白い巨塔(一~五) 合本版 [Kindle]

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  • 財前五郎は、元はと言えば一人の苦学生だったという過去が、彼を完全な悪者だと切り捨てられない理由だと思う。財前のエゴイズムに嫌気が差す場面も少なからずあったものの、最後まで私は財前の味方だった。

    東教授や鵜飼医学部長など、権力者の思惑に巻き込まれる中で、才能ある財前は闘志を燃やす。ここまで苦労して築いてきた地位を無駄にはしたくない。そうして次第に「財前五郎」というモンスターが生み出される。彼は真正の悪ではないからこそ、白い巨塔と称される医学界の封建制の異常さが際立つ。財前は白い巨塔をよじ登ろうとする内に悪に堕ちてしまった。癌専門医である財前自らが癌で絶命する最期は、あまりにも残酷すぎる。

    訴訟に発展した医療事件は、不運と言えばそこまでかもしれない。何もかも上手くいき始めた財前が、つまらぬことで足元を掬われたようにも読み取れ、辛酸を舐め続けてきた財前はもっと順風満帆な人生を歩んで欲しいと思う自分がいた。
    しかし、生命に向き合う医者という職業に求められる倫理観は、最も厳しいものでなければならない。どうすれば患者の生命を救えるのかという絶対的な正解のない問いに、自らの全身全霊をかけて向き合わなければならない。

    「ノブレスオブリージュ」という言葉があるように、才能や能力がある人間にこそ高い倫理観が求められるという、厳しい真理を訴える作品なのかもしれない。
    読後山崎豊子に「厳しいよ、、」と言いたくなった。

  • 1巻:人物紹介と、財前の教授選に向けての様々な駆け引きの開始。
    正直、東教授が財前を選ばない理由が嫉妬心くらいしか読み取れないのがあれだが、実際の教授選も案外そんなものなのかもしれない。

    2巻:教授戦。ハラハラする展開であったが、無事財前が教授に選ばれる。
    医師達のそれぞれの立場や信念での行動の生々しさに、読んでいで胃がむかむかしてくる。
    個人的に財前は性格悪いとは思うが、根っからの悪ではなく、調子に乗ってやり過ぎてしまうタイプの悪さだと思う。

    3巻:裁判。流石に今回は財前が負けるかと思ったが、また勝った。
    判決の内容自体は確かに妥当で、まあ裁判ならこういう結果になっちゃうかなとは思ったが、判決を受けてのコメントも含めて、遺族側に関する何の謝罪も言及もない財前の冷酷な印象が際立つ。
    本質的にはそんなに悪じゃないと思うが、もう戻れなくなり、このまま悪として突き進むしかなくなっている。

    4巻:最終巻に向けての転機の巻。財前達は相変わらず無邪気に悪事を働いているが、それもそろそろひっくり返る予感が漂っている。

    5巻:第2審結審。そして衝撃の結末。
    財前を単純な悪と描かず、周りの期待に応えようと必死になった結果、いつの間にか悪となり、周りからの反発も生むが、しかし最後には周りの人から見捨てられず、悲しい人間として生涯を終えるという感じで描かれていて、そこは読んでいて好感を覚えた。
    財前がまわりにいたら絶対嫌ってると思うが、元々の悪人ではないのは確かなので、なんかもう少し本人の才能を活かして、本人も周りも幸せになれる生き方ができなかったのかな、と思う。

  • 云わずと知れた著者の代表作のひとつ。
    2003年に放映されたテレビドラマ「白い巨塔」(唐沢寿明主演)の再放送を観るうち、その原作を未読だったことに気付き、再放送がまだ終わらぬ前に文庫本全5冊を取り寄せ、一日半で一気読みしてしまった。
    文庫本全5巻にもなる大作をこんなにも集中して一気に読んでしまったのも久しぶり。そう、そのくらい面白かった!
    さすがは初版刊行から約60年を経たこれまでに、劇場版映画化に加え、計5度もテレビドラマ化された超人気物語。何がスゴイって、とても覚えきれないほどに大勢の人物が登場するのに、その一人一人の性格や人生までもを実に克明かつ生き生きと表現せしめる筆力。そして、さすがは新聞記者歴15年の経験が窺える、事前の周到な取材と予習に裏付けられた圧倒的な知識・情報とリアリティ。フィクションだとは分かっていても、なんだかまるで全て事実に基づくノンフィクション・ドキュメンタリを読んでいるかのような迫力と説得力は類を見ない。
    また、並行して展開中のテレビドラマと見比べると、テレビの脚本が驚くほど原作に忠実なことが良くワカル。(これは現在再放送中の2003年版のみならず、同じく今なお鮮明に記憶する田宮二郎主演の1978年版でも同じこと)
    これは思うに、テレビドラマの脚本家らによる余計な脚色や演出が無くとも、原作に書かれた通りのセリフや展開をそのままテレビや映画に変換しても視聴者の理解や感動に繋がることを意味しているように思う。
    小説に描かれた舞台は昭和30年代後半。つまり今より60年前後も前のことなので、医療界や医療行政、大学病院の実態等は、さすがに今とは大きく異なる。しかし逆に、その違いや背景に目を向けながら読むのもまた一興。
    最後の映像化は2019年版テレビドラマ(岡田准一主演)。それから丸5年が経とうとしている。
    どうだろう。気鋭のプロデューサー、脚本家による6度目のテレビドラマも観てみたい。阿部寛、もしくは堤真一あたりの財前五郎もいいのでは?

  • この本は、財前五郎が自らの栄誉などのために治療などを怠慢し、それによって破滅していく話。
    主人公は、「癌」の人間を助ける医者だが、最終的に自ら自身も「癌」で死亡した。死亡時に自らの野望などをはきだしたり、自分のがんに対しての考えを記したりしたところが特に心に残った。

  • 何度も映像化された、山崎豊子のあまりに有名な長編小説。国立浪速大学第一外科教授財前五郎の、栄光と転落の激しい人生。医師として決して許せないその男の敗北を見たいがために、とにかく夢中で読み進めました。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

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