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感想・レビュー・書評
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「お願いおむらいす」
プロのギタリストを目指す『太一』は、彼女の妊娠を期に、葛藤しながらも就職することに。ロック系雑誌出版社に就職したものの、配属されたのは食のイベント『ぐるフェス』の清掃部門で・・・
24歳、夢を追い続けるか諦めるか、確かに難しい年齢。
「言い訳が通用しない状況に追い込まれてなお、捨てられないのなら、その気持ちは本物」人生経験を積んでいるであろう年配の言葉は刺さる。
「キャロナイナ・リーパー」
父親と馬が合わず遠のいていた家族に呼ばれ会いに行った『歩子』。待ち合わせ先の公園で行われていた『ぐるフェス』会場で聞かされたのは、母親代わりに育ててくれた姉が、5年生存率という癌に罹っているという事実だった。
似ている故反発してしまう父娘、正反対だけど仲良しの姉妹。関係はどうあれ、家族に何かあった時は自分を責めてしまうもの。
「やってくる出来事のほぼ全てが自分ではどうする事も出来ない。代わりにどんな些細なことでも自分にできることをやれ」怒ったりおろおろしたりする父親の姿が胸に刺さる。
ちなみに「キャロライナ・リーパー」とは、キャロライナの死神、めちゃくちゃ辛いとうがらし。
「老若麺」
妻子を地元に残し、東京のラーメン屋で修行中の『崇』。先輩の手伝いとして、「ぐるフェス」に参加するも一向に客足が伸びない。その理由は明らかだった。先輩の造るラーメンには「たましい」が欠けているからだ。でも、「たましい」ってなんだ?
なんだか非常に強烈な先輩に振り回される主人公。この話だけちょっとコミカル。
料理は自分のために作るものじゃない。ひとのため、大切な誰かの笑顔のために作るもの。
「ミュータントおじや」
「ぐるフェス」の公式ソングうを歌う25歳のがけっぷちアイドル『美優』。フェスに毎日顔を出す熱心な女子中学生のファンを心配しつつもうざいと思っていたが、アクシデントからその娘を家に泊めることになってしまう。
何事も続けるのは大変。傍からは分からない苦労がある。それでも諦めたくないこともある。
それでも、そう、届けなくちゃ。ひとりでもあたしを必要としてくれるひとがいるかぎり。
「フチモチの唄」
60手前でリストラに遭った『浩』は、ぐるフェスの清掃のバイト中に高齢の母が倒れたとの連絡を受け病院に駆けつける。検査の結果は癌で余命数ヶ月。
どこへ母を移すべきか、母の帰りたい家とは?浩が出した決断とは・・・
ステージが一緒なので身につまされる。本当はこんな風に相手の望むように送ってあげられればいいのだろうけど、なかなか難しい。後悔ばかりが残る。
なんのためにここまで来たんだ。自分の目的はなんだったんだ。
春と秋、東京郊外の広大な公園で開かれる、あらゆる食のお祭り「ぐるめフェスタ」略して「ぐるフェス」(ちなみに公式ソングは「お願いおむらいす」)に関わる人達の物語。
出展者、来場者はもちろんスタッフやイベント出演者まで様々な顔ぶれ。共通しているのは迷いを抱えていること。何が正解なんて分からない、後悔するかもしれないけど前に進む。やりたいことを諦めないのはもちろんだけど、大切な人の為、誰かの為にやるのも大切なこと。
切ない話が多いけど、元気ももらえる。
各話が絶妙にリンクしていたり、ラストではこれまでの登場人物のその後を、映画のエンディングに差し込むみたいに垣間見れるのもよかった。
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