ステーション・イレブン (小学館文庫) [Kindle]

  • 小学館
3.80
  • (2)
  • (1)
  • (1)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 13
感想 : 3
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (399ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 作中のパンデミックて生き残った人々は、1%だという。
    100人に1人。


    いまの世界の全人口は70億くらいだというから、その1%は、7000万人。東京のような一千万都市なら、10万人ほどが残ることになるのだろうか。

    静謐な叙情を湛える物語を味わいながらも、「このパンデミック本当に起きたなら、目の前の世界はどうなるか」ということを、どうしても考えないわけにはいかない。

    窓の外には、コロナウイルスで非常事態宣言が出ている街並みが広がる。

    こんなときに選ぶような作品ではなかったのかもしれないが、こんなときだから、深く読めたのだとも言える。

    ライフラインの途絶えた廃墟であっても、文明崩壊以前の知識や技術を持った人々が、組織的に生活維持と向上を図っていくなら、けっこうやっていけるのではないかとも思う。平均寿命は一気に下落するだろうけど、医療技術が200年ほど後戻りしたと思えば、絶望的な状況とは言えない。200年前だって、人間は暮らしていたのだから。


    物語のラストで、パンデミックから20年後に、一部の地域の人々が、発電技術を取り戻して、電力供給を始めたことが示唆されている。続編が書かれることはないだろうけど、たぶん人間はたくましく生きて増えて行くのだろう。

    とはいえ、この物語は、文明や人間社会のその後については多くを語らず、ごく限られた人々の個人史を、時系列を無視してスクラップブックに貼り付けていくように進んでいく。


    中心人物(主人公というわけではない)は、パンデミック発生直後に舞台の上で死んだ、ある有名な俳優である。彼の享楽的で無責任で、どうにもとりとめのない人生が、パンデミック後を生き延びることになる三人の男女の生き方に方向性を与えた。

    俳優のゴシップを追い回していた、あるパパラッチは、彼の舞台上の死を目の当たりにし、必死で介抱したことで、救急救命士を志し、文明崩壊後には医師として人々の命を救うようになる。

    俳優の最後の舞台で共演していた子役の少女は、シェークスピア劇を演じる女優として旅の楽団に所属し、生き残った人々が暮らしを営む集落を巡回する。

    俳優の一人息子は、父親譲りのカリスマ性と、母親から貰った聖書と、パンデミックを生き残った者としての自己中心的な選民思想を元に「預言者」となり、排他的な武装カルト集団を作り上げ、取り込んだ人々を洗脳支配していた。けれども、楽団のもたらした芸術に触れたことがきっかけで、精神的支配から抜け出たらしい配下の若者によって、殺される。


    人口が1%にまで削られても、技術、芸術、宗教の三つは、人の集団の中で生み育てられ、拮抗したり、牽制しあったり、相互に結びついたりしながら、歴史を進めていくのかもしれない。作者がそういうことを書きたかったのかどうかはわからないけど。






  • ものすごくよかった。
    SFだけども普通の文学っぽいというか、こういうの好きだ。同時にものすごくおそろしく、悲しくて、気が沈んだけれども。

    パンデミックで世界の人口の99%が死滅して文明が崩壊して、というストーリー。
    あっというまに致死率のきわめて高いインフルエンザが蔓延し、あっというまに社会が機能しなくなって世界が崩壊するというのは、なんだか今日にも起こりそうに思えて本当に恐ろしかった。(お願い、だれかこんなの現実にはありえない、って言って! でも、生き残った人たちが残っているモノでなんとか電気や薬や最低限の食品をつくったり、社会的な秩序を回復したりって、できそうな気もするんだけど無理なのかな???そこがちょっとだけ疑問だった。)

    パンデミック、とかいうと、グロテスクな場面があったりパニックが起きて怒涛の展開、みたいなものを予想するけれど、まったくそんなことはなく、パンデミックが起きるずっと前の、舞台俳優とその妻たちの話や、パンデミックから数十年後の、旅する劇団や空港に住みついた人々の話、など、さまざまな人々の物語が、いたって穏やかに静かに語られる。文章がすごく文学的で抒情的な感じで、ものがなしい。この静かな筆致がすごくよかった。
    その人々も実はなんらかのつながりがあって、そのつながりがあとからわかってくるのもよくて、胸に迫るというか。

    文明が崩壊したあと、あたりまえにあった電気や電子機器、電灯やパソコンや電話や飛行機がどれほど美しく見えるか。そういう描写もすばらしかった。
    今、環境汚染だとか情報過多だとかなんだとか、文明を悪くいうようなこともあるけれど、これを読むと、今の文明社会がとてもとても美しくて、かけがえのないものに思えてくる。
    あと、「ステーション・イレブン」という登場人物のひとりが描いていたマンガも、絵が目に浮かぶようで美しい。

    ラストは、世界が再生される希望が見える。それもとてもよかった。

  • 面白かった。
    キングとはまた違う、終末世界。
    人々の記憶が行き来する。
    タイラーがどうしてああなったか、エリザベスどうなったか。
    その辺が知りたかった。
    ジーヴァンが感じた世界が、なぜか一番身近に思えた。
    都市が雪の中沈黙していく。

全3件中 1 - 3件を表示

エミリー・セントジョン・マンデルの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×