手元に置いておくのが嫌になって、道具屋に売り渡したところ、道具屋の店で夜中にやはり釜から毛むくじゃらの手足が生えて、品物を踏み散らかして踊り出した。道具屋は驚いて別の道具屋に売り渡す。そこでも同じことが起こる。何度売り渡しても同じことが起こる。道具屋連中は集まって、茶釜の狸踊りを見せる見世物興行を行い、大評判となった。その富を皆で分け合って、これを分福茶釜と称した。後に、再度寺に納め、加護を願ったという。
    後者の話の方が「昔話」として伝わる形に近いだろうか。

    榛名山麓には分福茶釜の狸だけでなく、城に住み着く狸もいたという。城で合戦になると、城方について鎧兜で戦ったり、大軍の幻を見せたりしたらしい。
    この狸も茂林寺に出た狸と同じだというのだが、はてさて。

    いずれにしても狸には、そんな想像を誘うところがあったということだろう。

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