消滅世界 (河出文庫) [Kindle]

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  • 河出書房新社
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感想・レビュー・書評

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  • 思考実験みたいな本だった。思考実験だからいいんだけど、みんな恋と結婚と子供の話しかしてなかった。
    私は正直主人公が元々住んでいた世界に行きたい。

    --以下若干ネタバレ長文--
    小説内の価値観は大きく2段階「アップデート」が行われていて、主人公視点で説明すると
    ①昔の価値観(現実世界の価値観)
    ②今の価値観(子供は人工xxで産む、夫婦間恋愛はタブー)
    ③実験都市内の価値観(大人はみんな“おかあさん”、子供はみんな“子供ちゃん”)
    という感じ。

    私から見た印象をかなり雑に表現すると②はユートピアで、③はホルガ村。実験都市は千葉県という設定なので千葉ホルガ村だわよ。クルーシオ!

    「目的はロマンティック・ラブ・イデオロギー(=①)の解体」ってあとがきに書いてあったから多分本当にそうなんだろうな。だってあとがきに書いてあるし。
    描きたかったのは「最後のシーンの主人公気持ち悪くないですか?でもそれって今の価値観から見て何がおかしいんですか?」ってことなんだろう。このシーンで全ての価値観が相対化されたような気がしているけれど、本当にそうなのか考えていく。

    ③の世界が仮に実験都市から全国へ広がるとしたら、生の連鎖に特化した思想に染まって、死への向き合い方も変わってるんじゃないかと思う。同調圧力+安楽死合法化は、容易に想像できる。実験都市内での自然死からの砂漠葬(勝手に命名)が描かれていたのは、個が消滅した世界観とはいえあくまで生命の誕生に関する実験都市だからそうなっているだけなんだろう。
    ただ、あまりに生命の誕生に特化した世界観で、別に人類滅んでもいい派とか子供嫌いな人が無視されすぎている。③は実験都市止まりだろうなと思った。少年漫画の“600年前の真実”みたいな価値観。

    ②の世界は、私にとってはユートピア。あとがきで「女にとってユートピア小説、男にとってディストピア小説」って書いてあってウケた。どこが理想的か説明しようと思ったら、主人公が②の世界にいる間の小説をそのままコピペすることになってしまうので書かない。
    だからこそ、商業的に欲望が作り出されているというセリフにはハッとした。美少女アニメはファストフード。恋はリソースの無駄遣い。こういう考えが、千葉ホグワーツに設置される電話ボックスみたいな××××機につながるんだろう。

    つまり①に生きている私からの視点では、②は違和感がなく、③は気持ち悪い。

    主人公(②の価値観)と研修医になった元恋人(③の価値観)が会話するシーンでは、お互い「その価値観に染まっているんだねぇ(憐憫)」という趣旨のことを言い合っていた。
    最後のシーンでは、③の世界の中で①を再構築した結果、読者をドン引きさせることに成功している。

    まとめると
    ・①と②、②と③はシームレス
    ・①と③の間には大きな隔たりがある
    ・それなのに、②を経由することで①であったはずの人類が③に行き着いてしまう

    となりました!
    歴史を語る以外で①を否定ないし相対化する方法を編み出したのすごいな!


    ここまで考えたけど、生きている間に②の世界になってくれたら嬉しいなと思っている気持ちは変わらなかった。
    自由恋愛による結婚なんてごくごく最近の価値観で脆いものだと思ってる。でもそれが今の形な以上、家族の変質と恋愛の変質は同時に起こらざるを得ない。今の日本でどっちが固定されそうかと言ったら家族のほう。これは希望ではなくただの推測。
    え〜やっぱり②に行きたいよ私は。友達とのルームシェアも結婚して家族になるのも実際変わらない世界。いいなあ。生きてるうちは…無理だろうな…

  • SF/ファンタジーの体裁をとった家族、愛情、セックスをテーマとした文芸作品。ガジェットはテーマを語るための最小限の説明しかないので、SFというには厳しい。社会学的な考察もこの物語の目的ではない。あくまでも、個人の主観的な範囲内での問題提起であった。
    薄いといえば薄いのかもしれないけど、この問題をこってりやられても読みにくいだろうなとは思った。

