永い言い訳 (文春文庫) [Kindle]

著者 :
  • 文藝春秋
4.23
  • (31)
  • (35)
  • (13)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 288
感想 : 26
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (288ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 良かった。

    交通事故で妻を失った二組の男性の話。1人は人気作家でもう1人はトラック運転手。
    妻が死んでも泣けなかった作家の男性が子育てに奔走しながらも頑張る運転手との交流から徐々に変化していく様が素晴らしい。

    大切な人との時間を本当に大切にする意味を教えてくれる、そんな小説です。

    オススメ!

  • 妻にバス事故で先立たれた衣笠幸夫と同じくバス事故で妻を失った陽一とその子ども達の話。
    一家との関わりを通して、だんだん幸夫の人間味が増していくところと最後の幸夫から妻への手紙が良かった。

    生きている間にたくさん愛さなければ。死んでしまってからでは遅いよね。

  • AmazonPrimeVideoでもっ君主演の映画を見たのちに、映像では触れることのできない心の襞のようなものを確かめたくて読んだ本。本体は1人称と2人称による複数のセクションで構成されていて少し斬新。そして、題名である「永い言い訳」が冒頭で語られていて、まさに映像では表せない部分に触れることができた。
    この小説は、私に「がんばれ」ではなく「だいじょうぶ」と語りかけている(ような気がする)。美しいセリフではなく、薄汚い言い訳が多くあって、自分の人間としてのレベルの低さを肯定しているようで安心できるのだ。

  • うじうじ言い訳じみててどうなることかと思ったけれど、案外ちゃんとしてた。人生は他者なんだ、確かに。あと偶然クリスマスに読み終えたので、★1つプラス。

  • 映画化の帯が、文庫の9.9割くらいを覆っている、このインパクトと、西川美和さんだよというのと、解説が柴田元幸さんだよ、という三点盛りに、これだ。

    <妻が死んだ。
    これっぽっちも泣けなかった。
    そこから愛し始めた。>

    買わないわけがない。

    主人公の衣笠幸夫くんは、名の知れた作家なのだけれどそりゃもうダメ男で、奥さんの夏子さんに徹頭徹尾無関心、だから夏子さんがバスの事故で亡くなったと聞いたときも、妻の旅行先も確かじゃなくて、持ち物すらはっきりと本人のものだと確認できないようなていたらくだったわけだ。

    奥様が亡くなってまぁかわいそう、という世間の目に反して幸夫くんは全然泣けなくて、妻夏子と一緒に旅行に行って、同じように亡くなった大宮ゆき、の遺族の一家と知り合って、その触れ合いを通じて魂を癒していく。
    大宮家の二人の子供の時間の進み方の確かさが、自分が誰かの役に立っているという実感が、幸夫くんを支える。
    母を亡くして、父は長距離ドライバーという環境の大宮家にとっても幸夫くんの存在は渡りに船、まるで四人は家族のような絆を形成していく。
    夏子さんといたときは人を傷つけるのが特技だよ、みたいな男に見えていた幸夫くんが、この家族には妙に優しい。別人のように優しい。


    しかしここで終わらないのが西川作品だよということで、西川さんは傍から見たこの関係を「同じ環境で家族を亡くした者同士が、お互いの心に空いた穴を埋めように共存しながら再生し始めた、というおはなしか。ほんとかよ。」とシニカルな視点で刺してもいる。


    またまた無関係な他者は、ドキュメンタリーTVを観たあと、津村(幸夫)にこんな手紙をよこす。
    「芸のある我が悲劇というものを見せては頂けないでしょうか。」
    うーんぞっとするような無神経。
    でもだれか言っちゃいそう。


    とにかくそんな足場フラフラのところに、鏑木先生、という女の先生が出てきて、ぐんぐん家族に打ち解けて、四人の危うい絆はバシャッと崩れるというか、幸夫くんは居場所を失ってしまう。
    (というよりも、失った、と感じてしまう。)

    そうしてやっと、夏子さんのことを思う。
    失っても取り戻せない時間を思う。夏子さんが自分を愛していたのか、携帯電話に残っていたように<もう、愛してない>のか、どこでボタンを掛け違えたのか、自分の犯した数えきれない過ちについて、思う。
    けれどもう決して取り返すことはできない。
    時間が戻ることはない。

    そしてそのさみしさを抱えたまま、「書く」ことを選ぶ。
    たいていの物語はまず「喪失」があって、それから「再生」がある。
    けれどこの物語は違う。

    まず「再生」があって、それから「喪失」がある。
    「再生」があってはじめて「喪失」を受け止めることができる。
    だから読者も、たったひとりで宙に放り出されたような頼りなさと、でもそれでも大宮家という命綱はありますよ、というような、幸夫くんの気持ちを追体験することになる。
    よかったよかった、じゃなくて、これからだぞ!ずっとだぞ!みたいな、このほろ苦さ。


