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感想・レビュー・書評
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柳澤健のこのシリーズはだいたい面白い。
(『UWF』は釈然としない点はあったけど…)
本作については、ジャイアント馬場を中心に据えてはいるけど、力道山やルー・テーズ、カール・ゴッチ、バディ・ロジャース、アントニオ猪木といった面々も含めた、日米を股に掛けた昭和プロレス群像劇という感じ。
知ってはいたつもりだけど、改めてプロレスラー以前の野球時代、アメリカ時代のジャイアント馬場の凄さを思い知る。
本書の中で繰り返し出てくることだけど、元プロ野球選手ということも含めて、若き日のジャイアント馬場は、一級のアスリートだった。
また、アメリカ時代のジャイアント馬場のスーパースターぶりも凄い。ムタやカブキ以上、中邑真輔と比べてどうだろう?
一方で全日本プロレスの経営者としては、一流とは言えなかった点にも、しっかり触れている。この辺も面白い。
読み応えもアリ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
栄枯盛衰――。
ノンフィクション作家柳澤健氏の著書『1964年のジャイアント馬場』を読んで、ふと脳裏に浮かんだのはその言葉だった。
ぼくは一度もプロレスファンだったことはない。だが戦後、力道山が国民的ヒーローになって以来、プロレスはファイトスタイルを変遷させながら何度もブームを巻き起こしてきた。けしてファンではないぼくでさえ、プロレスが放送されているのを見かけると思わず見入ってしまうことが度々ある。プロレスには、人々の心を引き付けてやまない何かがあるのは確かなようだ。
子供の頃、目に映った馬場の姿は既にレスラーとしての肉体を失っていた。細くて長い腕を振り下ろしながら空手チョップを繰り出すその姿はどこかユーモラスであった。もちろん馬場がレスラーになる前に、ジャイアンツのピッチャーであったことは知っていた。そして活躍できずに去った選手であることも。だから、きっと並外れた巨体であるがゆえに野球選手になれたが実力が足りず、仕方なくレスラーになったのだと思い込んでいた。
だが、彼がアメリカのプロレスファンを魅了した史上最大の日本人スターだったという事実とそこに至る過程を知り、ようやくその思い込みを改める機会を得た。
日本中をあれほど熱狂させた力道山でさえ、アメリカではそれほど観客には支持されなかったという。だが馬場は、日本の巨人ヒールレスラーという立場から努力と我慢で一気にスターダムにまでのし上がり、絶頂期のイチローを超えるような存在になったのだという。
やがて猪木が台頭し対立、馬場のレスラーとしての実力も人気も衰えていく。
そして馬場の理想とするプロレスそのものが古いと考えられるようになり、団体の運営も危うくなっていく。経営者として苦悩し、若手レスラーに嫉妬する馬場の姿を思い浮かべた時、栄枯盛衰という言葉が自ずと浮かび上がってきたのである。
だが、ジャイアント馬場ほど本当に愛されたプロレスラーは他にいないのではないだろうか。
改めてジャイアント馬場という人間を知ることが出来たのは、ささやかな幸運であった。
http://nozo-n.blogspot.jp/2016/10/1964.html