[ふゆ side]
すごいものを読んだ。めちゃくちゃ面白かった。
話は、実際に起こった事件を下敷きにしたノワール。登場人物たちの思惑や抱えているもの、事件の複雑性が絡み合って、最初に読んだときは隅から隅まで理解しながら読んでいたとは言えなかったのだけど、巻末に入っている佐伯視点の 2 作を読んだときに、それまでの話のカラーががらりと変わって見え、結局、何度も読み込むことになった。特に「コオリの女王」がすごい。本編と重なるエピソードがいくつもあるのだけど、翔視点で見たそれぞれのシーンが、佐伯の目で見ると全然違ったものになる。主観の怖さよ。
いちばん捉えづらかったのは鬼戸のキャラで、へりくだっていたり、コミカルだったり、不遜だったりで、頭のなかのパターンにはめ込もうとすると負けてしまう。なぜ鬼戸が翔を「見つけた」のか、鬼戸と翔とのどこが「同じ」なのか、答えに辿り着くためには、そこにかぶさっているいくつかの層を取っ払わないといけない。翔に関しては、「佐伯」をめくるだけで辿り着くことが容易だったそこが、鬼戸に関しては難しい。それもそのはずで、一体何枚の層で自分を覆って、それを見えなくさせているのか。比較的翔はわかりやすいと思う。鬼戸のキャラクター設定がすごいと思った。鬼戸の見た目もとてもいい。大きな身体。BL 漫画としては、腋毛も含めて多い体毛。厚そうな唇。その外見あってこその鬼戸だと思う。
上巻から、課長が何度か出てくる。このひとつひとつのシーンで、かれが何を考えながら鬼戸を見ているのか。それを考えるだけでも割とぞっとするが、初読時にはすべて見逃していたエピソードだった。
読後はただただ、すげえ、としか言えない。つい、下敷きにされた道警の事件も調べてしまったり。事実は漫画と同等かそれ以上に奇なり。