  • 夫婦間の性行為は近親相姦とされ、子どもは人工授精で生む世界。古い常識を大切にする母親の元で、この世界では稀な出生の秘密を持つ主人公の女性が、母親から受けた教育と世間の常識のズレの中で悩み、結婚後は「家族」ではなく「社会」で子育てをする実験都市(千葉!)に移住する。SF古典の「はだかの太陽」や「素晴らしい新世界」にもあるような設定ではあるが、舞台が身近で現実に近い世界に感じさせられる。時代時代で常識は変わってきたと考えると、今の常識が通用しない未来も絵空事ではないだろうし、「常識」に人が簡単に染まっていく様子もリアルで怖い小説だった。

  • 価値観ぶっこわれる。
    読後のぞわぞわ感がすごい。
    こういう、ありえないけど、ありえるかもしれない小説が好みなのかも。

  • 恋愛観、家族観、地域社会の在り方が覆される世界を描いている。物語が進むにつれて、世の中は人間の性的要求が否定される方向へ移行していく。主人公は順応しているように見えつつも葛藤しており、矛盾した行動を取ってしまう。そして「正常であることが最大の狂気」という名言も飛び出す。
    作者の想像力に驚かされる一方で、実は意外と現実味を帯びている将来を描いているんじゃないかと疑わざるを得ない、不気味な読後感であった。

  • 『村田さやかすごい』
    語彙力が乏しすぎて読んでる間に何回これ思っただろて感じ
    よくこんな発想できたな、SFとかの世界観じゃなく、つとめて冷静にセックスのない世界を描いてる。
    セックスをしないパートナーを作って子供を育てる
    わたしの状況もあいまって、こういう世界もありだったなておもったし今よりかなり住み良いのかもね

    わくわくとかはらはらして本の世界観にはまっていくようなそんな弾むような気持ちじゃなくて、この本はしずかに引き込まれてしまう感じ。すごく興味深くて面白いんだけどちょっと怖いきもち

  • テーマはすごく面白いのに、千葉に行くまでの話がだれてしまっているように感じた。
    一まとまりのものとして捉えられてきた性・愛・結婚・出産・子育てを一旦バラバラにして再構成した世界を考える。

  • 「コンビニ人間」を読んでから、村田さんの作品にハマり、「殺人出産」なども読んだが、どれも本当にその発想に脱帽する。ただ、共通しているのは、「常識」への懐疑である。
    本作は、家族や性という人間の根源的なものに対する懐疑的SFであるが、あり得ないとも笑い飛ばせないところが面白い。
    ほんの少し前までは、スマートフォンがここまで普及することなんて誰も想像していなかった。SFの世界だった。それが今やスマートフォンがない生活は想像もできない。
    それと同じで、家族が、SEXがないことが常識の世界になれば、我々がそれはそれで順応し、それが「普通」だと思えてくるのかもしれない。
    「常識」とは何か?「普通」とは何か?それは本当にただ一つの答えなのか?その「常識」が全く違う「常識」に置き換わったら生きていけないのか?
    そんなことを問いかけてきて、少し考えさせられる良作である。

  • 「みんな同じ格好同じ髪型の子供達」という部分はいかにもなディストピアぽいけれど、実験都市千葉には魅力的な部分も多くて、それがよりこの作品の説得力を増している

    恋愛→結婚→出産という現在みんなが正しいと認識している価値観も空虚な幻想であると暴くと同時に、人間のいろいろな可能性を考えれるものになっている

    追記
    最後のシーンは強烈でレイプ(という概念はないのかもだけど)思い返せばゲイの友人をだまくらかしてセックスしたり、恋人に本当はセックスするのが辛かったと言わせたりセックスの暴力性についても考えてしまう

  • 「薄くて読みやすそう」
    「王様のブランチでみたかもー」
    で手を出すと失敗する。
    やわな価値観と常識はガラクタになります。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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