奇書の世界史 歴史を動かす“ヤバい書物”の物語 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • ニコニコ動画&YouTubeに投稿しているという著者の、動画シリーズ「世界の奇書をゆっくり研究」の書籍化。挿絵と図版を多く入れて、分かりやすいつくりになっている。
    本書で言う奇書とは、かつて名著ともてはやされていたのに、時代の移り変わりの中で奇書の扱いを受けるようになってしまった本、という意味合いだ。

    取り上げられた15冊は、初めて聞く書名もちらほら。
    「本編」は、かつて一般大衆に受け入れられたものの現代では奇書になってしまった書物。
    「番外編」はその逆で、かつて奇書やフィクションの類と目されたにも関わらず現代では名著として称えられているものを紹介。

    ということで、本編から印象に残った一冊を。
    「ヴォイニッチ手稿」と呼ばれているらしいが正式な書名はないという。
    1912年イタリアの古物商だったヴォイニッチが発見したためその名がある。
    植物・天文・生物・薬草などについて挿絵とともにぎっしりと書かれているというのだが、全編通じて文字が暗号化されているという。
    プロ・アマ含め様々なひとが解読に挑戦したらしい。現代では手稿がテキストデータ化されて、誰でも閲覧できるというから興味があったら見てみてね。
    偽物か本物か、仮説もいくつかあるが今もって読めたひとがいないらしい。
    うーん、苦労が報われるだけの内容だと良いけれど。。

    もうひとつは番外編から。
    サルゴンスキーの「ルバイヤート」。
    1911年英国で書物の装丁を専門に手掛ける「サルゴンスキー&サトクリフ社」が製本した宝石装丁の豪華本のこと。
    表紙を繊細な刺繍で彩り、中央には6個の真珠がはめ込まれていたのだとか。
    「ルバイヤート」というのはペルシャ(今のイラン)の詩人・ウマル・ハイヤームが11世紀に著した詩集のこと。「ルバイヤート」の書名で岩波から出ているので、こちらもぜひ。
    この世で最も美しいと言われた本が、手にした人々を次々に悲運に巻き込む。

    大金で落札した豪華本を、無事に本国アメリカに持ち帰ろうと乗ったのがあの「タイタニック号」。残念ながら海に沈んでしまう。
    その2か月半後装幀を手掛けたサルゴンスキーが37歳の若さで溺死。
    その後7年の歳月をかけてサトクリフの甥が複製を制作。
    しかし第二次大戦のさなか、地下金庫に厳重に保管されていたにも関わらず空襲による直撃を受けて消失。
    それでもめげずに48年もの歳月をかけて再度複製に挑戦し、1989年に完成したという。
    現在は大英博物館に収蔵されており、検索するとその姿が拝める。いやぁ本物を見たい。。

    「ルバイヤート」を著したウマル・ハイヤームという人物も魅力的だ。
    この酔っ払いオジサンの素朴な詩が好きで、私も時々開くことがある。
    呪われた本などと呼ばれたこともあっただろう。
    今は時空を超えて、世界中のルバイヤートファンの心を掴んでいる。

    奇書と呼ばれる本の背景にたちあがる時代の変遷。価値の変化。
    何が良くて何が悪いのか。評価とは何か。絶対などというものはない。
    歴史って面白いなどと安直には言えない。ひとの営みはエンタメではないのだから。
    今でこそ信じられないが、「魔女に与える鉄槌」という本が1486年に出てから、増版を重ねること実に34版だったらしい。
    魔女狩りが本格化するきっかけを作った本は、そんなに支持されたのだ。
    私たちが読んできた本は、後の世の人たちにどう言われることやらである。100年後にも読み継がれる本を読みたいものだが。

    やや誇張ぎみのフォントと挿絵が気になるが、本好きさんの好奇心を刺激することは確か。
    5千円札に載っていた新渡戸稲造さんが、野球は教育上・発育上よろしくないという批判をしている本も掲載されている。そこはぜひ笑ってね。

    • nejidonさん
      ああー!!知りませんでした!
      とんだ凡ミスですね。
      何てことでしょ。今度からはそうします。
      夜型さん、ありがとうございます(^^♪
      ...
      ああー!!知りませんでした!
      とんだ凡ミスですね。
      何てことでしょ。今度からはそうします。
      夜型さん、ありがとうございます(^^♪

