ことばの発達の謎を解く (ちくまプリマー新書) [Kindle]

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  • 筑摩書房
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  • 外国語学習において、こどもが言語を学ぶ過程と対比されることがよくある。「こどもは話せないうちから大量の音声を聞き、浴びた言葉を自分で分析することで話せるようになる。だから大人になっても聞き流しは有効」とか、「英語圏のこどもは文法を学ばないうちから英語を話せている。だから文法学習は不要」とか。では、こどもの言語学習とはどのような過程なのだろうかと疑問に思い本書を手に取った。
    すると、まさしく本書の第5章で、大人の外国語学習とこどもの母語学習の相違点を述べている。こどもが母語を学ぶときは、言葉だけでなくその言語のシステムも学習することで、母語を体系的に理解していく。ところが一旦母語を習得してしまうと、母語のシステムが身についているせいで、外国語のシステム理解の邪魔をしてしまうとのこと。外国語を学ぶ際には、日本語のシステムと外国語のシステムの差異に注目しながら学習を進めるのが良いのではないかと思った。

    外国語学習への応用に限らず、こどもが名詞・動詞・形容詞を学ぶ際の思考など、読んでいて面白い箇所も多かった。

  • 青垣

  • - 子供の言葉の学習過程を通じて、どのように人間が思考を獲得していくのか、平易な言葉や例で説明してくれている良い本。
    - ***
    - まず、赤ちゃんは動きや動作よりも、モノに名前をつけたがります。人が何かを持って動作をしているシーンを見ている時に知らないことばを聞いたら、それは動作の名前ではなく、モノの名前だと思います。  モノが複数あったらどうでしょう。名前を知っているモノと知らないモノがあったら、知らないことばが指すのは、名前を知らないモノのほうだと思います。このような思い込みで、日常体験するシーンに含まれる複雑な要素のあれこれを考えず、まず名前のつく対象として名前がついてないモノに注目するのです。動きの名前とか、色とか、模様とか、やわらかさとかいったモノの様子を表すことばに注目するのは、少し後になってからです。
    - 察するに、この時点では、ことばが「何かを指す」ことはわかっていても、モノとそれが使われる特定の状況がいっしょになったような意味で捉えているのではないかと思います。先ほど特定の例から「意味」を推測するのは簡単なことではないと述べましたが、このことからもそれがわかります。ことばが機能するためには、ことばを状況から(ある程度) 切り離して使えることが大事です。
    - 赤ちゃんが基本の普通名詞を固有名詞より先に覚えようとするのは、細かい区別が難しいからではありません。赤ちゃんは、自分にはあまり関係のない特定の個人や個体にしか使えない名前より、いろいろな対象に使えるカテゴリーの名前のほうが役に立つということに気づいているのです。 /// その時、目の前のモノとその名前を結びつけるだけではなく、そのことばの使える範囲まで推察して、いっしょに覚えてしまうのです。
    - おもしろいことに、ひとたび自分が母語とする言語で動詞を習得してしまうと、子どもなら気づくことのできる動作や行為の共通性が、大人には見えなくなってしまうことがよくあります。
    - でも、モノの特徴の名前は、モノの名前に比べて、覚えるのが遅いようです。一歳から二歳の間に子どもが言うことばの中の割合からすると、名詞は半分以上を占めるのに、形容詞は一割に満たないのです。 /// つまり、四歳くらいまでの子どもが新しい形容詞を学ぶには、その特徴を持ったモノの名前、つまり名詞を知っていることが前提条件になるようです。
    - ここで大事なのは、単語の意味というのはそれぞれの単語単体では決まらず、語彙というシステムの中で、他の単語との関係で決まる、ということです。単語の意味を学習し、母語の語彙を学んでいく子どもの視点からすると、一つ一つの単語の意味を他の単語との関係との兼ね合いで学んでいかなければならない。つまり単語一つ一つをシステムの中に位置づけて学んでいかなければならないということになります。
    - 子どもが最初に見つけようとするのは、システムの細かい内容ではなく、 システムの存在 なのではないかと思います。
    - なぜそれぞれのことばの種類ごとに「似ている」を探すことが大事なのかと言えば、それが新しく聞いたことばを他の状況で使いたい時に、いつ、どのような時に同じことばを使えるかどうかを決める時の拠りどころとなるからです。これが、第 2 章で述べた「思い込み」の発見なのです。この思い込みを使うことによって、それ以降はあれこれ迷わず新しい単語の意味を推測することができ、単語学習をスピードアップさせることができます。つまり、「似ている」を発見することは、「学習の仕方」の発見と言ってもよいでしょう。
