チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 彼らは貧しいからこそ、貧しくなった時のリスクに対して分散投資しているという話は、今の開発経済学のトレンドに合致する議論と言える。詳細は『貧乏人の経済学』や『最底辺のポートフォリオ』やこの本を読んでくれ!

    そして、今の俺の状況にも学問的な視座を与えてくれている良書だ。

    そしてそして、映画『恋する惑星』世代ならチョンキンマンションは絶対食いつく!

  • 文化人類学者のフィールドへののめり込みはあっぱれというしかない。タンザニアに行きスワヒリ語で交流して調査する。この本は、香港におけるタンザニア人の生活ぶりをフィールドワークするのである。タンザニア香港組合のボスでタンザニア人であり難民認定のカラマが主人公である。これは、学術研究というよりも、カラマという男によって、実に生き生きした物語になっている。
    現在の香港の状況を考えてみると、カラマは大丈夫かなと心配してしまうほどだ。時間にはルーズで、人に対しては、気配りができ、香港で死んだ同胞には、お金を集め、故郷までみんなで送り返すためのリーダーシップを取る。実に、人情味があるのだ。
    「香港人は働き者だが、彼らは儲けが少ないことを怒り、日本人は真面目に働かないことに怒る。仕事の時間に少しでも遅れてきたり、怠けたり、ズルをしたりすると、日本人は信頼を失うってさ」とカルマはいう。全く鋭い指摘なのだ。日本人の大切にしているものは、本当に大切なものなのか?このカルマのやっていることや話していることは、ダラダラして、「無理することなく」「ついで」なのだが、香港のボスとして信頼されている。「誰も信頼してはいけない」と言いながら、仲間や慕ってくる人々に対して、最大限尽くすのである。色々なタンザニア人が登場する。裏切られた人、売春をしている人、シュガーマミー、キベンテンなど。「俺たちは夢を食って生きている」という。
    シェアリング経済を支えるTRUST、つまり信用とはどう形成されるかということを、日本の尺度や文化人類学の尺度では、解決しないのだ。
    「私があなたを助ければ、あなたが私を助けてくれる」という前提はなく、「私があなたを助ければ、だれかが私を助けてくれる」と言っているが、「別に助けてくれなくてもいい。成るように成る」と思っているのだろう。信頼や信用がなくても、生きていけるのである。
    卓越した文化人類学の物語として、楽しめた。

  • タンザニアの零細商人たちを対象とする現地でのフィールドワークを経た、文化人類学者である著者が今回スポットを当てたのは、香港におけるタンザニア人コミュニティであり、とりわけ、多国籍の人々が住まう数多くの安宿と雑多な各種店舗から形成される「チョンキンマンション」の「ボス」を冗談交じりに自称し、現に同国人コミュニティのまとめ役をこなしながら主に中古車ブローカー業をなりわいとするカラマ氏を中心とした、2016年10月からの半年間にわたる参与観察の成果をエッセイとしてまとめたのが本書です。

    そこで目にするのは、「誰も信用しない」という「現実的な他者理解」を礎として、群れながらも単独者として存在しうる、「騙し騙されながら、助け合う」、誰にでも開かれた互酬性を基盤にしたビジネスモデルと生活保障の仕組みを同時に構築する彼らの姿であり、そんな彼らタンザニアの人々が口にする「人生は旅だ」という言葉には、そこに付随しがちなアイロニーや青臭さは存在しません。「ついで」や「遊び」を無理なく、金儲けや助けあいに組み込んだいい加減とも捉えられる彼らの営みは、実は人がシステムに絡めとられる危険を回避するための叡智に由来するものであり、「一貫した不変の自己」を否定するところから来るその軽やかさは、自己責任の内面化を基調とした社会への息苦しさを感じる読み手にとって、「未来を考えるヒント」として希望を抱かせるものとなるでしょう。

    最終章ではカラマによる正鵠を射た日本人評と、説明を要求しなかった著者の調査意図をも正確に察知していたその慧眼に驚かされます。この件も含め彼がときおり見せる鋭い判断力や洞察力は、さながらクンフー映画に登場するズボラで欲望にだらしない男が、その一撃によって達人としての姿が立ち現れる瞬間を目にするかのような鮮やかさであり、彼の人としての奥行きの深さに感じ入るとともに、読み進めるごとに「チョンキンマンションのボスは知っている」が事実であることを思い知らされます。

