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感想・レビュー・書評
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たった今、第6話の「デコイとブンタ」を読み終わったところ。
口から感嘆のため息が漏れました。
観覧車に乗ったデコイとブンタに、ある事件が起こり、心臓がドキドキしました。
あんなことが起きたら、誰だって絶望します。
一体、どうなってしまうんだ?
ページを繰る手が止まりません。
ラスト数行を読み、ジンと胸に来ました。
しばし余韻に浸り、文庫で2ページ余りの「エピローグ」を読んで読了。
ずっと読んでいたかった、この世界にいつまでも浸っていたかった、と寂しい思いで本を閉じました。
私の知る限り、本読みでは右に出る人がいないと言っていいIさんが、Facebookで勧めていたのが本書。
実は、恥ずかしながら稲見一良という作家を知りませんでした。
気になってAmazonで本書を取り寄せ、さっそく読み始めました。
第一印象は「日本の作家が書いた小説とは思えない」というもの。
文章からドメスティックな匂いが全くしないのです。
日本人の固有名詞さえ出てこなければ、欧米の作家の作だと言われても、私は気づかなかったでしょう(ブローティガンとか?)。
緊密な文章ですが、テンポが良く軽やかで、それに何より美しい。
2、3行も読めば完全に持って行かれます。
ドメスティックな感じがしないというのは、文体だけではありません。
作品の内容も内向きではなく、外に開かれています。
読んでいる間中、野を吹き渡る風を感じていました。
おいおい、オーバーだろう、という向きがあるかもしれません。
でも本書を読んだ方なら、恐らく同意してくれるでしょう。
もう少し具体的に紹介した方がいいかもしれません。
本書は、プロローグと第1話「望遠」、第2話「パッセンジャー」、第3話「密猟志願」、モノローグを挟んで、第4話「ホイッパーウィル」、第5話「波の枕」、そして第6話「デコイとブンタ」、エピローグという構成。
どれも、濃淡はありますが、思うに任せぬ自然が前面にせり出してくる作品ばかりです。
リョコウバトの大量虐殺を扱った「パッセンジャー」、会社を辞めた初老の男と、狩猟に長けた少年の交友を描いた「密猟志願」が特に印象に残りました。
脱獄囚を追う「ホイッパーウィル」も、緊迫感と臨場感に富んでいて実にいい。
つまり、全部いい。
全て、熟読玩味すべき傑作と言えましょう。
お墓に入れてほしい1冊は? と問われて、「ダック・コール」と答える人がいても、私は不思議に思いません。
Iさん、ありがとうございます。詳細をみるコメント0件をすべて表示