笹の舟で海をわたる [Kindle]

著者 :
  • 毎日新聞出版
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感想 : 54
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感想・レビュー・書評

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  • 面白かった…。
    すっごく暗くて暗黒なんだけれど、ページを捲る手が止まらなくて。

    まるで私の実家であり、自分の母親の話を読んでいるようだった。

    風美子が嫌なやつのように思えて読み進めていたけれど
    物事は自分の視点や見方によって、こんなにも不幸に見えるんだと。

    私もそんな母親と暮らしていたから理解できる世界に胸が痛く、何度母親から離れたいかと思ったかということを思い出した。

    あまりに暗いので、星4つにしようか迷いましたが、ページを捲る手が止まらず一気読みしてしまったので星5で。
    めちゃくちゃ面白かったです。

    これでこそ小説。

  • 平凡な女の左織と、非凡な才女の風美子という2人の女性の人生を、左織の視点から描いた長編小説。
    結婚、育児、時代の転換など、ライフステージのその時々で左織が行き詰まる度、風美子が軽々とそれを踏み越え左織を手助けするのを、左織は内心苦々しく思う。2人の人生には子供時代の疎開の記憶が大きく影を落としている。
    風美子は、過去左織の存在に救われたとは言っても、今となってはかつて彼女をいじめていた他の人間たちと同じことを言う左織をどうして嫌いにならないのか、どうしてそこまで信じ、そしてこれほどまでの手助けをするのかと読みながら考えた。おそらくそれほどまでに幼少期の経験が苦しく、有り体に言うのであれば「死ぬよりもつらかった」折に左織の何でもない優しさに触れたことが、現代を生きる我々が想像するよりもずっと「有り難い」ことであったのに加え、彼女を信じ思い出に縋ることが、風美子にとって必要不可欠の行為になっていったのであろうと思う。
    ともあれ、平凡極まりなく、徐々に時代に取り残されつつある左織と、時代の波に乗り、才を活かして生計を立てるのみならず折々で左織を手助けするまでの余裕を持つ風美子の姿は実に対照的であり、左織の視点に立つ我々には風美子の存在が眩しく、そして一種苦しさを持ってのしかかってくるように感じる。彼女は自分を助けることに何の躊躇いも持っておらず、勿論悪意など微塵もない。それが左織と我々には信じがたく、裏を疑わずにはいられないのである。左織がその苦しさと眩しさ、そして何よりも自分の人生とどう向き合っていくのか、というのが本書の大きな見所であろう。
    最後のページを読んだとき、潮が満ちていく中に立っているような、温く塩辛い海水が喉元まで迫ってくるような、懐かしく温かく、爽やかでありながらも同時にひどく重苦しい充足感を覚えた。

  • 一体この話はどこに向かっているのだろうかと、筋が見えない状態がずっと続いて、最後の最後にこの話は左織が自分の意思を持ち、それを家族に示すまでの過程を描いていたのか、と。
    左織が決断したという事実とそれに対する家族の反応に涙が止まらなかった。読後感がとても良い。

  • 角田光代は素晴らしい作家だ。それを再確認した。私の母と世代が近い主人公。私の母は晩年精神的に不安定になったが、それは育った厳しい環境の影響があると思う。母を思い出し、辛い気持ちになった。寂しい終わり方だが、主人公の強さに、少しの希望を残すものであったのがせめてもの救い。数年後再読したい。

  • 自分にもあり得るような人生の断片がいつくも散りばめられていて、とても引き込まれる作品でした。

著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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