経営パワーの危機 会社再建の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫) [Kindle]

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  • 企業家は作れる。
    起業家は天性のもの、ただ企業家は人を選び鍛えれば後天的に作れる。

    ■概要
    プロ経営者である著者の体験を基に、経営パワー=経営者としての胆力、能力に焦点を当てた小説調のビジネス本。
    とある大企業が多角化、子会社投資に失敗した所から、子会社再建を社内ミドル(30半ば)の主人公に任せる所から始まる。
    ・短期の止血(キャッシュイーブン)と長期の飛躍の両方をミッションに
    短期の方は資金、とにかくキャッシュが回るようにコストカット、改善、粗利をあるべき所まで戻すこと。一方で会社本来の強みまで削りとると、長期の飛躍のタネを消しかねない。
    長期の戦略はまず市場、そして競合(潜在含む)の認識から。セグメンテーションは単なる細分化ではない。自ら(自社)が市場と競合をどう認識し(軸出し)、どのようなステップでどこに行くのかを決めること
    ★またその短期、長期の話が全社として一つのシンプルなストーリーになって組織は動く

    ・戦略的企業家精神とMachiavellism
    「戦略的企業家精神」には戦略論的、分析的な束ねの手法が不可欠だ。その時の状況に照らしてカギだと思われる経営要素をロジックで繋げ、なるべく数字で裏をとりながら、これからの行動とそれによって予測される結果の因果関係を組み立てる。常に競争と市場の動きを背景に置く。そのロジックを社員に見せて彼らを論理的に納得させ、皆の行動の方向性を束ねていくのである。
    一方でこの考え方は独裁者を生みやすい。論理でも権力でもリーダーに逆らえなくなるからだ。論理で組織を抑える分、人情(浪花節)で組織からリーダーにもの言える余地を残しておくことが求められる。そうしないと組織が会社の成長に追いつかなくなったり、それ以前に後ろから刺されたりされかねない


    ■所感
    2000年ごろに書かれた本だが現代2022年になってもそのまま活きてくる、本質中の本質を突いた内容である。

    ・経営者論と典型的な日本企業
    分業、職能組織の一部を担うのと経営者とでは全く違うのだと、職能部門長から経営者になるくらいなら、小さな子会社社長や事業部の損益責任者を経ることが経営者を育てるというのは恩師から聞いていたが、すでに1980年代に見抜き世に提唱してきた三枝さんの眼力は想像もつかない。
    大企業もようやく社内ベンチャーなどに舵を切っているが、40,50のミドルを押し当てるのではなく、30前半のイキイキした人材に戦略思考を叩き込み、早くトップに据えるべきだろう。
    MBA上がりの人が経営企画という名の社内調整に留まっている大企業を見ると、ブレークスルーは厳しいように思える。

    ・経営パワーを自分がどう持つのか
    機会を伺う。損益責任を担う機会にチャレンジできる環境に身を置くこと、後見人となる尊敬できる企業家(経営者)の下で働くこと。
    まずはキャッシュ、とにかくキャッシュを死守する施策と行動を学ぶ。その中でビジョンと、常に長期収益の最大化のための"束ね"となる「戦略」を適切な時間軸で描けるか
    短期は行動してなんぼの世界かもしれない。ただし"戦略"という思考から経営者は逃げてはいけないことをあらためて痛感する三枝節ストーリーだった。

  • (「戦略プロフェッショナル」の後に発売されているが、話は独立していて続編ではない。)

    経営戦略について書かれている小説スタイルのビジネス本。普通のビジネス本よりリアル。

    「経営再建」、「経営者」の2軸がテーマ。

    経営再建のスタートポイントは「資金」。手元に残されたキャッシュと現金燃焼率を見て「時間軸」を決める。

    経営者を育てるには、「小さい組織でも経営責任を持たせる」ことが大切。
    大企業の中で営業や開発などの機能別の仕事に埋没してしまうのではなく、たとえ組織は小さくてもトータルの経営の観点から仕事をできる環境が必要。

