うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間 (文春e-book) [Kindle]
- 文藝春秋 (2018年7月13日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (127ページ)
感想・レビュー・書評
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読み終わったばかりで興奮している。
だけど言葉に落としたい気持ちが強くて。
自分に正直な人の言葉はそれだけで価値がある。
それはむずかしいことだから。
不特定多数の人にむけて何かを発表するようなときは特に。
そして自分に正直なうえ、客観的な言葉であるならば、
それは間違いなく面白い本だ。
棋士の頭脳というのはなんて正確に物事をうつすのだろうか。
こんなにうつ病について理解しやすい本が他にあるだろうか。
うつの入門書としても、広く世に出回ってほしい。
この内容の全てが、自分に正直な言葉で書かれているから、
読んでいて、受け入れやすいんだと思う。
この人であるから書けた本だ。
ちなみに将棋のこと全く知らない私が
この本を手にとったのは、
その装丁と(黄色くてポップ、そしてタイトル)
3月のライオンでコラムを書いていた方だったから。
先崎先生、表紙よりオトコマエだと思うけどなっ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
先崎学九段が病気により順位戦を休場する、という話をきたときには、ああ、先崎先生も五十に近くなり、大酒飲みということもあって肝臓でも壊したのかな、療養して早く復帰できるといいな、程度に思っていたのだが、意外も意外、実はうつ病で入院生活を余儀なくされていた、と去年の復帰後に聞き及び、驚いたことを覚えている。
この本は、その闘病生活と、うつ病が「心の病気」などではなく、脳の疾患であり、誰でも、文字通り誰でも罹る可能性のある病気であり、決して心が強いとかメンタルが丈夫とか言うこととは関係なしにまさに内臓の疾患などと同様に罹患するもので、しかもこれは必ず自らの治癒能力で治る、ということを、血を吐くような思いで書き綴った闘病記である。
ここまで真に迫って自らの病を、そしてその病との戦いを書いた闘病書というのはうつに限って言えばなかなかないのではないか。
七手詰めの詰将棋が解けなくて思わず泣いた、という描写には、プロ棋士というプライドと脳の病によってそのプライドの土台がもろくも崩されるショックがありありと描かれており、これはうつ病を患った、あるいはその患者を家族に持った人々への大きな救い、慰め、心強い一冊になるのではないかと思う。
羽生世代のファンとしては、佐藤会長、久保王将、深浦九段らトップの座からなかなかしぶとく生き残っている面々をもっともっと応援していきたい。
当然屋敷、行方、森内先生らもこのまま沈んでいくのではなく、台頭する若手の高く険しい壁となりまだまだしぶとく晴れ舞台に戻ってくるような意地を見せていただきたい。もちろん先崎先生にも。 -
プロ棋士先崎学九段のうつ病闘病記。筆を取ったのも回復期の途上であり完調したわけではない時期だそうだ。一線で活躍している方が、自身のうつ病に関する闘病日記を書くということ自体珍しい。誰でもなる可能性があるし、ストレス社会の現代では周りにだって起こり得るわけで、色んな視点で読める本。将棋ファンとしては、やはり棋士という人達は…と思わざるを得ない部分もあれど、素直に順位戦への復帰を祝いたい気持ち。
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棋士なのに
7手詰めが解けなくなった絶望感は
棋士だからこそ 恐ろしい・・・・
他に仕事をすればいいというものじゃ
ないですよね
自分が全部なくなってしまいそう
この絶望感をどう乗り切るのか
それが大事なんですね -
うつ病により、一時棋界を休場した著者による闘病記。うつ病にかかった本人ならではの角度から、その病の一つのパターンの実像を描いています。病状まっただなかにいる時の苦しみ(苦しみすら苦しみと感じないようなところもある)、「3歩進んで2歩下がる」といった感じの長い治癒への道のり。映画『冬のライオン』の監修にも携わっていた、ということで、あれだけの面白い映画を支えるだけでも相当忙しかったんだろうな。終盤、幼少期での苦難の回想からも、この人はがんばり屋、努力家なんだとわかったし、でも気をつけないと、そうしたがんばりを続けることが、うつを招く危険性ももたらすのかな、なんてことを思いました。また、うつは心の病でなく脳の病である、という示唆は、まだこの病に対する偏見がある社会に対して発信していく必要があると感じました。
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プロ棋士の先生の闘病記
うつ病に対して心の病気ではなく
脳の病気、死ななければ治る病気と
いううのは、なかなか闘病中の患者さんにも
理解する事大変だと思います。
脳を休める事は大切ですね
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プロ棋士の先崎学さんがうつ病になった時から回復するまでの経過が書かれた本です。昔精神的に病んでいた時期があったので、その当時を思い出しつつ読んでいました。世界が色を失うという感覚や、人混みを見ると足がすくむというのは共感できました。回復のきっかけとなったのは強い気持ちだと思います。今まで棋士として生きてきた先崎さんにとって将棋が弱くなることが耐えられない、だから必ず将棋界に復帰してやるんだという気持ちが前へと推し進めていったと感じました。
今の私は弱い状態にあるので、しけった心に火を付けるきっかけになってくれればと思います。 -
『3月のライオン』の監修でもおなじみのプロ棋士がうつ病になった実話。うつ病発症から回復期までが書いてある。本書では果たしてプロ棋士として復帰できるか、で終わるが、Wikipediaを見たところ復帰はできたようである。
うつ病患者の闘病記というところが本書のポイント。うつがどのように辛いのか、本人の実感がこもっている。棋士なのでいかに頭が働かなくなるか、棋力である程度は定量的に判断できるのが面白い。
しかし本人がいかに辛いとはいえ、環境が恵まれていると言わざるを得ない。実の兄が精神科医で、妻が囲碁棋士なのだから。それでもあれほど苦労していることを考えると、一般的な家庭で父親がうつ病になると、一体どれほど大変なのかと思ってしまう。 -
あの先崎学さんがうつ病になっておられたとは!!!という衝撃と、うつ病真っ最中の心情から回復の過程まで詳らかに告白されている貴重な本。精神科医としてもとても興味深く読んだ。先崎さんのお兄さんは大変優れた精神科医のようでそれは弟である学さんにかける言葉からもわかる。この本の私の精神科医として貴重な点は、うつ病期の何もやれないときは退屈すら考えられないことが実感としてわかったこと、どのような対応や周囲の声かけが本人に心強いかがわかったことにもあったが、最大はこれだ。つまり、回復過程が将棋の難易度の上昇という、医学物差しではない、しかし十分に定量的な指標で示されていることだ。先崎さんの勇気に感謝するとともに、さらなる回復を祈りたい。