      セミナーとか自己啓発とかの類ではありません。
      超越瞑想を書かれたのはマハリシさんというインドの方で、一番弟子が当時石神井にお住まいでした。私にとっては近かったのです。
      本の内容についてもう少し知りたくて門を叩いたまでで、後にも先にもそんなのは私だけだそうです・笑
      合理的な仏教の教えが一番馴染むと分かったのはもう少し後のことで、まだ道を求める半ばでした。でも快くお相手してくださいましたよ。

      瀧本先生は早すぎましたね。残念に思います。
      ひとたび世の流れに乗ろうとすればどうしてもお金が先立ちます。
      違う生き方を望むなら、流れを無視するしかありません。なんと言われようとね。
      2020/08/26
    • 夜型さん
      読書猿さんをフォローしていて知った情報でした。
      共有出来て良かったです。

      それは、たいへん失礼致しました…。
      聞いた限りで、物凄く...
      読書猿さんをフォローしていて知った情報でした。
      共有出来て良かったです。

      それは、たいへん失礼致しました…。
      聞いた限りで、物凄く深淵な世界かと思いました。ほんとうにすごいなぁ。ブクログでじぶんの知らない世界を垣間見るとは思わなんだ。しかも日本の中にいらっしゃったんですね。
      他方で、世の中には紛い物が出回りすぎていますね。
      仏教哲学は理解するには一筋縄ではいかないですね。専門書が山のようにあります。
      結局、神だとか運命だとかに支配されずに生きるにはひとの生を考え抜いた仏教がいちばんなのかなと、思います。
      その意味では、お金の考えから逆行するには、もっともよい先人の知恵かもしれません。
      2020/08/26
    • nejidonさん
      夜型さん、私もまさかこのような話をするとは思いませんでした。
      お釈迦様のお弟子の中に周利槃特という者がいたそうです。
      死後お墓の周りに茗...
      夜型さん、私もまさかこのような話をするとは思いませんでした。
      お釈迦様のお弟子の中に周利槃特という者がいたそうです。
      死後お墓の周りに茗荷の花が咲いたことで有名なひとです。
      人一倍覚えの悪い僧が、お釈迦様から教わったたったひとつの教えを守り抜いて、阿羅漢にまでなったという話です。
      このエピソードが特に好きで、自分もまた「ハンドク」だと思いながら暮らしています。
      仏教哲学は日常の教えです。犀の角のようにただひとり歩む道ですが、ともに語り合える友に出会える可能性まで閉ざされたわけではありません。
      お釈迦様の言葉の中には心に響くものが山のようにありますし。
      あー、私は宗教家ではないしカルトでもありませんからね・笑
      読書猿さんには、感謝です!重ねて、ありがとうございました。
      2020/08/26
  • ニコ動で「ゆっくり動画」を投稿していた方が本を書く、というのは、動画と文字というフォーマットの違いはありつつ「わかりやすい解説」という観点では実に健全なことなのではないでしょうか。Kindle Unlimitedにて読了。
    ちなみに、最近「〇〇の〇〇史」という本がメッチャ多いですが(…いや、昔からか?)、「史」って昔のコト扱うからって何となくつけてます?という本もチラホラ。本著も、1冊を通じての「世界史」とは言えないかなと思いますが、個人的には読みやすい良著だと思いました。

    本著で挙げられているのは、まえがきにもあるように、「狙って『奇書』として書かれていない」「数奇な運命を辿った書物」が14冊。
    本のチョイス、紹介の仕方もそうなのですが、著者の文章は全く押し付けがましくなく、無理に読者を笑わせようとするものでもなく、それでも考えさせられる要素がどこかに必ずあって、パッケージングがお見事です。
    まぁ、ニコ動を見に行けばタダなんでしょうが、動画で決まった時間を取られてしまうのがどうも苦手で…。

    個人的に、特に面白いと感じたのは「穏健なる提案」と「ビリティスの歌」の2編。
    前者は「全然穏健じゃねーじゃん!」というツッコミを読者にさせつつも、「あれ、本当は…」と思い起こさせる展開が綺麗でしたし、後者は訳者の描き方が面白く、まるで執着しないアーリーリタイアのような生き方等々、非常に興味深いものがありました。

    本著を読了した全体の感想として、自分が後世の人から本の題材にされるような事態は起こり得ないと思いますが、仮にそうなるとして、こういう奇人チックな描かれ方をされないと断言できるか…。
    読了して感じたのは、単に時代が変わっただけでも、今の普通の暮らしは未来の超絶変態ライフになる可能性もあるということ。
    まずは、自分と、自分の目の前の状況に対して誠実に向き合うだけでも精一杯だし、それ以上を望むコトじゃないんじゃないかなと思いました。
    (↑ですら、自分の毎日に合格点が付くかと言うと…^^;)

