新幹線開発物語 (中公文庫) [Kindle]

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  •  本書は、1964年に出版された『東海道新幹線』の一部を改定した上で新たな考察を追加したもので、2001年に出版された。電子書籍化は2014年。

     原書が出版されたのは東海道新幹線が開業する5ヵ月ほど前で、その計画から建設に携わった角本氏が「『鉄道斜陽化』の今日なぜわれわれがこの計画に踏み切ったか、どんな心構えでこの大事業を進めたか、さらに技術面では、なぜこの方法を採り、他の方法を選ばなかったかを明らかに」するために執筆したという。淡々とした記述であるが当時の熱意が伝わってくる。

     基本的な技術は知っていることも多かったが、本書の重要な点は一般論ではなく具体的だということだ。どの駅(あるいは区間)でどんな工事を行ったか、どの地域にどんな課題があり、それをどうやって克服したか。固有名詞が多数出てくるので、新幹線に乗り慣れている人は「ああ、あの場所はそうやって作ったのか」と実感できるだろう。

     追加された部分は最終章の「新幹線その後」で、スピードアップなど技術的な発展を称えると共に、政治的な理由で不要な路線が次々に作られようとしていることへの苦言が呈されている。リニア新幹線に対する著者の意見もやや否定的だ。

     なぜ著者が東海道以外の新幹線に対して否定的な意見を持つかは本書を読むとわかるが、東海道新幹線が大成功したのは特殊な事情があったためであり、どこにでも当てはまるものではないからだ。中でも大きいのは、東京と大阪という大都市が約500km離れて存在していることで鉄道高速輸送の需要があったことだ。

     500kmは自動車にとっては遠く、飛行機にとっては近い距離で、鉄道が有利になる。東京−大阪間に時速200km以上で走る鉄道があれば日帰りが可能になり、ビジネス需要が見込める。そして当時の鉄道技術はちょうどこのような高速鉄道が可能なレベルに達する時期だった。

     技術はともかく、需要は鉄道会社が作ろうとして作れるものではない。実際、山陽や東北を初め政治的に作られた他の新幹線は、営業的に苦戦している。東海道新幹線を補完する形になるリニア新幹線の場合は多少異なる事情を持つが、予測が外れたら大損害が発生するのだから、危惧するのもわからなくはない。

     東海道新幹線を建設するときも、反対する人は少なくなかったという。それを地道な努力で説得し開通にこぎつけたかという苦労話も本書に多数出てくる。きっとリニア新幹線でもそうなるだろう。私としては、リニア新幹線が開通してどうような本が出版されるのが楽しみだ。

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