君の働き方に未来はあるか?~労働法の限界と、これからの雇用社会~ (光文社新書) [Kindle]

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  • 労働法の専門家による雇用に関する本。正社員、非正社員など雇用形態それぞれの特徴、今後の趨勢、対応策を述べている。正社員の安定性も今後は崩れていくと予測し、若者には専門性の高い知識・技術など、「転職力」を高めていくことを推奨している。学術的にまとめられており、わかりやすく有意義な役立つ内容であった。
    「働く意欲ということを考えれば、勤続年数に応じて給料が自動的に上がる年功型賃金の方が企業には都合がいいはずなのです。それでも成果主義を導入するのは、それだけ正社員として待遇するに値しない労働者が増えてきたことを示しています」p42
    「正社員と非正社員の比率は、現在ではおおよそ2対1くらいとなっています」p47
    「企業は、正社員にはできるだけ長く働いてもらいたいと考えるため、長く働いた方が得になるような給与システムを設計している」p51
    「法律の力を借りなければ正社員になれない者は、逆に言えば、企業が正社員とするに適していないと考えている非正社員ということになります。企業の本音としては、いくら法律で定められても、そんな人材を正社員に押し付けられては困ります。そこで企業は、対策を練ることになるでしょう」p57
    「必要なのは、能力の劣る正社員を解雇しやすくして、正社員のポストを明け渡すことができるようにすることであり、それによって非正社員が正社員ポストを獲得する可能性を作り出すことです」p66
    「非正社員には、正社員のような、「いつでも」「どこでも」「何でも」という要素がないだけ自由度が高く、実際、そのような理由で自発的に非正社員になる人もいます。ただ、非正社員のままで経済的に自立していくのは至難の業です。だから、非正社員として働くことは、自らの力で生活を維持していこうという人には薦められるものではありません」p68
    「解雇ルールをいますぐに変えて、解雇をしやすくするというシナリオは簡単には実現しないでしょう。正社員や、それを組織する労働組合は大いに反対するでしょうし、解雇が増えるという漠然とした不安が人々を襲い、非正社員も含めた多くの労働者の反対を招くのは必至です。実際に解雇されるのは、企業にとって戦力にならないと考えられている労働者だけです。これは別の言い方をすれば、能力のある非正社員にとってはチャンス到来ということです。しかし、解雇という言葉のもつ強いインパクトが、そうした冷静な判断を難しくしてしまうのです」p114
    「ブラック企業を糾弾しても、問題の本質的な解決とはなりません。そのうちに、ブラック企業にしか行けないお前がダメなんだ、と言われ始めるかもしれないのです」p187
    「国の教育への投資は男女平等に行われています。このことは、女性の進学率が高まるなか、女性をうまく活用できていない社会はロスが多いことを意味しているのです」p205
    「大学で接する学生は、ほんとうに無邪気です。つまらないことを大声で話し、よく笑っています。これはこれで平和な光景ですが、少し心配になります。私の知る欧州の大学生は皆、もう少しシリアスな顔をしています。また、知的な好奇心も、日本の大学生よりもっと強くもっているように感じます。それは、日本で接するアジアからの留学生も同じです。日本の大学生は、次のことを知っておく必要があります。それは第一に、国際社会では、日本の企業のような採用の仕方は行われていないということです。日本以外の多くの採用現場では、まず、「あなたは何ができますか」ということを聞かれます。すなわち、企業というのは給料を払う以上、どれだけ貢献をしてくれるのかをまず問おうとするのです。ガッツとやる気と協調性だけは十分にあります、という答えだけでは通用しません。もう一つ知っておく必要があるのが、こうした採用方法は、今後、外国の企業だけではなく、日本の企業の間にも広がるかもしれないということです」p226
    「新たなルールに機敏に対応して、高度成長期に育った親世代とは異なった生き方の戦略に乗り換えることが大事です。これからの社会を生きていく若者は、親世代の意見は聞かない方がいいのです」p228

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  • 「あなたは、うちの会社で何をやってみたいですか?」

    この本のプロローグは、こんな感じで始まります。
    自分がしたい事が、会社の中で出来ている人は、非常に少ないのではないでしょうか?

    自分の仕事に満足している人も多いかもしれませんが、不満を持ったり、
    組織の中での、規則、見えない規則、人間関係と、単純に「自分の仕事をやる」ことは、
    難しいのが現実ではないでしょうか?

    この本、「働くとはどういうことか?」を、普通の人がとっつにくいと思う、労働法から、
    優しく解説をしてくれている本です。

    学生にとっても、そして、働いている人にとっても、間違いなく納得する内容ですし、
    私の場合も、もう少し、前に読んでいればなと、思う内容です。

    これから、雇用環境は、ますます厳しくなるでしょう。
    そんな不安や現実的な厳しさを考えた上で、自分達に、「さぁ、どう考える」かを
    レクチャーしてくれる本だと感じます。

    著者は、本当に頭がいい人だと思います。頭がいい人の文章は、独りよがりになる傾向がありますが、
    法律が、専門的でない自分やまた、学生でも読みこなすことができます。

  • 労働法の研究者である著者が、雇用の実態や今後の働き方について初級者向けに解説している。
    著者の結論は単純明快である。「法に守られることを期待するのではなく自身の力を養え」の一言に尽きる。世論は非正規雇用の見直しやブラック企業の摘発にベクトルが向いている。しかし、非正規雇用を減らせば正社員としての優位性はなくなるし、逆に非正規雇用の方が良いと思う人も大勢いる。ブラック企業の認識についても何をもってブラックとするのかは個人差がある。つまり、表面的な問題だけを捉え規制を強化することは、逆に生きにくい世の中を生み出す可能性がある。著者はそのような世論の流れに警鐘を鳴らし、これ以上法律で個人を守る余地もそうないことから、自身の力を養うべきだと主張している、
    具体的には、個人がプロの道を目指すべきだと著者は提言する。「社畜」とならないためにも、他の企業から欲しいと思われるような人材になる必要があるというわけだ。しかし、まだ日本の労働市場は流動性に乏しいと思う。以前と比べ転職する人の数は増えているものの、働く側の意識も企業側の意識も「終身雇用」の亡霊にとりつかれているのではないだろうか。
    今後は働き方や仕事に対する価値観もより一層多様化するだろう。ホワイトカラー・エグゼプションも、単なる時間外手当の禁止と受け止められがちだが、実は働き方の多様化と連動するものであるということを、政府はもう少し世論に訴えかけていっても良いのではないだろうか。残念ながらワーク・ライフ・バランスほど世間の理解は進んでいないように思う。

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著者プロフィール

1963年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(博士[法学])。神戸大学法学部助教授を経て,現在,神戸大学大学院法学研究科教授。主な著書に,『君は雇用社会を生き延びられるか』(明石書店),『人事労働法』『AI時代の働き方と法』『雇用社会の25の疑問』(以上,弘文堂),『デジタル変革後の「労働」と「法」』(日本法令),『労働時間制度改革』『非正社員改革』(以上,中央経済社),『労働法で人事に新風を』(商事法務),『経営者のための労働組合法教室』(経団連出版会),『会社員が消える』(文藝春秋),『君の働き方に未来はあるか』(光文社)等。

「2021年 『誰のためのテレワーク?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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