    そして彼らから新たな社会モデルを見い出すと同時に、その過程において、個々のタンザニア人たちの横顔も描き、「やっぱりダメ人間だ」といった著者によるボスへのツッコミに思わずクスリとさせられるような愉快な一面も覗かせつつ、著者にとっての理想的な社会の在り方への個人的な想いも綴られるなどといった、多面性を併せもつ豊かな魅力を備えた著書です。

  • 久しぶりに二子玉川の高島屋の本屋に行って、フェアから面白そうな本を手にとって読んだらこれが最高でした。信頼、SNS、alibabaのシステム、そして、facebook上でのメンバー不定のコミュニティーのロバストネス。希望はやっぱこっちにある気がする。旅。ローリングストーンズな感じ。

  • 裏社会というか、タンザニアやパキスタンの人たちの、中国における活動、暮らしぶりを垣間見ることができた。
    それにしてもこの作者は研究者として、自らそのフィールドに身を投じ研究をするという、

  • 母国から遠く離れた香港で、タンザニア人商人たちは緩やかなコミュニティを形成し、信用はしないが信頼しながら助け合っている仕組みがある。

    本文に日本人を見事に評した台詞があった。
    「(日本で長く暮らしたことのある)イスマエルたち(パキスタン系中古車業者)もいつも言っている。日本人は真面目で朝から晩までよく働く。香港人も働き者だが、彼らは儲けが少ないことに怒り、日本人は真面目に働かないことに怒る。仕事の時間に少しでも遅れてきたり、怠けたり、ズルをしたりすると、日本人の信頼を失うってさ。アジア人のなかで一番ほがらかだけれども、心のなかでは怒っていて、ある日突然、我慢の限界が来てパニックを起こす。彼らは、働いて真面目であることが金儲けよりも人生の楽しみよりも大事であるかのように語る。だから俺たちが、子どもが六人いて奥さんも六人いるとか、一日一時間しか働かないのだというと、そんなのおかしいと怒りだす。アフリカ人は貧しいのだから、一生懸命に働かないといけないと。アフリカ人がアジアで楽しんでいたり、大金を持っていたり、平穏に暮らしていると、胡散臭いことをしていると疑われる。だから俺はサヤカに俺たちがどうやって暮らしているのかを教えたんだ。俺たちは真面目に働くために香港に来たのではなく、新しい人生を探しに香港に来たんだって」  私が彼の教えをちゃんと消化できたのかは心もとないが、確かにカラマたちが教えてくれた暮らし方には、私自身の先入観を覆すのに十分な仕組みと知恵があった。」(『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』(小川 さやか 著)より)

    目的と手段が混在しがちな自分を戒めようと思った(これが日本人ぽいのか…)

