世界の経営学者はいま何を考えているのか ― 知られざるビジネスの知のフロンティア [Kindle]
- 英治出版 (2012年11月13日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (335ページ)
感想・レビュー・書評
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今、世界のビジネス研究は、どこまで進んでいるのか。世界のビジネススクールで活躍する経営学者たちによる最新の実証研究の数々を、わかりやすく紹介した書籍。
競争戦略論では、企業の究極の目的は「持続的な競争優位」を獲得することにある。だが、競争戦略の最新の研究によれば、企業間の競争が激化した現代のビジネス環境では、競争優位が持続しにくくなっている。(ポーターの戦略論が通用しない世の中へ)
競争優位を巡る今日の状況は「ハイパー・コンペティション」と呼ばれ、こうした状況では、「積極的な競争行動をとった企業の方が高い業績をあげられる」とされる。
「イノベーションを生み出す1つの方法は、すでに存在している知と知を組み合わせること」。これは、イノベーションに関する経営学のコンセンサスである。
よって、組織の知が多様性に富む組織はイノベーションを起こしやすいといえる。
企業が知の範囲を広げるために新しい知を探す行動を「知の探索」、既存の知識を改良するなどして活用することを「知の深化」と呼ぶ。イノベーションを生み出すには、両者のバランスをとることが重要である。
経営学では、国民性を指数化して、ビジネスへの影響を分析することが行われている。その1つ「ホフステッド指数」によると、日本人の国民性は、際立って集団主義が強いというわけではない。中国や韓国などアジア諸国に比べれば、個人主義的な傾向が強い。
※ホフステッド指数
・個人を重んじるか(個人主義)、集団のアイデンティティを重んじるか(集団主義)。
・権力に不平等があることを受け入れているか。
・不確実性を避けがちな傾向があるか。
・競争や自己主張を重んじる「男らしさ」で特徴
集団主義の人は、外部者との協業が苦手といわれている。実際、ビジネスパートナーとの信頼関係に関する調査によると、アジアの人々(集団主義志向)の方が、米国人(個人主義志向)よりも外部者を信用しない。この結果は、日本人がアジアの人々とビジネスで付き合う上での難しさを示唆している。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
経営学とは何かを知る本として、読みやすい本だと思います。
学問としての経営学なので、実際の会社経営に役立たせることを目的に読むと期待外れになるかも。
経営学という学問を知ることと、こういった経営学を実際の経営に役立てていくことを考えるきっかけになりました。
経営学って、理系っぽい要素が強い学問なんだなと感じました。 -
最先端の経営学者達の研究のいくつかが紹介されているほか、経営学の学問としての特徴や現在の経営学で重視されていること、そこから生じる課題などが分かりやすい文章で書かれていてとても読みやすい。
読後、他にも経営学の本を読んで勉強したくなったので経営学の取っ掛かりの一冊に良い本だと感じた。ただ、ポーターの戦略論をより深めた議論などが紹介されているため、全くの初学者というよりは少し前提知識がある方がより楽しめるかもしれない。 -
今のグローバルとは言えない組織に属した自分に違和感の正体を明かしてくれる本。ただ、どちらが良いということではなく、自分の思考と学説と環境のどの辺りに齟齬かあるのかを考える必要があるとは思った。なるほど、と思える概説がたくさん出てくる本。
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経営学には3つのディシプリンがあるという話が非常に新鮮だった。ちなみに列挙すると…
・経済学
・認知心理学
・社会学
なんでこうした学問の背景を1年生のときに学校で教えてくれなかったのかとちょっと惜しい気持ちになった。 -
コメント
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トランザクティブメモリー
組織の記憶力で重要なのは組織全体で何を覚えているかではなく組織の各メンバーが他メンバーの誰が何を知っているかを知っておくことであると本書に書かれています。
「whatではなくwho knows what」
とてもよくわかる表現ですよね。
全員が同じ知識を持っていることに意味はないとは言いませんがムダなんですよね。
僕も誰に聞けば一番よくわかるかは常に考えています。
うちの職場も大きな組織ですから。
継続的なイノベーションを実現するために
知の幅を広げる「知の探索」
すでに持っている知識や同質の知に改良を重ね、それらを深めて活用する「知の深化」
のバランスが重要と書かれています。
オタクもそうですが広く浅くか狭く深くかといえば広く深くの方が絶対良いんですよ。
個人では難しいことも組織ならいけるのかもしれません。
本書は経営学というよくわからない世界がよく書かれていると思います。
面白かったです。 -
面白かった気がして再読。広く浅く概略を解説してくれるやり方は、個人的趣味に合ってる。経営学とよばれるものがどんな種類があって、どんな議論がされているかの大枠を理解するにはもってこい。ここからなにか興味を持った考え方を深く学ぶきっかけになればよし。
以下、メモ
ポーターの競争戦略論は、競争しない戦略
ゆえに、現代のハイパーコンペティション時代ではあまり有効では無い
トランザクティブメモリーとは、組織の誰がなにを知ってるか把握していること
見せかけの経営効果ではない、その企業にしかとれない本質的な優位性を考えることが大事
ストラクチュアルホールとは、情報の真ん中にいる人。商売の基本中の基本
リアルオプションとは、段階的な投資。不確実性の高い現代において有効と思われる戦略のひとつ。 -
そもそも何かの経営学に対して知識があるともっと楽しめただろうなーというのが読了後の感想。
いろんな考え方をインプットできましたが(1回だけだと全部は無理だけど…)
リアル・オプションという考え方は、ほかにも応用できそうでした。段階的に投資をしていくので、損失は一定で(リスクは限定的)、不確実性が高くなるほど上振れのチャンスが大きくなるということ。 -
経営学の学問領域についての解説本です。
PART Iでは経営学の学問としての態度について書かれており、近代科学的な分析に基づいて理論と実証、分析を重んじる自然科学、社会科学、人文科学の他の学問領域と同じごく普通の学問であり、アマゾンだのスターバックスだのイトーヨーカドーだのの成功した企業の成功したエピソードから何かを学ぶだとか、ドラッカー的な精神論を語る場ではないということが強調されています(別にこれらを非難しているのではなく、あくまで学問としての経営学のメインストリームではこれらは手法として別段重視されないということです)。また、経済学的アプローチ、社会学的アプローチなどスキームやパラダイムを概説し、このパートを図書館などで読むだけでも十分に価値があります。
一方、PART IIでは実際の経営学で扱われる理論やトピックを紹介していますが、著者自身が指摘しているように経営学には決定的な教科書がなく、体系的に経営学内の諸領域を位置付けたり経営学の構造を説明できたりする状況にないようで、そのため重要だったり有名だったりするトピックのアラカルト的な紹介に留まっており、本の大部分を占めるPART IIの紙面を尽くしても経営学が概観できるようにはなっていません。
これはこの本の欠陥というよりは経営学自体が持つ課題であり、PART IIIではこの課題を克服するためのフロントラインでの取り組み及び経営学の将来展望を扱っています。
この本のこのような構成は、正に現在の経営学の縮図と言えるのではないでしょうか。そういう点では、この本を読むことは経営学を考え語ることに近似しています。保守的な学者には、こんなものはまだ近代科学の体をなしていないと言う人もいるでしょう。とはいえ、経営学が社会に貢献するという意味では極めて重要な学問領域であり、まだ誕生してから間がないこと、未だ発展途上にあることはむしろこれからの展開が渇望されているということが著者の熱い思いとともに本全体から伝わってきます。