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感想・レビュー・書評
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男から女に転ぶ落とし穴、だけどエネルギーにもなるのです。
色々と挨拶や前置きは省きまして、TSFドタバタコメディ『幼なじみは女の子になぁれ(通称:おさなぁれ)』二巻のレビューをお送りします。ちなみに作品全体の流れなどについては一巻で連ねておきました。
それで二巻は一巻の下準備が功を奏したというべきか、応用シチュエーションが多く顔を出した印象です。
では本題に入る前に、前提として押さえておきたいポイントがまずひとつ。
それは妖精シルフィによって性別を変えられまくる元が男子の主人公「小山内伊織」が女子の時にとっさに名乗った「山内詩織」という名前が独り歩きをはじめている点です。一巻では触れ損ねましたが、重要ですよ。
加えて、シルフィが魔法で改変できるのは肉体だけで、戸籍や記憶といった社会的な認知にまでは及ばないということも挙げられます。そのため「小山内伊織」=「山内詩織」の図式を知りうるのは変身の瞬間を目撃した学校のクラスメートと一部教諭に限られているというのはなかなか面白い仕込みだと思いました。
派生して、息子が娘になっちゃったことをあっさり受け入れてしまえそうなポジションに就いている主人公の「(フィクション特有のやたら若い)母親」が蚊帳の外というのも珍しいパターンでしょう。
TSを話の軸に据えた、軽いノリのコメディなら母親の周知が前提なことが多いだけにそこは意外でした。
それはと言うもの、伊織が性別をコロコロ変えられまくるドタバタコメディが展開されるのは、学校生活をメインに特定のタイミング、それと自室などプライベート空間に限られているからなんですよね。
もっとも「あら~、わたし娘がほしかったの」的な母親のノリは別の局面で採用されていたりもしましたが。
完全にジャンルの伝統を外しているわけでないのも、ニクい演出だなあと思ったりもしました。
そんなわけで多少話が飛びましたが本題に戻ります。すなわち親に認知されていない「山内詩織(≒小山内伊織)」はこの世に存在しない人間で、宙に浮いた存在なわけです。それと別口で詩織は母親と仲良くなれてたりしますけど、あくまで母親からの認識では詩織はよそのお嬢さんであり、我が子ではないのですね。
よって、シルフィの策略によって女の子にされたまま戻れなくなった主人公の恐怖と絶望は納得でした。
性別が変えられるという物語上の手法は、自分が自分ではない何者かに成り果ててしまう恐怖の裏付けありきなんでしょうね。ここで例を挙げることこそしませんが、「TS(性転換)」とホラーは相性が良いのです。
時に、ホラーも場合に寄りけりですが、今回は現実の恐ろしさということでよろしくお願いします。
蓋を開ければ一時的に戻れなくなるだけだったわけですが、この漫画はコメディだけではないんだよと、読者に釘を刺す目論見を果たされていた風にも感じられます。
もっと言えば、ラストに向けた布石も兼ねての見事な一手であるとも評することもできます。
性転換と社会認知の関係をしっかり捉えた上で物語を紡いだ森下真央先生には喝采を送りたいところです。
ま、その危機が去った後は、暗い影を引きずることなく性別がコロコロ変わる日常に回帰するんですけどね。
ここで主人公の男の子の面を好きになり、女の子の時にも力になってくれたクラスメートの女の子「柳瀬みゆ」との間に主人公が信頼を育んでも、恋として進展をみせないのもこの作品らしいと思ったりもしました。
それがなぜかって?
これは考察なのですが、ラブコメの主人公なら朴念仁であるべきという思い込みももちろんあるのでしょう。
ですがそれ以上に、主人公は女性としての自分を無自覚の内に受け入れつつあります。そのため、みゆに対する信頼も同性の友人に対するものと誤認している部分があると説明できるのです。あくまで仮説ですけどね。
性別が変わるタイプの主人公は同性異性の区分がその都度揺らぐので説明がややこしいです。
別途、主人公が詩織として、腐れ縁の幼なじみでありそもそものコトの元凶である「刑部秀一」との間に別途、エピソードも積んでたりしてますし。主人公の性別がどう着地するかはどうも読み切れませんでした。
ジャンル的な需要に従えば主人公が女の子に成り果てるのが正解ですが、出発点からしてなんか間違っているというか間が抜けている感じなので別に男の子でもいい。でも需要が……、というジレンマです。
まぁ、その辺についての語りは完結巻である次回のレビューに回すとして。
まとめに入る前に、そのほかの個別エピソードについても軽く触れておきます。今回の主人公は新聞部のスクープ対象としてウォッチングされたり、中学生の初恋を罪作りにもハンティングしたりします。
言ってしまえば、性別が変わる状況に踊らされるだけではなかったのです。
ひとりの女性としての対応が求められ、もって言えば人間としての真価が試されるパートが多めでした。
言い換えるなら、秘密を軽々に明かしてはいけない緊張感をもって進むエピソードが多めだったわけですよ。
それと、この辺で主人公が内心で葛藤したことをもって、彼(女)は魅力的な方向へ成長してくれたように思えます。状況に振り回されるのは変わりないとしても自分で活路を拓ける人のこと、私は好きですから。
あとは、トラブルを持ちこんで主人公の葛藤を引き出した側が配慮を効かせてくれるのもナイスなポイントだったりします。その辺はきっと、キャラを育てて連載を続けるための工夫でもあるのでしょうね。
詩織の秘密にズケズケ踏み込むだけと思いきや、一歩引いてくれてお互い好感触のまま次のステップに進む。
踏み込むのではなく、付いて離れてダンスのような軽快なステップを――、といったところでしょうか。
お騒がせ役を単なる障害物ではなく、状況に変化をもたらす福音に変えてくれるシナリオはきっと一流です。
以上。
妖精がいて魔法があって性別が変わるというぶっ飛んだ作品背景を設けながらも、それ以外のリアリティラインを高めに置いているのが、私が個人的にこの作品に信を置いているポイントだったりします。
先述した通り、元に戻れない恐怖も話を引き締める上でのアクセントとして働いてくれました。
主人公がなんだかんだ女の子としての自分を受け入れ出しているというのも見逃せなかったんですけどね。
水着回などは顕著ですが、女の子ならではの特権や新たに得た女子力を享受したりもしていました。
状況に合わせたしたたかさや演技力を身に着けて、生粋の女子の間に平然と馴染んでたりもします。
……まぁ。妖精に振り舞わされる現状が無茶であること自体に変わりないんですけどね。
トンデモな妖精襲来も悪いことばかりじゃないんだなあって、しみじみ思うなどしました。
さて、語るべきところをまだまだ取りこぼしているようですが、キリが良いので私のレビューも一旦ここで切ることにします。では機会がありましたら残る最終巻でお会いしましょう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
blog(2015-02-08)から転記
Amazonさんに薦められるままKindleで購入。
妖精を助けたお礼として「幼なじみの女の子が欲しい!」と願ったら、「幼なじみ(♂)を女の子にしてしまった!」という斜め上の展開。
ずっと女の子になってるというわけじゃなく、男の子に戻れたり、正体を隠さなきゃいけない人物がいたり、逆に女の子として認められちゃったりといろいろ展開があって割と好きです。
トランスセクシャル系が苦手な人は立ち読み版を読んでからがいいかと。