    - 新しいことばや表現を創るという意味での「創造」は、今挙げたような、言い間違いや新しい言い方を創り出す場合に限りません。新しいことばを学習するということ自体が「創造」のプロセスだと考えられます。 /// 子どもの側からしてみれば、知らないことばの意味を自分で考えて新しい状況で使うということはすべて「創造」なのです。たまたまその時の言い方が大人の言い方と同じか、違うか、ということに過ぎません。
    - システムの全体像も構造もわからない状況で、子どもは持っている知識を総動員してとりあえず新しく聞いたことばの意味を考え、そのことばを使っていくしかありません。そうすると、暫定的に考えた意味を、後から修正していく作業がどうしても必要になります。「創造」は「修正」ができて、はじめてうまく機能するのです。 /// 自分で考えて学習したことばを絶え間なく修正し続けることによって、子どもはただ「なんとなく知っている」単語の数を増やすだけではなく、「知っている」単語の意味を深めていきます。子どものことばの意味は絶えず深化と進化を続けていくのです。「発見」や「創造」にくらべ、「修正」はなんとなく地味でたいしたことのないことのように思えてしまうかもしれません。でも、「修正」ができるからこそ、「発見」と「創造」がことばの発達を前進させる原動力となり得るのです。
    - 子どもはことばを学習する時、最初は苦労して試行錯誤を重ねながら、なんとか単語を覚え、暫定的にそれに意味をつける。いくつかでも単語が学習出来たら、覚えた単語の間に共通するパターンをなんとか見つけようとする(分析と発見)。単語の間に共通するパターンをみつけたら、多少の間違いをしてもよいからその知識を新しいことばの学習に使い、語彙を増やし、成長させようとします(創造)。語彙の中の単語の数を増やしたら、さらに単語の間の共通性を分析し、手がかり自体をアップデート(修正) します。
    - 本書で繰り返し述べてきたように、「ことばの意味を知る」とは、ことばとことばの限定的な結びつきを覚えることではありません。ことばの意味を大人の母語話者と同じように使うことができるようになるためには、一つ一つのことばが指し示す範囲全体を理解することが大事です。つまりことばの意味を辞書に書かれているような点の集まりとしてではなく、面としてとらえ、その境界を知ることが大事なのです。あることばの境界を知る、ということは、当然、そのことばを取り囲むことばを知り、それらのことばとの関係を知らなければならない、ということです。言い換えれば、そのことばが関連するシステムを、学習する外国語がどのようなことばでどのように分割しているのか──つまり、対応する外国語のシステムの構造──を知る必要があるのです。
    - 外国語の学習が母語の学習と違うのは、母語での意味システムが体の一部になっていて、外国語でのシステムを新たに創ることを難しくしているところです。
    - 子どもは目に見えない、手に取ることもできない抽象的な概念のことばを学び、ことばを学ぶことによってこれらの抽象概念をシステムの中で理解し、自分の一部にしていきます。それを可能にしているのはことばです。目に見えるモノや行為に対応づけて覚えた基本的なことばが、抽象的な概念を理解し、その名前を学習することを可能にしているのです。
    - つまり、耳が聞こえる大人でも、言語が正確に数を表すための数のことばを持たないと、数を多い・少ないというおおまかな量としてしか捉えなくなってしまうようなのです。
    - ここでぜひ覚えておいてほしいのは、大人がすべきことは協力であって、教え込みではない、ということです。ことばの意味や文法を子どもに直接教えることは不可能で、子どもが自分で考え、自分で習得していくしかありません。そこでまわりの大人がすべきことは、上質の言語のインプットを子どもにたくさん与えることです。  上質のインプットとは、プロの語りを録画したDVDやテレビ番組を見せることではありません。赤ちゃんはどんなに質が高いものでも、直接対面してのやりとりがないメディアからの一方的な語りかけでは、言語をよく学べません。日常の中の、気持ちを通じ合わせた、ことばの一つ一つを丁寧に使った赤ちゃんとの対話。これが「質の高い言語のインプット」です。このことは実際、科学的に確かめられています。

  • 私たちはどうやって母語を身につけるのかという点に興味を持ち、手に取った。
    赤ちゃんは周囲のことばに耳を澄ませ、様々な試行錯誤をしながら言語のシステムを創造的に学んでいく。赤ちゃんことばやかわいい言い間違いにもちゃんと意味があり、母語を身につけるための大切な過程なのだということがよくわかる本。何より驚いたのは、赤ちゃんが胎内にいる時からことばのリズムやイントネーションを聞いて学んでいる、という点だった。それにしても、ことばを身につけるとは、ただ単語とその意味を結びつける作業というのではないんだなあ。

