白洲次郎 占領を背負った男(下) (講談社文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 占領下の日本で吉田茂の側近として活躍した白洲次郎の人生を描いた評伝。

    下巻はGHQ民政局との戦いや通商産業省創設、晩年までが書かれています。

    日本の独立復興に命がけで働き、形が出来上がったらサッと身を引く。白洲次郎の確固たる哲学に、人間としてこうあらねばと強く感じます。

  • 本人はそう呼ばれることは不本意だったろうけど、吉田茂の側近として戦後日本の復興を支えていく。政治家でも実業家でもないのにそのどちらにも大きな影響を及ぼしていく生き方は「白洲次郎」としか言えない感じ。。見た目もかっこよすぎるオジサマだけど生き方もかっこいいわー。戦後の有象無象な中だから、こういう、立場のはっきりしない人が大太刀回りをしてくれるのは大将も心強かったのではと思う。いつか大河ドラマで取り上げたら面白そうな人物だと思う。鶴川暮らしも気になるので、そちらは正子さんの著作にて楽しみます。

  •  学校の歴史の授業では、近現代に至るあたりで学期が終わってしまい、そのため学期末の試験などでもあまり触れられない内容なのではないでしょうか。しかし現代の日本を知る上では、この時代の話を抜きにしては語れないはずです。この時代の話は、歴史上重要性が高いはずだと常々感じていました。
     本書では、占領中の日本でGHQに抵抗らしい抵抗をした、吉田茂と白洲次郎の活躍ぶりが描かれています。それを今の政治家と比べると異質なものを比べているような感覚を覚えます。同じ職業とは思えません。
     米軍基地を除いた日本の独立の可能性があった反面、朝鮮半島のように東西に分断された可能性があったこと、警察予備隊の設置の意味など教科書には掲載されないことを知識として知ることもでき、当時の日本を取り巻く情勢の複雑さの一部を理解することができました。
    裏方に徹し、吉田茂を支え続けた白洲次郎のプリンシプルに触れることができます。

  • 上巻は、表舞台に立つまでの生い立ちから第二次世界大戦直後まで。下巻は戦後から次郎の死去までの後半生を丁寧に追っている。

    戦後、一時期は政治の舞台裏に参加したこともあるものの、次郎は基本的には戦後日本の経済復興と自立を目指し、経済界で活躍している。現在も残っている食品会社や電力会社の立ち上げにも加わっていて、この会社と白洲次郎にかかわりがあったのか、という驚きも多かった(白洲次郎に詳しい人からしたら、何を今さら、と言われるのだろうが)。

    上巻でも思ったが、この白洲次郎という人は確かに傑出した人物であり、一流のダンディズムを貫いた人であり、戦後日本の復興に大きく貢献した重要人物の一人でもあるのだが、一方で今の令和の時代にもしこのタイプの人がいたら、即炎上するか、部下に訴えられるか、上司に爪はじきにされるか、世間に疎まれるかで、なんであれその能力と知性をフルに発揮するのは恐らく無理だろう、という印象である。それぐらい、その言動は突飛でもあり、型破りでもあり、常識外れでもあり、時に人権を無視しているようにも見えてしまうのである。

    ただ、いわゆる「偉人の伝記モノ」は、とにかく当の本人の美点ばかりを並べ立てるものが多い中、欠点や明らかに美徳と言えないような部分にまで踏み込み、書き込んでいることは評価したい。あらゆる面で清廉潔白、才色兼備で完全無欠な白洲次郎像を読まされていたら、たぶん納得できなかったし、最後まで読まなかったかもしれない。清濁併せ吞むからこその偉人なのだ、ということをつくづく実感させられる。

  • 白洲次郎の名前は、これまで聞いてはいたが、この本を読むまでは、詳細は知らなかった。むしろ妻の白洲正子の方が有名かも知れない。
    「名建築で昼食を」というTV番組があり、その中で旧鶴川村(現町田市)の茅葺農家を改造した「旧白洲邸(武相荘:ぶあいそう)」が取り上げられた。そこを訪れた時に、偶然この本を買ったのがきっかけである。
    白洲次郎は、政治家でも、官僚でもないのに吉田茂の懐刀として、終戦直後の混乱期にGHQとの交渉窓口となり、「従順ならざる唯一の日本人」として本国に打電されるなどのエピソードには事欠かない。
    またサライ等の雑誌で特集され、NHKのドラマで何度も放映される等、筋を通した生き方や英国流のダンディリズム(ケンブリッジに9年間留学)と言った魅力で、それなりに人気があるようだ。(もっとも吉田茂と同じで、死後評価が上がったという意見もある)

    本書は、白洲次郎の評伝として、山本七平賞受賞を受賞しているだけあって、テンポよく読みやすく、生身の白洲を見ているようなリアル感がある。
    もっとも白洲次郎に関する一次資料は、ほとんど現存しておらず、実像としての次郎は謎が多い人物であり、関連本だけでなく、生存者へのインタビューなども交えて、白洲に迫ろうとした著者の苦労が想像される。

    本書は、白洲の幼少期から始まっているが、圧巻は、吉田茂に抜擢されて、敗戦後のGHQとの交渉窓口となったことである。この時に憲法改正問題があり、GHQ民生局の理想主義的な若手弁護士達が一週間で作り上げたと言われる現憲法の素案を巡ってのやりとりである。白洲は憲法学者でもないので、裏方というか側面援助しかできないのだが、民生局の陰湿な手口で煮え湯を飲まされている。外務省に保存されている「白洲手記」に「・・・(略)・・・『今にみていろ』ト云フ気持抑ヘ切レス。ヒソカニ涙ス」と記されているという。また「日本は戦争に負けたが、アメリカの奴隷になったわけではない」等の名セリフを残している。
    その後、白洲は商工省を改組し貿易に重点をおいた通商産業を設立したり、サンフランシスコ平和条約の全権団顧問、公社民営化(専売公社・九電力分割)などに関わったが、吉田退陣後は、政治とは縁を切り、実業界に戻った。
    敗戦直後の暗い時代にこんな気骨のある男がいたというのは、一服の清涼剤である。

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著者プロフィール

昭和35年12月24日愛知県名古屋市生まれ。東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。平成20年6月末でみずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。
著書に『白洲次郎 占領を背負った男』(第14回山本七平賞受賞)、『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』『吉田茂 ポピュリズムに背を向けて』『佐治敬三と開高健 最強のふたり』(以上、講談社)、『陰徳を積む―銀行王・安田善次郎伝』(新潮社)、『松下幸之助 経営の神様とよばれた男』(PHP研究所)、『西郷隆盛 命もいらず名もいらず』(WAC)、『胆斗の人 太田垣士郎―黒四(クロヨン)で龍になった男』(文藝春秋)、『乃公出でずんば 渋沢栄一伝』(KADOKAWA)、『本多静六―若者よ、人生に投資せよ』(実業之日本社)などがある。

「2022年 『稲盛和夫伝 利他の心を永久に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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