    ここで想像の翼をはばたかせて、なぜ彼が「衣笠幸夫」と「津村啓」いう二つの名前を持つ必要があったのか考えてみたい。
    「津村啓」は、洒落ていて、ウィットに富んでいて、見目もよくて、万人受けする、そういうキャラクターとして描かれている。
    「衣笠幸夫」は違う。妻との会話の糸口ひとつ見つけられないし、物ほしそうに4歳の子のお弁当見たり、あまつさえ不審者では?と勘ぐられたりする。全然かっこよくない。
    読んでいて思ったのは、幸夫くんは、夏子さんといるうちに、「津村啓」である自分を捨てられなくなったんじゃないかなあ、ということ。
    それはたぶん、夏子さんが津村啓の小説の批評をしたりしたところに所以していそうなんだけど。
    夏子さんにとっては終始して彼は「幸夫くん」だったんだけど、「津村啓」にとっては、夏子さんは「批評家」に見えていたのかも、とか。
    そしてそれが二人の破滅的なすれ違いを生んだとしたら、やるせない。
    まあ単に幸夫くんがクズで、調子に乗っちゃった、ということでも全然いいんだけど。うん。


    しかしこの繊細な心の動きをどう映画化するんだ。
    西川さんだからできるに決まっているけど。
    ぼろぼろ泣いて、生きてる誰かを大切にしよう、という月並みなしかし前向きな感想をもてるこの作品、おすすめです!

  • Remember your loveのモチーフになった小説
    wikiであらすじを読んだときはどういう心情でそうなっちゃうのかまったく理解できなかったが、読み終わってみるとたしかにそういう書き方(あらすじ)しかできないし、心情も理解できるという不思議な気持ち
    「じゃあどうしたらよかったの」と言われると難しいところではあるけど


    「自分を大事に思ってくれる人を、簡単に手放しちゃいけない。みくびったり、おとしめたりしちゃいけない。そうしないと、ぼくみたいになる。ぼくみたいに、愛していいひとが、誰も居ない人生になる。簡単に、離れるわけないと思ってても、離れる時は、一瞬だ。そうでしょう?」

  • すごくよかった

  • 「つくづく思うよ。他者の無いところに人生なんて存在しないんだって。人生は、他者だ。」P.331

    ジョニー・デップに似てると評判で、
    テレビでも人気の作家・衣笠幸夫が、
    妻との別れを経験し、
    同じく母を失った大宮家の旦那や子供二人と交流する物語。

    おもしろい。
    グイグイ読める。
    夫婦関係が冷え切った所から始まる物語は、
    衣笠幸夫の、決して表に出せないような感情がグツグツしてるとこから始まり、
    再生に辿り着くのか否か。

    一人称語りの文章で進むけれど、
    章によって語り手が異なり、
    一つの出来事が色んな視点で展開していくのが面白い。

    すれ違い、ぶつかりあう感情、人間関係がどこに辿り着くのか、ハラハラ読んだ。

    文章のリズムがとても良くて、
    言葉として発されて違和感のない文章、という気がする。
    こういう文章は朗読すると楽しい。
    その点で、どことなく太宰治の香りがする。

    「踏み外したことのある人間にしか、言えないことばもあるでしょう。そういうことばにしか引き止められないところに立ってるやつも居るんです。」P.288

    チラッと登場してその後出てこない人がとても良いこと言ってた。
    芸術って、そういうものな気がする。

  • 主観がコロコロと変わり、登場人物達の内心をお互いが考察していく場面が、まるで綺麗な不協和音を聞いているかのように人間的で矛盾的で面白かったのを覚えています。結婚したくなくなるけど結婚したくなる。そんな一冊でした。

  • 著者の作品で映画化されたのを何作か見てきて、もう既に何作も読んできた気になっていたが、読むのは初めての作家だと気づく。妻を事故で亡くした作家が同じ事故で母を亡くした家族との共生が面白い。家庭を初めて知った作家がすでに冷え切っていた妻との関係を自己の中で修復しようする姿が哀れであったが、妻に先立たれた男はほんとうに情けない。登場人物が自分の視点で語りだす作風も面白く、他の作品も読みたくなった確かストックとしては持っていたはずだが映画を見てしまうと後回しにしてしまうパターンだ。映画の方も楽しみだ。

全26件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1974年広島県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。在学中から映画製作の現場に入り、是枝裕和監督などの作品にスタッフとして参加。2002年脚本・監督デビュー作『蛇イチゴ』で数々の賞を受賞し、2006年『ゆれる』で毎日映画コンクール日本映画大賞など様々の国内映画賞を受賞。2009年公開の長編第三作『ディア・ドクター』が日本アカデミー賞最優秀脚本賞、芸術選奨新人賞に選ばれ、国内外で絶賛される。2015年には小説『永い言い訳』で第28回山本周五郎賞候補、第153回直木賞候補。2016年に自身により映画化。

西川美和の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
朝井 リョウ
西 加奈子
池井戸 潤
平野 啓一郎
恩田 陸
宇佐見りん
村田 沙耶香
又吉 直樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×