無罪請負人 刑事弁護とは何か? (角川oneテーマ21) [Kindle]

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  • 「日本の刑事司法の病は深刻である」。無実の被告のために長年検察・司法と戦ってきた著名な刑事弁護人が、人権を無視した強権的でアンフェアな日本の刑事司法の問題点を鋭く指摘した書。2014年刊行。

    冤罪事件の多発。著者は、その温床となっているのが、検察による「予断と偏見からなる事件の設定とストーリー作り、脅しや誘導による自白の強要、否認する被告人の長期勾留、裁判所の供述調書の偏重」だという。「社会的関心を集める事件では、これにマスコミへの捜査情報リークを利用した世論操作が加わる」。

    そして、「よほどの幸運が重ならなければ、無罪確定にまでこぎつけることはできない。そうであれば、「身に覚えがなくても、さっさと罪を認めて執行猶予付き有罪を狙ったほうがいい」という誘いに乗りたくなる。いわば泣き寝入りをさせられるということである。これが一〇〇%近い有罪率の内実である」、と。

    著者は、絶望的に不利な状況かで検察に対抗する手立てとして、「逮捕前から弁護士が付き、身体拘束された場合を想定した準備をしておくこと」、「被疑者ノート」に「日々取り調べから房に戻って、検事に何を言われ、どういう心境で調書を取られたかを記録する」こと、「被疑者が弁護士に手紙を出すといった方法のほか、それを聞き取った弁護士が当日のうちにまとめて確定日付を取っておく、あるいは録音するといったやり方がある」と書いている。ただ、弁護側と警察・検察側の力の差は歴然で、検察の魔の手をはね除けて無罪を勝ち取るのは並大抵のことではない(余程の幸運が必要だ)。そして、「無実を信じて支援してくれる仲間がいること、囚われの身となっても家族や職場がそのまま保たれていること」など被疑者の心の支えが重要になる。

    何故、このような人権無視の前近代的な捜査手法が改められないのか。「本来なら真実を追究すべき取調官が、なぜそこまでして、人を陥れようとするのか」。この点について著者は、「一言でいえば、警察にしろ検察にしろ、組織の論理が最優先されるからである」と書いている。「組織上層部で決定されれば、構成員はその方針の実現を最優先に動く。真実究明は二の次」なのである。そしてその根底には、検察官・検察組織のエリート意識がある。自分達が、愚民を正しい方向に導くために、見せしめとして罰しているのだ、という驕りの意識。自分達は社会正義を実現しているのだから、時に冤罪が生じてもそれは些細な社会コスト、くらいに思っているんだろうなあ。

    特に、巨悪を罰することが期待されている特捜部には、手柄を立てなければならない、という強いプレッシャーがあるから、強引な捜査・立件が行われがちであり、途中で誤りに気づいても引き返せずしばしば暴走するのだという。「私はこの際、いったん特捜部をなくした方がいいのではないかと思う。著者は、「特別捜査」という看板を掲げた数十人の組織が、一年を通して事件を追っているのは不健全だ。その弊害が一挙に噴出した今こそ、特捜部の看板をいったん下ろすべきだと思う」と提言しているが、組織防衛こそが役人の行動原理だから、まあ無理だろうなあ。

    検察に負けず劣らず質が悪いのがマスコミだ。政治や行政を監視するマスコミの報道機能は否定し得ないが、正義を振りかざして冤罪かもしれない被告人やその家族・関係者を徹底的に叩くのは、ホントやめて欲しい。悪意があるとしか思えない演出の数々。本書を読んでその怖さを改めて感じた。

    国策捜査(「検察、なかでも特捜検察が、ある政治的意図や世論を動かすために進める捜査)には、アメリカの陰が常にちらついている、というのも気になった。


    昨今の世情について、「私が感じるのは、人間というものの弱さに対する寛容や、人が人を裁くことの難しさゆえの謙虚さが社会で薄れてきたということだ。代わりに「犯罪者」の烙印を押した人間を徹底的にたたきのめすという仕打ちが目立ってきた」という著者の指摘、全く同感だ。棲みにくい、やな世の中になってきたなあ。

    本書には、日本の刑事司法のリスクが網羅的に描かれている。誰しもが突然検察の罠に嵌まる可能性がある。いざというときの心の備えとして、一度は読んでおくべき本だと思った。

  •  ロス疑惑とか、俺が小学校くらいの頃の事件じゃなかったっけ。市井の人が、メディアや司法の標的にされる恐怖がうかがい知れた。当時のメディアというのは恐ろしいな。ただ、それも売れるから、注目を集められるからという視点でいえば、それを求めた自分たち市井の人間のありようが問われるところだろう。ただ、安易ともいえる形でそれに乗った結果、今、マスゴミとか言われて、新聞やテレビ報道の信頼が失われた結果を招いているんじゃないだろうか。愚かなのは一般ピーポーであるにしても、そこから吹く風に乗っかっちまうと、いずれ自分が吹き飛ばされるのだろうな、と感じる部分もあった。そういや、安部英氏については昔、小林よしのりの『ゴーマニズム宣言』で読んだっけ。あれなんて、まさに安部英氏をカリカチュアしたマンガを多々だしていたものだ。その後、なんとなく面白くなく思えてきて小林よしのりのマンガを読むのはやめてしまった。今、あの作家さんも一時ほどの話題性はないだろう。