    個人的には「戦略プロフェッショナル」よりも「経営パワーの危機」の方が面白かった。
    次回作の「V字回復の経営」も読んでみようと思う。

    ====
    No.432
    「生意気なことを申し上げますが、経営者というのは販売、生産、開発とか経理や人事、あるいは海外のこと、競争相手の動きなどあらゆることを眺めて『トータル・バランス』の中で舵取りをされるわけですね。しかし我々ミドルにはそんな見方を経験する機会はありません。それがミドルのミドルたるところだと思います」


    No.453
    「とにかく、本部制とか事業部制と言っても、幹部が営業や購買などの機能別の仕事に埋没し過ぎていると思います。言葉でなく、本当にトータルの経営判断をしろとおっしゃるなら、それなりにひと揃いの組織を与えてやらないと、社内で綱引きをするばかりです。ウチの社内でものが決まらないのには参ります」


    No.682
    若い者がリスクのあることにチャレンジするようにならなければ。
     失敗したことでいろいろ学んだ社員が先に会社を辞めて、そいつがどこか他の会社で腕を振るうんじゃ、こっちは損ばかりになっちまう。


    No.759
    大企業の本社組織に埋没するより、関係会社や海外の子会社に出て、たとえ組織は小さくとも三十代、四十代でトータルの経営の観点から仕事をすることを求められた社員の方が、ずっと経営のノウハウを身につけ、フレキシブルな考え方をするという現象が見られた。


    No.786
    機能別組織やその弊害を引きずった中途半端な事業部制組織が、外部変化への適応性に劣り、大企業病を起こしやすいのはなぜか。それはこれらの組織が商売の観点から見ると「自己完結的」でない(つまり商売をするのに必要な組織がワンセット揃っていないので、部門の責任者が自分の配下だけでお客の問題を解決することができない)ことが多すぎるためである。


    No.791
    事業部長は損益責任を追及されるだけでなく、商売全体への権限を与えられ、かなりのところまで自己裁量で戦略を進められるだけの組織と自由度を持ち、自分の首を賭けて孤独な決断を迫られないと、経営者的発想をするようにはならない。そうした自律性を与えずして、事業部長の経営マインドが足りないとか、後継者が育ってこないと社長が不平を言うのは完全に自己矛盾なのである。


    No.841
    企業が若い社員の経営パワーを引き上げようと本当に思うなら、一番大切にしなければならないのは社員の失敗体験である。その失敗の傷が「お金のかかった会社の財産」として次のチャレンジに生かされ、その人たちがまた次の世代を鍛えるというサイクルを回すことができるようになれば、その企業は大変な経営パワーを発揮するようになる。


    No.1303
    高成長を狙う小企業のトップは大企業の社長に劣らない難しい経営判断を次々と迫られ、短期間に凝集した経営経験を積む。会社の大小や業種に関係なく経営の修羅場での経営判断要素は共通しているから、一度社長の立場に立てばその人は経営者としての一般的ノウハウを蓄えはじめたと言ってよい。ナンバーツーと社長の間には埋めがたい差があり、いくらナンバーツーの経験を積んでも社長経験の代用にはならない。


    No.1925
    会社の「らしさ」とはその企業の強みのことだ。それなしで改善のシナリオは作れない。しかも、目先の短期的再建のために「らしさ」を捨てると、あとの成長が望めない。


    No.2114
    新たな事業機会を戦略的に生むためには、有能な経営者的人材を発掘してガンガン鍛え、事業の活性を最大限に引き出し、それによって生み出された新たな成長機会を獲得していかなければならない。一方、組織としての継続性の強みを保つとすれば、普通の社員もそれなりに働いてそれなりに幸せだという環境づくりが必要だろう。簡単ではないが、そうした二本立ての雇用体系はいずれにせよ必要になる。


    No.3315
    人が一人前の経営者になっていくとき「経営能力の醸成」のプロセスの中で鍛えるべきものはたくさんある。ここでは強いて三つだけ挙げたい。「リーダーシップ」「戦略性」「成功体験・失敗体験の蓄積」である。


    No.4656
    「成功のシナリオ」を立てるときに考えるべきチェック項目は競争・戦略・組織・損益・資金の五つ……
     再建のシナリオでのスタートポイントは「資金」であった。そして手元に残されたキャッシュと現金燃焼率を見て「時間軸」を決めるのが最初のチェック事項であった。
     これに対して成功のシナリオではスタートポイントは、「競争」である。そして「時間軸」も多くの場合「競争」で決まってくる。逆の言い方をすれば、戦略のチェック・サイクルを回す場合の入り口は、時間軸を最も厳しく縛ると思われる要素から始めるとよい。