  • 自ら行商人に弟子入りもする気鋭の若手人類学者による、香港滞留タンザニア人コミュニティのフィールドワーク。
    国際商業都市、香港には、さまざまなビジネスで一旗揚げようとするタンザニア人たちがやってきては、出入りをくりかえしながらゆるやかなコミュニティを形成している。彼らが根城にしているのが、安宿やレストランの集まるチョンキンマンション。そしてその「ボス」を自認するおっさん、カマラが本書の主人公である。
    約束時間には常に遅れてくるし、時にはスッカラカンになって若者たちに飯をおごってもらう愛すべきダメ人間。毎日ネットサーフィンしたり楽しく遊んだり、勤労規範のしみついた日本人の目には少しも「働いている」ように見えないのに、同胞たちから頼りにされるカマラとその仲間たちは、どのように商売をし生活をしているのだろうか。
    羽振りがいいかと思えば一文無しになり、時に非合法の活動にも手を染めることもある彼らは、賢明にも互いの事情には深入りはせず、「誰も信用しない」としばしば公言する。にもかかわらず、誰かが異郷で困った状況に陥れば、たとえ見知らぬ間柄でも、飯をおごったり家に泊めてやったり、金を出し合って遺体を故郷の家族に送り届ける。だからといってそうした親切を行った者は特に見返りを期待しないし、受けた者も恩義や負担は感じていないようだ。われわれにとって常識となっている閉じたメンバー間の互酬関係と、彼らが実践している人間関係とのこの違いはどこから来るのだろうか。
    その秘密は「ついで」にあると著者はいう。自分が食事をする「ついで」に奢ってやる、どこかに行く「ついで」に連れて行ってやる。でも無理な頼みならさわやかに聞き流す(笑)。そういう態度をとることで、施す側にも施される側にも無理や負担が生じないというわけだ。
    さらに面白いのは、この「ついで」の論理が互いの商売においても有効に機能していることだ。カラマたちは中古の車やケータイをタンザニア向けに輸出するビジネスの仲介業をやっているが、誰かがタンザニアに帰国する「ついで」にスーツケースやコンテナの空いたスペースに自分の商品を入れてもらって輸送するし、商売仲間かつ商売敵のビジネスも「ついでに」手伝うことで、自分にも利益が回ってくるように動く。こうした態度は、商売と助け合い、遊びの境目がはっきりしないという、日本人のビジネス慣行から見れば不可思議な実践にもなっているのだが、きわめて合理的でもあるのだ。
    その意味でも、彼らが近年生み出しているSNS上のビジネスネットワーク「TRUST」に関する第4章は非常に興味深い。これは見た目は「友人」同士が日々の出来事などをポストし交流するグループページだ。しかし同時に、仕入れた商品の販売先を探したり、出資者を募ってクラウドファンディングをするためのビジネス用ページでもある。面白いのは、彼らはこの交流サイトをビジネス目的のみに純化したり、参加者を信用度でレーティングしたりして、合理化しようとはまったく考えていないということである。利益の追求と友人関係を敢えて分けない、どうやらそこにこそ、関係をたもつ智慧がひそんでいるようだ。
    ここから著者は、「シェアリング・エコノミー」とこのタンザニア人のビジネスネットワークとの類似性と相違という興味深い論点に入っていく。社会における資源の所有・交換・分配のありかたは、しばしば個人主義的・競争的な資本主義の論理か、前資本主義的な村落共同体の論理かという二元論的なやり方でとらえられがちだ。ところがこのタンザニア人ビジネスネットワークの事例を目の前に置くと、資本主義的な論理の欠陥を克服するものとして論じられるシェアエコノミーの基盤には、実は市民社会の規範とそこに潜む排除の契機があることがよく見えてくるし、人びとがつくりだす資源の所有やアクセスに関わる関係は、より多様であり得るという可能性がほのかに見えてくる気がする。
    著者はこのことについてはっきりした主張を提示しようとはしていない。それはこれからゆっくりと探られていく課題だろう。しかし香港とタンザニアの境においてこのような実践が生まれており、それを楽しみ敬意をもって評価する目があるということ、これこそがもっともわくわくさせてくれる知らせといえるのではないか。

  • 無意識のうちについ見返りを求めていたり、自分はこんなにやってるのにあの人は…と思ったりしてしまう、チョンキンマンションのボスを見習いたい。

    図書9月号に著者の対談が載っていておもしろそう、と思った。あたりである。

  • タイトル通り、アングラ経済の一例としてチョンキンマンションまわりで作者が見聞きし体験したこと、そして解析が書かれている。なるほどそういう形もあるのか、という面白さや発見はあれど、これを即日本の経済に採用できるかというとそうはならない。どうしたって背景事情や情勢、文化、宗教、etcetc……すべてが関わってなにかしらの制度は成り立つのだから仕方がない。

  • 香港のチョンキンマンションのタンザニア人コミュニティの研究からコミュニティのあり方についての考察

    今のシェアビジネスとの対比で彼らのネットワークの特徴をあぶりだしている。

    単純な見方としては、彼らはグレーゾーンのビジネス、信用度のない人々のため、既存のシェアビジネス的な基盤に乗れないから彼ら独自のネットワークがある。。。と断じてしまいそうだが、違う見方が示される。

    私なりに受け取ったところでは、
    コミュニティには、利害レイヤ(互恵性など)と帰属レイヤ(精神的な満足感など)の2つがあり、
    今のシェアビジネスが利害レイヤの効率化にフォーカスをしている一方で、帰属レイヤ、特にゆるく帰属レイヤに訴えかけるようなネットワーク(互恵コミュニティ)の可能性を感じた。

    実際に今後のビジネスでもSDGsでもエコでも地域よいが、なにかのコミュニティへの帰属意識をベースとした、ゆるい(互恵性に確実性に求めない)シェアコミュニティが大きな価値を生む(重要化する)可能性は非常に高いように思った。

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著者プロフィール

小川さやか(おがわ・さやか) 立命館大学先端総合学術研究科教授。専門は文化人類学。研究テーマは、タンザニアの商人たちのユニークな商慣行や商売の実践。主な著書に『都市を生きぬくための狡知――タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(世界思想社、2011年)、『チョンキンマンションのボスは知っている―アングラ経済の人類学』(春秋社、2019年)など。

「2022年 『自由に生きるための知性とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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