    読んでいて、今の司法のありように怒りと恐怖を覚えた。標的になるような人は、その世界の第一人者であって、そういう人はどこかで無理をしている、だから冤罪を作る必要はなく、叩けば落ちるものだ、というのは佐藤優氏の本で述べられた話だ。そういった話が、現実にはゴロゴロしているんだね。

     アメリカの影を感じるとしたくだりもあった。この著者の本として、最近ハードカバーの二巻本が出て、そちらも実は先に入手している。カルロス・ゴーンの事件について出てくるそうな。世界との対比もあわせて語られるのかと思う。ただ、なんというか、日本にしても、世界にしても、実は思っている以上に力がものをいう暴力的な世界なのだな、というのを感じてね。だからこそ、手続であったり、論理的な思考であったり、どんなに悪く思えても、相手を尊重する部分、自分が間違っているかもしれないという畏れの感覚は持っていなくてはいけないのだと思った。

  • 一度検察官が起訴するときめれば、ほぼ100%有罪(刑事事件の有罪率は99.9%)になる。
    では、冤罪で起訴に持ち込まれたら?冤罪被害者と一緒に戦う弁護士の話。

    裁判官は、裁判での証言を重視しない。検察官が作成した調書が正しいことが前提。
    よっぽどの矛盾が明らかでないと調書を採用する。
    なのに、その調書をどう作成するか……それは代用監獄の中にとじ目とじこめられ外との接触を何日も絶ち、録音を認められない暗闇の中。
    そんな何日もかけて追い詰められた状況でつくられる調書を裁判官は採用するのだ。裁判で調書の間違いを否定してもまず認められない。
    これは陰謀論でもなんでもなく、ただの客観的な事実である。

    自分は民事裁判であるが、間違った矛盾のある調書を作成され、加害者も間違いだと認めている調書を裁判で採用されなかったという経験がある。
    本当に、裁判はおかしい。

    もちろん、自白を強要し、冤罪をつくりだす検察官がおかしいことは事実であるが、それをとめるのが裁判官であるはずなのに機能していないことが何よりおかしい。
    どうしても、組織の中にいると、組織の論理で動き、客観的に間違ってしまうことはある。それを中立的な立場で指摘するのは裁判官の役割だ。
    拘束の日数を確認し不当な拘束を認めないことは裁判官の裁量だ。
    拘束期間中の検察官との話し合いの最中の全ての録音・録画がない調書を認めないのも裁判官の裁量だ。
    けれど、それをしない。これは裁判官の怠慢であり、司法が中立を保てていないことの証左である。

    有罪か無罪かを決めるのは検察官ではない。裁判官だ。
    例えば99%有罪にできるものしか基礎しないのだとしたら、それは検察官の越権行為だ。
    被害者は証拠が集まらなかったから裁判すら受けられないということであるから……。そうではないはずだ。

    日本の司法はおかしい。危ない。
    それがよくわかる本である。

    また、マスコミのおかしさ、影響力の強さもよくわかる。
    マスコミによる冤罪を作り出した松本サリン事件は有名だが、著者が手がけた事件……エイズ事件、ロス事件、鈴木議員の汚職も、自分よく知らず、マスコミの影響でなんとなく起訴された人達が悪い人だという印象を受けていた。恥ずかしい。
    自分は一般的な日本人の平均より警察や検察、事件について興味がありわりと調べている方だと思っているが、それでもこの有様では……きっとこの事件で起訴された人々は未だに多くの日本人からマスコミの影響で勘違いされたままだろう。悲しく嘆かわしいことだ。

  • youtubeで知った弁護士の本
    検察の横暴だけかと思ったら、マスメディアの恣意的な捏造とも言える報道も含んだ環境を知るいいきっかけ
    中世のそれと揶揄される司法制度(取り調べ制度かも)。何とかしたほうがいいよね

  • 警察や検察がいかに酷い組織であるかがよく分かる本。
    刑事事件なんて無関係だと思っていた人がいきなり検察の描く絵に乗ってしまい、長く拘留され尋問されるなんて人権侵害も良いところ。
    刑事裁判では勝てないって酷すぎる

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著者プロフィール

弁護士、法律事務所ヒロナカ代表。一九四五年、山口県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。七〇年に弁護士登録。クロマイ・クロロキン事件などの薬害訴訟、医療過誤事件、痴漢冤罪事件など弱者に寄り添う弁護活動を続けてきた。三浦和義事件(ロス疑惑)、薬害エイズ事件、村木厚子(郵便不正事件)、小澤一郎事件(「陸山会」政治資金規正法違反事件)など、戦後の日本の刑事訴訟史に残る数々の著名事件では無罪を勝ち取った。

「2021年 『生涯弁護人  事件ファイル2 安部英(薬害エイズ) カルロス・ゴーン 野村沙知代・・・・・・』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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