2作目の「ヴォイス」では北の僻地、「高地」での閉塞感が一転、物語は「高地」のはるか南、賑やかな都市国家、アンサルへと移る。
現在のアンサルは、オルド人によって征服された都市だった。ここではオルド人とアンサル人の血を持つ少女、メマーが語り手となる。メマーは、政治や戦に翻弄される都市の中で、道の長とともに、文字を持たず、文字の書かれた本を邪悪なものと考えるオルド人から、書物を守っていた。アンサルで一番古い館にある、深い暗闇の中で。
オレックは吟遊詩人となって、グライとともに諸国を渡り歩いていた。オレックの語る詩や物語は、大衆を動かす感動を呼ぶ。
重苦しかったオレックの一人語りから解放されて、ダイナミックな展開を見せる今回は、ぐんぐん読み進む。政治や社会、宗教、そして都市の人々の生活。
ここで「ヴォイス」とはなんなのかを、翻訳者の谷垣暁美さんが解説で示してくれている。複数形なので多くの人の声であること、そして、声としては聞こえぬ書物に書かれた言葉もそれにあたると。
メマーは声なき声、「お告げ」についてこう考えた。(さらにネタバレになるので詳細は物語を読まれたい)
「お告げは命令を下すのではない。その逆で、考えるように促すのだ。謎に対して思考を寄せることを、わたしたちに求めるのだ。」
メマーのこの気づきに対して、谷垣さんは、これを他の声にも広げて考えると興味深いと結んでいる。
「単純、明快なメッセージはわかりやすく、受け入れやすいけれど、考えることを促しません。考えることを促す声、思考を寄せるに足る興味深い謎を示してくれる声こそ、耳を傾ける価値があるものなのかもしれません。」
現在にも、未来にも通じるこの考え方は、歴史に残る書物や言葉に紡がれてきた真実ではないだろうか。その真実に気づくかどうかは、神ではなく、我々に委ねられている。