- Amazon.co.jp ・電子書籍 (149ページ)
感想・レビュー・書評
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男性から女性への性別適合手術を受けた作者の実録レポート漫画。
性別適合手術は日本でも行われているが、実績豊富なのがタイらしく、平沢先生はアテンド会社(現地での滞在生活をサポートしてくれる会社)を通してタイでの手術を決めたという。
性別適合手術は施術してそれでおしまいではなく、術前の診断や術後に身体が新しい性に馴染むまでの期間を必要とするため、作中では入国から帰国まで3週間ほどのスケジュールを組んでいる。
手術にいたる前の過程も険しい道程がある。
診断を受ける前のすがるような気持ち、診断のための病院のハシゴ(心理的な診断の他に染色体検査などが必要。保険適用外)、家族へのカミングアウト、人々からの奇異の目など苦悩と葛藤についてつまびらかにされており、当事者の心の内をのぞかせてもらっているようで恐縮した気持ちになった。
いっぽうで、タイと日本の交通事情や病院の雰囲気の違いなどもコミカルに描かれており、重いテーマを扱いつつも読み手の気持ちが下がらないように配慮されている。
手術の術式の説明は必見。
厚揚げとソーセージ、うずらの卵入りの巾着を使って、男性の象徴をちょん切り、女性の秘所を形作る過程を表現している。
漫画家らしい、というか漫画家じゃないとできない表現であり、ある意味本書の一番の見所かもしれない。
(読んでいる最中タマがヒュンとしたのは言うまでもない)
術後は術後で強い痛みに襲われる。
手術で作った膣はもともとの体からすれば大きな傷にほかならないので、放っておくと自然治癒してふさがってしまう。
それを防ぐために、ダイレーターという円筒状の棒を膣に定期的に挿入し、膣の狭窄を防ぐ処置が行われる(ダイレーションという)。
つまるところ、傷口に棒を突っ込んでグリグリしなければいけないわけで、痛くないわけがない。
しかもこの痛みを乗り越えて性別適合に成功しても、万人が祝福してくれるわけでもない。
当事者は身体の痛みに加え、孤独の痛みにも耐えなければならないのである。
無事に手術を終えて帰国すると今度は社会的にも性別が変更したことを認めてもらうために裁判を受ける必要がある。そのためにまたもや精神科や婦人科をはしごして裁判用の診断書類を集めなくてはならない。
つくづく性別変更は茨の道である。
作品全体を振り返ると、ストーリー自体は軽やかに、なじみのない用語や制度については過不足なく紙幅が割かれていた。
鍵つきテラリウムから平沢ゆうな先生の作品を知ったのだけれど、やっぱり平沢先生は作品作りが丁寧で好感が持てる。
性別違和の話は近年話題の俎上にのぼる機会もぼちぼち増えてきたけど、当事者がなにを感じどう考えているかは知らなかったのですこぶる勉強になった。詳細をみるコメント0件をすべて表示