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感想・レビュー・書評
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日本軍による真珠湾攻撃は「宣戦布告なしの卑怯な攻撃」として語られ、中立指向だった米国の世論を戦争支持に向かわせた。しかし戦後しばしば語られたのは、ルーズベルト大統領は事前に真珠湾攻撃を知っており、世論操作のためにわざと攻撃を許したのではないかという陰謀論だ。
この陰謀論を唱える人は日本と米国の双方にいる。特に米国では、もしそのような事実があればルーズベルト大統領は自国民を犠牲にするという重大な裏切り行為を働いたことになるため、政治的な対立にも利用されてきた。日本側からすれば軍事機密が漏れていたことになるので恥ずべきことだが、なぜかそれによって日本は卑怯ではなかったと主張しているようだ。
本書において著者は代表的な説を検証した上で、どの説にも裏付けはなく、陰謀論は成り立たないという結論を導いている。ルーズベルト大統領を含む当時の米国政府や米軍関係者は、日本が奇襲攻撃をかけてくることは予想して対策を立てていたが、その場所が真珠湾というのはまったく想定外であり、日本はまんまと米国の裏をかいて奇襲を成功させた、というのが著者の判断だ。
少なくとも現存が確認されている史料からは、そのような結論が妥当だろう。陰謀論は歴史上数多くの事件について語られているが、フィクションのネタとしてはともかく、まともな史実として検討の余地があるものはほとんどないのだと思われる。
本書が執筆された2004年からさらに十数年経っているが、新たな史料が見つかったという話は聞かないし、当時を知る証人も年々減っていくので、おそらくこれまでの定説を覆すような史料が今後出てくることはないだろう。まっとうな論説ゆえに派手さはないが、陰謀論のおかしな部分を丁寧に指摘して潰していく書き方はとても説得力があり、良書と感じられた。詳細をみるコメント0件をすべて表示