  • 大変面白く読ませもらっただけでなく、歴史に関してのひとつの大切な見方というか、姿勢を教えてもらいました。

    特に、「椿井文書」に関する内容の一文。
    『「椿井文書」が伝わっていく過程で、歴史家たちから向けられてきたいくつもの疑いの目を遠ざけ、この文書群を現代へと匿ったものは、その歴史を「信じたい」という人々の思いでした』

    そして、「ビリティスの歌」の総括。
    『実際の歴史は(私たちの暮らしがそうであるように)「複数の原因があり、複数の結果がある」という複雑なものです。(中略)歴史の先端にいる現代人は、過去の「平凡で、さして面白くもない人々の営み」という面をすべて無視して「面白い歴史」というエンタテイメントとしえ消費する権利を持ってしまっています。ひょっとすると、歴史を「面白い」と感じている時点で、私たちはすでに「面白さ」のバイアスがかかった歴史を見せられているのかもしれません。」』

    今、自分たちが聞き知っている歴史---それ自体が、耳障りの良いものかもしれないこと。視点が変われば、語り口も変わるように、事実がそのまま残ることが難しいこと。作中にもあったように「勝者が歴史を作っている」こと。
    だからこそ複数の意見、複数の文献を見比べて、考えて選び取っていかなくてはならないのですよね。
    流言飛語が飛び交うご時世ですが、情報に流されるのではなく、過去、ひいては現在、未来の情報も選び取っていきたいですね。

  • 印刷技術が未発達だった時代の魔女狩りの本から、アポロ計画まで繋がる月旅行の話しまで、古今東西の本を紹介する本書。
     現在からするとトンデモ本だが当時は最先端、正しい事として受け入れられていた。
     我々も笑えないよと、今正しいと思っている事が覆されることなんて、当たり前のことなのだ。既にあやふやなものもあるし。
     神から一線を引くことでルネサンスが生まれたように、科学第一主義から次は何主義に移行するのだろうか?

  • 現代の我々から見て奇書であっても、その時代の人々にとってはそれが常識で良書であった例が数多く紹介されている。逆に「月世界旅行」という本は書かれた当時はフィクションで奇書であったが、それが人類の宇宙開発に繋がっていったのが興味深い。

  • その時代を象徴する書物、けれど現代の価値観からすると”ヤバイ”書物から世界史を見る本かと思って読み始めました。
    が、世界史を体系的に学ぶ形式にはなっておらず、ただ単に世界の奇妙な本を紹介しているだけでした。
    世界史を勉強しようと思い読むと残念な結果になりますが、エンターテイメントとして読めば、とても楽しく興味深い。
    ・妄想だけで台湾誌をつくった書物(現在のように気軽に様々な国を知ることができる時代ではないから騙された人多数)
    ・解読できない謎の書物
    ・野球害悪論
    ・イギリス植民地であったアイルランド人の貧困層の子は満1歳になったら食べてしまえという穏健なる提案。
    何が学べるわけではないけれど、単純にとても面白かった。
    ニコニコ動画で配信した一部の話に加筆修正した本ということで、ニコニコ動画も見てみた。ロシアの農業生物学の話など、この本には載っていない興味深い話が多かった。しかし、本書籍の方がまとまっていてわかりやすく面白い。

  • 天動説VS地動説は面白かった。

  • 現代から見ると、トンデモないことが当時では最先端、常識とされていた本が紹介されている。
    その時代に人々が信じていたこと、行っていたことを知ることができて面白い。
    学校で習う歴史とは違う角度から見る歴史。
    私自身はこの本で紹介されていることについて完全に無知だったため、時代背景などを知った上でこよ本を読むと更に面白さが増すのではないかと思う。

  • 人類史は偽書が多いな〜と思う。椿井文書とか後世の歴史家はかなり迷惑だろう。コペルニクスの地動説からのニュートンへのリレー、ヴェルヌの月世界旅行からのロケット開発競争の流れは科学の発展の加速を感じてワクワクする。

  • 想像してたより世界史。

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著者プロフィール

1990年、千葉県生まれ。会社員として働きながら歴史や古典の解説を中心に、ニコニコ動画、YouTubeで動画投稿を行う。代表作「世界の奇書をゆっくり解説」のシリーズ累計再生回数は600万回を超え、人気コンテンツとして多くのファンを持つ。

「2022年 『奇書の世界史2 歴史を動かす“もっとヤバい書物”の物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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