風俗で働いている女の子がみんな同じような顔なのはいいとして…
風俗が大好きな主人公。飲み会の誘いを断り、暇があれば、ソープ、デリヘル、イメクラ等など。
その主人公は最終巻で会社の女の子の誘いを断り、また風俗に通う。一見、最初からなんにも変わってねーじゃねえか! と思うんだけど、彼は1巻の状態とは違っている。
そもそも風俗に通い始めたのは、彼女へのプロポーズに失敗して、女性や人間そのものとの付き合いに失望してしまったからだった。その後、その元カノが子供を連れて歩いているところに遭遇した主人公は、彼女に「なぜプロポーズを断ったのか?」と尋ねる。そこで元カノの台詞、
「あなたは自分のことしか考えていない人間、変わってないね」。
主人公側から見ると、そんなことを言う元カノは冷たくみえる。でも元カノからしたら? ひどい振り方した元カレなんて、結婚生活を脅かす邪魔者でしかない。その後、元カノに連絡先を聞こうとするのも、かんべんしてくれって感じだろう。
では、物語を通して主人公は成長するのか?
最終巻である6巻では、主人公の勤めている会社で働いていた派遣職員の郷田さんが、金銭的理由から風俗嬢に落ちてしまい、その後の経緯を追うエピソードがクライマックスとなっている。郷田さんは、その入院と治療の費用のため風俗嬢になる理由となった父親を看取り、その葬式に主人公も出席する。
その後、主人公は彼女と本作で初めて風俗ではないセックスをして、郷田さんを源氏名ではない「由夏」という本名で呼ぶことができるんだけど…
(ピロートークで)
主人公「今度海外に出張するんだ! 3年は帰らない! 一緒にいこう!」
無理だろ。
母親がいなくて葬式も喪主でやった郷田さんがいきなり海外いけるわけ無いし、社会人なりたてっぽい弟もいるし。
郷田さんは一気に冷めただろうね。ここで、「3年後待ってて欲しい!」 と言えないのが、中途半端に良い人な主人公らしい。郷田さんみたいな女なら喜んで待つだろうに。または、「何もかも捨てて俺についてこい!」なら、まだ郷田さんの背景を踏まえての発言なのだからよかったかも。
で、結局郷田さんとは破局。それから四年後にスーパーマーケットで子供を連れた幸せそうな彼女に再会する。
そこで主人公は郷田さんに心から「よかったね」と告げ、自身のトラウマを晴らすとともに、出会った全ての風俗嬢を郷田さんとだぶらせて、彼女たちの代表として救われた姿に安堵する…てな感じ。
(郷田さんは子供の大きさからして主人公と別れたあと今の旦那とすぐ(好意的な解釈)くっついたっぽいけどね。風俗嬢はあなた一人のものじゃないんだよって暗に言われているみたい)
なら主人公の何が変わったのか? というと、それは、結婚もせず、会社の付き合いも悪く、風俗に行く自分のことを肯定できるようになったこと。
本書に出てくる風俗嬢は、なんらかの目的があって働いている。海外留学だったり、整形だったり、単に生活のためだったり。
アングラな世界ではあるが、いやいや働くよりも、自身の生き方を割り切り、「風俗が好き」と言ったり、生き生きとサービスに勤めたりする嬢のほうが魅力的に描かれている。
郷田さんとの再会により、風俗通いの根幹となるトラウマを晴らした主人公は、それでも自分の趣味として風俗に通い続け、それを肯定する。今までに出会った魅力的な風俗嬢たちのように。
一般的にはそれを成長とは言わないだろうし、これから主人公はいつかうんざりとして予想した「孤独なおじさん」になるだろう。でも、彼は彼の経験の中でそれを肯定できる理由を見つけている。それはなんとなく羨ましいことなのかも知れない。