  • p.2021/2/24

  • こどもがことばを獲得していく過程について、認知科学、発達心理学などを用いて詳細に分析、解説している。語り口は柔らかく、また子育てや教育などこどもに関わったことのある人なら身近であろう例がたくさんあがっていてわかりやすい。
    母語の獲得を軸に、外国語の学習における言語間の齟齬なども紹介されている。なぜ大人になってからの言語の学習がこどもにくらべて難しく感じるのかなど普段感じていた疑問が本書によって少し理解できた気がする。言語の大切さについていま一度考えることのできる良本。

  • NDC(9版) 801.04 : 言語学

  • ことばを手に入れることで、意味が見つかるようになる。認識を繰り広げていくための方法が手に入ることで、考えることがはじまって、世界という概念が広まりはじめるということだと言い換えてもいい。はじめからあるものにことばという音を当てはめて、意味を繰り出して、元々あったものを言い換えて把握できるようになる。きっとそういうことではない。ことばがなければ何も生まれてこない。そう捉えることすら、ないところからあることが表れてくる、決定的な転換があることをぼくたちはちゃんと想像できるじゃないか。

    1対1を設定することよりも、1対それ以外における関係を想像すること、見つけることが言葉というシステムを作動させていく。〇〇が□□だ、という答えを分かるということではなく、〇〇を取り出す際に、〇〇であることが大事なのではなく、〇〇ではなないこととの違いがまず認識されなければ、〇〇であることですら上手くいかなくなる。〇〇であることと〇〇でないことの、そこに表れる関係がどう捉えられるか。関係の線を引いて、その線の理由を設定する。関係性の仕組みを立てるということになる。意味は定義ではなく、関係性の捉えだということだ。意味というものを捉えるためには範囲が必要になる。こうこうであるということと、こうこうでないということの、範囲をセットするために、理由を立てなければならないということだ。でも、その範囲を立てることができなければ、こうこうもこうこうでないもどちらも存在することすらできずに何もないことになってしまう。ことばがないということは、はじめからない、いつまでたってもない。なにもないという意味と同じになってしまうということだ。

    こどもがことばを身につけていく過程は、モノを覚えるということではなくて、状況を捉えるということがまずあって、それに連動する音の連なりの中に、規則のようなルールのような相互性を発見していくということからはじまる。状況を表せるということと、そのための音の連なりの関係の中に、今度は範囲というものがあることに気付いていく。あることであることと、そうではないことの関係が次々に繰り広げられている世界において、類似と比較、相対と絶対、それを決める認識という方法に出会い、それを深めていくことで、ことばの意味というものを自らで積み上げていく。ことばに意味があるのではなく、その意味という相関が、システムが、自らのなかにどう表れていくかということが、ことばというシステムだということを、言わずもがなでだれでもが身体化していくということがことばの発達ということになるのだ。

    音の連なり、音節というもので、単語という括りを手に入れる。一般的な名詞を覚える。動詞が使えるようになる。助詞によって関係の広がりを自由に表せることを知っていく。ことばを発達させていく過程は、ことばというシステムの成り立ちを認識させるそのままの姿をしている。

    そして、ことばは思考を手に入れさせる。抽象という方法による概念をひとに見せることを可能にしていく。それは、ないままなのか、と、あるままなのかの、決定的な飛躍を招く。0が1になる。数字を認識することも、愛という概念を掴まえることができるようになることも、ひとに覚えさせることをできるようにさせるものだ。ひとは思考できる。抽象なんていう世界を立ち上げることができる。それは、ことばという発達の先において、世界を科学的に捉え直させることができるという、特別な力をひとに与えてくれている。


    思考することができる。ことばがあるから。
    その意味を世界はほとんど知らない。

  • ことばがどのように形成されてくるのか、そして大人になってからの語学では何故得られないものがあるのかについて、かなり学べる内容である。子供の語彙形成の過程に面白みを感じるとともに、自分が子供を持った時にもそれを見たいと感じるようになった。

  • 自分がことばをどうやって覚えていったのかなんて考えたことがなかったので勉強になりました。

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著者プロフィール

今井 むつみ(いまい・むつみ):1989年慶應義塾大学社会学研究科後期博士課程修了。1994年ノースウエスタン大学心理学博士。慶應義塾大学環境情報学部教授。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。著書に、『親子で育てる ことば力と思考力』(筑摩書房)、『言葉をおぼえるしくみ』(共著、ちくま学芸文庫)、『ことばと思考』『英語独習法』(ともに岩波新書)、『言語の本質』(共著、中公新書)などがある。

「2024年 『ことばの学習のパラドックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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