最後の相場師 是川銀蔵 [Kindle]

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  • 先日レビューを書いた、「天才たちのライフハック」に出てきた時に「基本の情報は経済誌など一般的に手に入る情報を用いて2年先をロジカルに予測する。」という是川銀蔵の詳細が気になりアマゾンで購入した。

    株式市場についてはある程度知っているつもりでいたが、「相場師」や「仕手戦」という聞き慣れない言葉が多く出てきたのは、時代を反映しているようだ。

    当時の株式市場は相場師と呼ばれる投資家たちによって株価が操作されることがあった。買いや売りを戦略的に行い、株価を操作して利ざやを取る。そういった相場師たちが火花をちらして戦った時代というのがあったというのがまず衝撃である。

    そのような中で、是川は自身を「相場師ではなかった」と評する。自身の定義では、相場師とは調査研究をせず僥倖をあてにした投機的な行動をする人のこと。しかし、是川銀蔵の投資戦略は極めてロジカルであるという。すなわち、当時の経済政策や景気の流れを読みながら高騰すると考えられる分野の中で企業としての生産力や価値があるのにもかかわらず注目されていないため、またその時点での景況が悪いために低くなっている株を見つけ出し、周りに気付かれないようにひっそりと買い集めるのである。

    しかし現在の感覚で見ると、まず是川銀蔵の人生が壮絶である。兵庫県赤穂の貧乏漁師のもとに生まれ、丁稚奉公に出された時に、こき使われながらもそろばん簿記会計を独学、奉公先が倒産したあとはロンドンで勉強するために密航を企み、満州まで渡ったは良いもののその時に一次大戦が勃発して立ち往生してしまう。そこで、満州で日本軍についていき商売を始め、軍が頭を悩ませていた会計について伝票処理などを簡単にやってのけて軍に取り入る・・・

    これ以上書いてしまうと面白くないのでやめるが、その時点でもうフィクションかよと思ってしまう人生である。やはりこの時代の人々は生きることに対するストイックさが違う。

    一方で、この頃から情勢を読みながらリスクを取って行動する習性があったようだ。
    軍に取り入ったあと、軍の御用商人となり貿易会社と立てたあとは、軍隊に物品を納入する一方で、中国では不吉といわれる桐を和箪笥の材料として日本に輸出して儲けた。

    またトラブルで帰国させられ、一念発起して再度青島に向かったときには、日本領として開発される青島では、中国で1厘銭を集め、合金として鋳造し大戦のために需要が高まっていた非鉄金属として日本でに売った。

    またしてもトラブルで大儲けしたにもかかわらず全て失って帰国。それでもバイタリティの高い人である、戦後の闇市に出店し、右から左へものを流す。そのうちに関東大震災が発生。大阪の闇市にいた是川は、第一報を聞いたあとにひらめき、大阪じゅうのトタン板と釘を買い占めて、その後東京壊滅の報が入って高騰したあとにうって大儲けした。

    さらに関東大震災については、他の商人が物資不足になっている東京で物を売ろうと動いている中で、是川は「購買力がない上に、物資を置く場所もないため、結局投げ売りになる」と周りと同じ行動をとらない。逆に焼け跡の瓦礫から金物を安く買い集め、地方に売るという逆張りで大儲けした。

    経済の流れを読むのは直感ではなく、知識と分析力だということを是川の人生は物語っている。「経済の変化を本当に調べようと思ったら、主要国家の財政計画を全部調べなければならない」といって各主要国の財政を調べていた結果、1933年にロシア・英国・米国と言った国のシベリア開発費・植民地経済振興費・エネルギー対策費といった項目が異常に伸びていることを見つけ、そこから平和的な名目に隠れた軍備の増強であることを導き出す。ここから是川は日本で最初に「対米英決戦不可避論」を唱えたという。これを元に、戦争のために必要になるという見通しで自ら韓国に鉄鋼鉱山を探しに行くから驚きである。

    これぞ経済の先読みというエピソードは日本セメント株だろう。1973年のオイルショック後に、総需要抑制策を取った政府の影響を大きく受けて公共事業がガタ落ち、その結果セメント業界は不況に陥っていた。しかし、田中角栄総理の辞職からロッキード事件の発覚、そして福田赳夫内閣の誕生後の混迷の中で、是川は福田内閣が公共事業を中心とする景気対策を行うと読んでいた。結果的に、1977年7月に福田内閣は景気対策として大規模な財政出動を発表、そこからセメント不足になりセメント業界は大きな好況に沸いた。当然株価もうなぎのぼりで約30億円を儲けたという。

    自社鉱山を所有している会社のみ、銅の需要が回復した時に対応できると読み、同和鉱業株を買っていた話も面白い。

    それぞれのエピソードが手に汗握る展開で面白い。もちろん失敗も多くしており、売りどきを逃したり、不必要な買いもしているのは人間味がある。

    しかし、これらのエピソードから学べるのは教訓である。是川は以下のカメ三則を説く。

    1.銘柄は水面下にある優良なものを選び、値上がりをじっくり待つ。
    2.毎日の経済の動きから目を離さず、自分で勉強する。証券会社・新聞・雑誌の類に惑わされないこと。
    3.過大な思惑はせず、手持ちの資金内で行動すること。

    今日でも有用な3則ではなかろうか。

    しかし、安いからといって会社の経営が悪いせいで利益が低いとか、業種自体が時代遅れというものは買うべきではない。


    当時と今の時勢は全く違うが、それでも重要なのは自分で情報を集め、勉強し、ロジカルに未来を予測して自分の行動を決めるという姿勢であろう。受け身で周りの意見に合わせていては大きくはなれない。

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