- Amazon.co.jp ・電子書籍 (179ページ)
感想・レビュー・書評
-
序 章 なぜ西洋は衰退したのか
第1章 ヒトの巣:民主主義の赤字
第2章 弱肉強食の経済:金融規制の脆弱さ
第3章 法の風景:法律家による支配
第4章 市民社会と非市民社会
結 論 大いなる衰退論からの示唆詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
・停滞も成長も、その大部分が「法と制度」が招いた結果だ
・西洋民主主義のいちばん目につく不調は、ここ数十年で雪だるま式に膨れあがった、巨額の債務だ。日本の債務の山はGDPの236%に近づき、20年前の3倍以上にのぼる
・問題の核心は、公的債務というしくものおかげで、現世代の有権者が、投票権を持たない若者やまだ生まれていない人たちの金を使って生きていけることにある
・社会とはまさしく契約である<国家は>いま生きている者たちの間の協働事業であるというだけでなく、生きている者たちと亡くなった者たち、これから生まれ来る者たちの間の協働事業でもあるのだ。世代間の社会契約をいかにして回復するかが、成熟した民主主義社会が取り組まねばならない最大の課題だ
・財政の死のスパイラル…信用の喪失→借入コストの上昇→財政支出削減と増税を余儀なくされて終わりを迎える。シナリオの最終段階には、何らかの形の債務不履行とインフレーションが必ず伴う
・過剰な公的債務は、世代間の社会契約が破綻していることの症状でしかない
・複雑すぎる規制は、治療法を装った病のそのものだ
・複雑な金融界の脆弱性を軽減するには、規制を簡素化するとともに、執行を強化するしかないのだ
・経済競争力の専門家は、競争力という用語の定義として、効果的な法律を成立させる政府の能力や、物理的・知的所有権の保護、汚職のなさ、法的枠組みの効率性(適正なコストと迅速な裁決を含む)、新規事業の立ち上げやすさ、効果的で予測可能な規制までを含めている
・事業設立と建築許可取得、不動産登記、納税、物品輸入、契約執行の6つの手続きを完了するのにかかる日数
・巨大な権力<この場合、国家権力>は、もしもその目的が一人前の人間を育てることにあったとすれば、父親のような力になるだろう。だが実際はその反対で、彼らをいつまでも幼児期にとどめることだけを追求する。そして社会の表面を、ささいで、手の込んだ、ややこしい、統一的な規制の網で覆ってしまう。そのため、どんなに独創的な精神やたくましい魂であっても、頭角を現すための道を開くことはできない。統治者は市民の意思をくじくことはないが、それを弱め、ねじ曲げ、方向づける。行動を強いることはまずないが、つねに反対する。ものごとを葬り去りはしないが、生まれないようにする。暴政を行いはしないが、市民を妨げ、骨抜きにし、気力を奪い、情熱を失わせ、当惑させる。そしてついには、一人ひとりの国民を、政府によって注意深く見張られる、臆病で勤勉な動物の群れにおとしめるのだ
・政府がいたるところで団体にとって代わろうとるすなら、事業や産業だけでなく、道徳性と知性までもが、大きな危険にさらされるだろう。人々が互いに働きかけることではじめて、感情と思想は自らを刷新し、心は広がり、人間の精神は発展するのだ
・これからの時代に、諸制度を元の状態に戻し、大いなる衰退を覆すこと、そして、真に自由な社会の基本原則に立ち戻ることが、わたしたちの課題だ。要するに、海岸を清掃するときが来たのだ -
ニーアル・ファーガソンの最新作ということで読んでみたが、「憎悪の歴史」や「文明」というこれまでの著作と比べると、ややストーリーが明確でないというか、分かりにくい感じがした。もしかすると、kindle版で読んだからかもしれないが。
西洋の没落という古くて新しいテーマを取り上げているが、世界の各国・地域の発展は、何よりもその国・地域が採用する制度により決まるという立場に立つ。西洋の発展を支えた制度として、民主主義、資本主義、法の支配、市民社会の4つを取り上げ、これらが近年はうまく機能していないことを示し、これが西洋の没落の原因であるとする。
最初の3つはよく言われるが、市民社会というのが目新しく、これが社会や経済の発展にどう機能したかという部分は中々面白い。この4つの要因について、「自主」や「自助」が失われ、国家に任せていることが問題であると主張されているようだ。ただ、これが十分論証されているのかというと、あまり腑に落ちない。部分部分のエピソードは面白いし説得的なのだが、それが全体を貫く背骨になっていない気がする。
着眼点や歴史学者ならではの視点もあり、悪くはないのだが。