錦繍(新潮文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 何度目かの再読。

    紅葉が終わりに差し掛かると、読みたくなります。

    生きていると、綺麗事では済まないことがあって、
    自分の努力ではどうしようもないことがたくさん起きます。

    あの時もし、あの時なぜ、
    と思うこともたくさんあります。

    でも、自分の選択を信じて受け入れて生きていく、
    人のせいにはしない。
    そして、きちんと手放していく。

    人を許すことはとても難しいことだけど
    それによって自分の心も救われることもあるのかもしれない。

    綺麗な文章です。

  • 美しくロマンティックな往復書簡小説。
    元夫婦とはいえ他人行儀だなとか、そんなことまで書くかななどと思いながら読んだ。
    過去のあの時に至るまでに何があったかや、当時聞きたかったこと、言えなかったことを明かしながら、そしてそれぞれの今この時も進んでいく。
    2人に新しい光が差し込んだようだった。

  •  二人の男女が織り成す、決して単純ではない、その後結ばれることもない、けれど確かにそこにあるのだと知らされるような情を感じるお話でした。

     事の起こりは、別々の生活をしていたはずの男女が偶然、蔵王のロープウェイで乗り合わせたことでした。
     蔵王に向かおうとしたのは女も男もたまたまで、その日に何かがあったわけでもなく、その時間に示し合わせたわけでもなく。ただいくつもの奇跡のような偶然が重なって、その日その時のそのゴンドラで女と男は顔を合わせることとなりました。
     かつて――十年前には家族だった相手と。
     十年前、とある事件がきっかけで別れることとなった二人の止まった時間は、この偶然の再会から突然動き出すこととなります。
     逢瀬があるわけではなく。
     よりを戻すということでもなく。
     ただ二人の間に交わされる長い長い手紙を通して、彼女や彼がどのようになにを思って、どう生きてきたのか。それを読むうちにどんどんと、とうに沈めたはずの過去が浮かび上がって形をもっていく。
     こんな恋愛の形もあるのだと、思わず引き込まれていくようなお話でした。

     話は二人の長い長い手紙のやりとりのみで構成されています。
     手紙の文面で物語が進むので、物語全体は淡々と、また粛々と進むように感じられます。書き言葉であるからか、全体的に言葉が丁寧で、しっとりとして、美しい。ドラマチックな展開はありませんが、往復していく手紙を読んでいるうちに、二人の想いが形となっていくようで、とても静かな愛の形を見た心地です。
     愛し合っていたのに、たった一度の事件がために別れることとなってしまった人たち。すでに十年が経ち、お互いに別の大切な人がいる人たち。
     よりを戻して、再び十年前のような恋をすることはできない。けれど、一度滑り出したペンは、するすると手紙の続きを綴ってしまう。
     静かで、情熱的で、独りよがりで、だからこそ真実を浮き彫りにする、『手紙』というものの力を見たように思います。

     タイトル通り、とても美しい話のように感じました。

  • 大真面目な内容なのに、なぜか途中で「プッ」と吹き出してしまうのは私だけでしょうか。

  • 何度も読み返している。
    どこがよいのだろう。
    運命を辿る。誰のせいにもしない。自分のせいにもしない。

  • 初めてオーディブルで聴読。
    手紙構成のお話なので、聴きやすかった。
    有馬には腹が立つ事が多すぎるけれど、最後は登場人物、みんなの幸せを願ってしまう未来ある気持ちの良い終わり方だった。聴読でも感じられる言葉の美しさは文字で読むとより感じられたかもしれない。

  • YouTubeで百田尚樹さん、居島一平さんが傑作だと紹介されて、とても読みたいと思った。ちょうど2023年のゴールデンウィークに入る前日に、仕事終わりに新宿の紀伊国屋へ足を運び購入した。
    冒頭の書き出しから、心を捕まれ、最後まで夢中で読み終えた。
    あまり普段は本を詠まない方だが、本当に面白かった。マチネの終わりを読んで以来、世界観に引き込まれていった作品だった。
    時代背景でいうと、主人公達は私の親世代の設定だが、いやぁ、この世代人達って、大人だったんだなとつくづく思った。
    まず、元旦那さんは、27,28歳頃の設定だけど、不倫相手との逢い引きに祇園の旅館を使うなんて、今の感覚では信じられないと思う。
    そして、この有馬さんは、現在まで女性が切れたことがないようなので、もてるタイプだと思う。かなりの美女に心中に巻き込まれたのだから、相当な恨みを買ったのだろう。とても重いテーマがベースにあるけれども、主人公たち二人の人柄が誠実なので、読んでいて爽快感があった。最後にお二人は相思相愛のように思えたので、よりを戻すのかと思ったが、最後の手紙を最後に関係を断ったようなので、残念に思った。
    百田さんもおっしゃっていたが、文章かとても美しいと思った。

  • なんて美しい書き出し。1通目の手紙は蔵王の壮大な自然と心理描写がこれ以上ない塩梅で混ざり合ってて気持ちよかった。
    緻密で隙のない描写力。感嘆。
    愛と再生の物語。まさにその通り。
    また歩き出さなきゃね

  • 当時はこれくらいの手紙を書いて当然だったのだろうかもしれないが、手紙のやり取りという突飛な設定がちょっと邪魔だった。
    話の内容は面白かったと思う。スラッスラ読めたので。

  • 運命的な事件で離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る。一月中旬から十一月中旬までに交わされた十四通にわたる往復書簡を金秋の11月に読み終えた。

    いつか、妻と二人で、蔵王を訪れ、ダリア園からドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中から、金秋に染まる紅葉を眺めたい。 
    十一月十八日 

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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