    No.5065
    「彼らを、小さい組織でいいから、とにかく事業ユニットのトップに据えました。小さな子会社の社長とか、社内で自律性のある小さな事業単位を取り出して、それについて完全な経営責任を持たせるとか。他の者が逃げてしまうような大変な状況に放り込みました。私は若い連中には『重荷を負わせる』のが一番だと思っています」

    No.5204
    強力な経営リーダーは、「クールな戦略性」と「ホットなリーダーシップ」を兼ね備えていなければならない。現代の経営リーダーは人間劇を演じるだけでは成り立たず、かといって戦略論に頼りすぎれば空論に堕する。重要なことは、クールな戦略がホットな集団をつくること、つまり戦略が内容的に有効であると同時に、社内の人々を「熱くする」シナリオが提示されなければならないということだ。

  • 「気骨のある人材」、「商売の基本サイクル」、「成功のシナリオ」

  • 木下斉推薦(twitter)



  • <キーフレーズ>

    <きっかけ>”

  • 部下とのスキンシップと後見人(伊達の場合は財津)へのコミュニケーションを絶やさないこと、そして部下が同じ動機で働いているとは限らないことを知る必要がある

    動機は違っても成果は同じ。成果があやふやだから、動機を重視してしまう、するしかない。まずは、成果の厳密化だと思います。

    知財の成果ってずっと掴みどころがないと感じていました。しかし、そんな職種は他にも山ほどあって、様々な指標を参考にすれば、成果めいたものは定義づけられそうです。

    個々人に動いてもできることなどたかが知れています。いかに組織として共通の成果に目を向けられるか、そして、それに一緒になって進めるかどうか。まずは、それを実行するので組織として第一の目標であって、それを実行する本人が納得するかどうかは次の問題ではないかと思います。

  • 尊敬する上司に紹介してもらった本第2弾。いわゆる働き盛りの中堅が、いきなり子会社の社長に抜擢され、七転八倒しながら成長していくストーリー。第1弾に続き、小説チックに経営とは何ぞやを学べる。金言が多いので、2つたけピックアップ。

    不振が深刻化し、ダメ症状が出始めたら…
    『「弱いところを直そう」は悪手、「残された強みは何か」ということだけを考えて、その強みを利用して救える部分だけを引っ張りあげることだけにひたすら集中する。

    全ての経営者に送る…
    『失敗したっていいじゃないか。日本中で増殖してしまった評論家たち、つまり自分はチャレンジをせずに他人の評論ばかりをしている連中が何と言おうが、失敗しても前に進み続ける者の方が、たとえ失敗してもよっぽど立派じゃないか。』

  • 30代後半の今、やはり厳しいチャレンジをしていかないといけないな、と思った。

    この本の主人公のように「自分の人生、これでなんとかなりそうだ」と感じられるような苦しさを乗り越える経験を積むことが必要なんだろう。

    前作に比べ、戦略論的な部分は少なかった印象。
    その分、小説部分が面白かった。
    少し量が多かったけど、一気に読み終えることができた。

    オレももっともっと頑張ろう。

  • 新米の経営者が直面する様々な試練が小説形式で面白く分かりやすくコンパクトにまとまっている。どの試練もとても共感でき、また、解決への道筋に示唆を与えてくれる。

  • Amazon kindle本セールで購入

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著者プロフィール

(株)ミスミグループ本社名誉会長・第2期創業者。一橋大学卒業、スタンフォード大学MBA。20代で三井系企業を経て、ボストン・コンサルティング・グループの国内採用第1号コンサルタント。32歳で日米合弁会社の常務、翌年社長就任。次いでベンチャー再生等二社の社長を歴任。41歳から事業再生専門家として16年間不振事業の再生に当たる。2002年、ミスミCEOに就任。同社を340人の商社からグローバル1万人超の国際企業に成長させ、2021年から現職。一橋大学大学院客員教授など歴任。著書4冊の累計100万部。

「2023年 『決定版 V字回復の経営 2年で会社を変えられますか? 「戦略プロフェッショナル・シリーズ」第2巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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