- Amazon.co.jp ・電子書籍 (787ページ)
感想・レビュー・書評
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各方面の専門家が、それぞれの視点で語る『シン・ゴジラ』。
かつて、これだけ幅のある世界の人々に、
映画公開からこれだけ短い期間にここまで口を開かせた
ゴジラ映画があっただろうか。それだけ『シン・ゴジラ』は
何かを言わずにはいられなくするような作品だったんでしょうね〜。
いろんな人のいろんな見方が盛りだくさん。お腹いっぱいになりつつ
映画本編をもう一度見直したくなる本でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
何はともあれ加藤典洋氏の論評が読めるのが最大の収穫。
氏のゴジラへの執着は基本的には「戦争の亡霊としてのゴジラ」という思想的側面からきているわけだが、インタビューである本書ではその辺の議論に濃厚さはない。むしろ、ゴジラをそもそも知らない、というバーチャルな日本を舞台にしたことが一種の「スーパーフラット感」を生んでいる、といった氏のもう一つの専門分野である美学、表象文化論的なアプローチが目立った。これはこれで興味深い。
石破茂衆院議員の「自衛隊防衛出動の妥当性」についてのインタビューも面白い。氏が、危機への対処としての自衛隊活用に対して非常に抑制的な考えを持っていることが改めてよくわかる(各論でいうと、彼が言っている「映画のシナリオとは言え、自衛隊はゴジラに対して防衛出動はできない。適用できる法令があるとすれば害獣駆除」という点は、脚本の中で無視されていたわけではない)。
その他建築の専門家によるコンクリートの強度の話だの、最先端のマッピング技術によるゴジラの進行ルート推定だの、いちいち楽しすぎて足をバタバタさせながら読了したわけであるが、個人的に白眉だったのは片山杜秀氏による音楽とシナリオの関係についての論考。伊福部昭氏の音楽の使い方が物語の前後半で全く違う、その意味についての解説の切れ味が鋭すぎて悶絶。
余談としても、「ゴジラは伊福部氏に会うために鎌倉から東京までああいうルートを通ったのでは。伊福部さんは、晩年まで暮らし、テーマ曲の作曲もした尾山台からゴジラを見ていたはず」なんていう小ネタが感動を誘う。
満喫。 -
教養に次ぐ教養。ひとつの映画作品からここまで話が広がることの凄さ。
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執筆者が豪華なシン・ゴジラの同人誌。各分野の専門家がシン・ゴジラを見た感想を好き勝手に語る。演出が現実的に正しいかどうかを知るのは面白い。
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web連載の、著名人によるシン・ゴジラ解説本。
それぞれ自分の得意分野から、多大な情報量を持ち、解説不十分なシン・ゴジラを読み解く読み物。
私のシン・ゴジラは、ちょうど「君の名は。」が久しぶりの映画館体験となって、映画館で映画を見る良さを思い出し、こちらも見てみようと行ったものだった。おかげで予備知識はろくになく、まあ楽しく見させていただいた。
見ているところでは「そううまくいくものか」と思うところも多々あったが、物語はそうしたものだし、実は現実のほうが出鱈目な成功を成し遂げたりする。
こちらの解釈を読んでいて、一番私の視点から遠く面白かったのが、最後の「春と修羅」に関わる解説だった。
脚本としていろいろ込めようとしたものからすると、一番腑に落ちて、なるほどと思わされた。
このようなことで人の意見を聞くのは楽しいものだ。 -
20170402 019
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様々な視点から読み解かれる面白さ。/ゴジラには、防衛出動でなくても対応可能。深い洞察力と、信念に基づいた行動、いざとなれば腹を切る覚悟のある矢口が本作品最大のフィクション。大事な情報だけあげて欲しいと思いつつも、現場が大事でないと思った情報が必要なこともある。「情報を吸い上げる結束点たる人物」の必要性。枝野幸男氏が実名で登場する「太陽の蓋」という映画。ゴジラに超法規的出動が許され他ことに、憲法と自衛隊をめぐる戦後日本の議論はなんだったのかという思い。尾頭ヒロミのモデルが、霞ヶ関官僚の間でまことしやかに囁かれたこと。巨災対の苦闘のディテールが、果てしない徹夜仕事の記憶を呼びさます。硬直化したはずの官僚制度が、民間と軌を一にして、単純な一目的のために有効に機能するというシーン、それも無理は多いが、官製サプライチェーンならやるだろう、という現場関係者。おにぎりの差し入れが一拍入れるような穏やかな空気を流した。いつ復活するともしれない凍ったゴジラを抱えるリスクと引き換えに、日本は国際社会でさまざまなカードを手に。大手町に実はITインフラの根幹部分が集中していること。脚本にわざと破れを作っておくことで、様々な読みを呼び込む仕掛けなのではないか、という指摘。発生可能上映を、ニコニコ動画上に流れるコメントを実際に人が集まって声に出しているイメージに近い、と語る人。ゴジラの進路を地政学的に分析し、1 京急が不憫、2 巨大不明生物の重さに耐えた日本の陸橋すごい、ということを導き出す人。爆撃対象の地図の空白を皇居と推定する人。「実写映画は縁を映し出すもの」。「ゴジラもゴジラ映画も存在しない架空の日本社会」という設定。ゴジラが反戦反水爆映画なら向かうべきはアメリカで繰り返し日本を襲う理由は説明できない。音楽の引用は、映画が映画そのもので完結しなくなる、観客の脳内で記憶の暴走を起こす。シン・ゴジラ、エヴァ、3・11の重ね合わせ。伊福部昭の家の方に、伊福部昭の音楽に乗って、ゴジラがやってくる。硫化水素を取り込んでエネルギー源にする深海生物。血液凝固剤の経口投与の有効性への疑念。春と修羅、と重ね合わせ、現象としてのわたくしの明滅に呼応して、初めて世界が生まれる、ヤシオリ作戦のありようと重ねる見方。船に置かれた折り鶴と春と修羅は、ヒントであったのでは、と。”「ゴジラという現象」に立ち向かう「日本という現象」を支えるのは、「大統領」のような「個」ではなく、無数の、名が残されることもな人々の営為だった”。
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シン・ゴジラの映画自体よりも、この作品に熱狂している人々を見ている方が、断然面白い。日経ビジネスが、作品のリアリティなどについて、政府関係者や各分野の専門家などへのインタビューを纏めて書籍の形にしたものです。
予想通り、怪獣映画の括りではなく、クライシス映画としての側面について掘り下げている章が大部分でした。よって、普通のビジネス書を読む感覚で読み進める事が出来ました。
いずれにせよ、ファンが様々な解釈を述べ始めたら、その映画は成功だと思うので、そういう意味でもこの作品は大成功なのでしょう。
この映画に思い入れが無い自分としては、書籍の後半のパートは少々飽きてしまいました。しかし、3.11を超えた人(別に日本人かどうかは問わず)じゃないと、共感が難しい作品なんじゃないかな。と思ったことには変わり無いです。逆に言うと海外で上映しても3.11の事を体感を持ってないとこの作品の評価がしづらいと思いました。