バタフライ・エフェクト (小学館文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 「自分が変われば、相手は絶対変わる」。自己啓発本にはそんなことが書いてあるけど、どうあっても変わらない人もいるのが現実。この小説で、「てにをは」では一辺倒にはいかない人生模様がある現実を、再認識しました。

  • 映画の「バタフライ・エフェクト」はよくできていた。様々に表現された人生を振り返れば、SF的なストーリーは簡単に想像がつく。でもそればかりではない。これは心理描写にすぐれたミステリらしくないミステリ。


    カーリン・アルヴテーゲンのこの作品は、映画のような時空を超えたSFとは全く違う。
    今、未来の分からない闇の中を生きる弱い人々の過去と現在を、深く悲しくそして幕切れは少し暖かく書いている。


    生を受け一度限りの人生を生きてきて、平坦な部分はどれだけあったのだろう。それをたとえば一言でいうとしても、過去の蝶のひとはばたきのような些細な動機で選んだ生き方だったと振り返ったとしても。単純に自分があのとき誤った選択した結果なのだ。と言いきれるのだろうか。

    カーリン・アルヴテーゲンの書く人々の始まりはそこにあるのではなくて、それは、書き出しの主要な登場人物の語りを聞いてみればいい。

    優れた心理描写は、内省的であり懐古的でミステリらしくない。題名に沿ってみれば、登場人物が語るそれぞれの生き方は、自分に備わった美点や欠点が撚り合わさったもので、一度きりの後戻りのできない時間を歩いてきた結果だと、それぞれ分かっている。

    この物語は登場人物が、蝶が羽ばたいた時間を振り返り、今を直視する。今の出来事。

    カーリン・アルヴテーゲンは似たような経験をした。それで精神まで狂わされ書く事で立ち直ったそうだ。
    登場人物の語りは、運命に操られながらも、人生の途中だったり、既に末期だったり、予想もしない出来事に巻き込まれたりしながら、生き方の主権を自分に置いた故の逞しさと繊細に見える弱さをうまく描き出している。


    主人公ボーディル55歳、不治の病を宣告され、夫に依存し妥協し続けた生活を振り返って残りの人生を自由に生きようとする。

    死なんて なんてことがあるだろう、生まれる前にも、あともに死はあった。しかしあとに残された人たちの空虚はどうして埋めればいいだろう。
    自分本位な夫、自分勝手でろくでもない奴、クリステルは捨てればいい。

    順調に生きている別れた娘は。心理療法士の前で偽の生き方を少しずつ剥がされていく。孤独な子供時代、意思の疎通を欠く冷たい両親にはもう会いたくもない。仕事に完璧を求めてきた。だが最近すべてに興味を失ってしまう。

    アンドレアスは有能な建築士で、家庭にも恵まれ仕事は順調だった。
    貴金属店で強盗に襲われるまでは。
    そこで彼は醜態をさらしてしまった。周囲を気にして生きる意欲をなくしてしまった。偶然の出来事なら誰しもそうなると周りは言う。しかしその時以来彼は自己の支えをなくしてしまった。プライドのかけらを寄せ集め仕事に没頭しているふりをする。しばらくするとそれにも疲れた。あの目出し帽からのぞいていた目を見てしまった。犯人が捕まるまでは。その目に囚われ続けている。

    ボーディルには死期が迫り左半身のマヒが広がってきた。

    時が過ぎ、砂時計の砂が落ちつづける。あの頃と同じ太陽が旧市街を照らす。私の部屋の窓は開いている。外はまだ夏だ。私はベッドに横になって、耳を傾けている、ざわめきを味わっている。
    人々が来て、去っていく。

    答えを全部知っている、と自分で思っている人たちのことは昔からずっと疑わしいと思って来た。様々な形の人生があるしこれまでたくさんの科学者が謎を解こうとしてきたのに決定的な証拠なんてひとつも見つかっていないのだ。


    迷わない、迷いはあっても前向きに考える。なにもかも暖かい丸い体で包み込んでいる、マルガレータと知りあってボーディルの眼と心が開いてくる。
    マルガレータは娘を連れてきてくれた。
    迫りくる死にはすべてを和らげる力がある。

    ボーディルは生きた。


    強盗事件も不思議な出来事を挟んで背景が現れてくる。それでもアンドレアスの粉々に壊れた自意識を自分で修復できない弱さもサイドストーリーにして、この物語を覆う人それぞれの生き方にふれている。

    ミステリらしくないミステリ。面白い作品ほど感想が書けない。迷いながら書くには書いてみたけれど読み返すと何が何だか(~_~;)
    作家ってやっぱり並みの人ではないなぁ。拘って作品をもう少し読んでみる。

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