ヒトの目、驚異の進化 視覚革命が文明を生んだ (ハヤカワ文庫NF) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 第一章「感情を読むテレパシーの力」。ヒトが色を知覚する能力を発達させた理由を考察する。従来は木の実を探したり葉を採集するためという説が有力だった。著者は、同類の肌の色を識別するために進化した結果だという。
    第二章「透視する力」。この章で語られている、FPSの例は興味深い。FPSはディスプレイ上で両眼視を再現できていないという。人類がもつような両眼は、ある条件下の遮蔽物――鉄格子や金網などをあたかも存在しないかのように透視して、その向こう側を視認することができる。しかし、本書出版時点でのFPSはそれを実現できていなかった。
    ゲームのリアリティは質感以外にも追求しどころが残っているということになる。

    このあたりまでは楽しんでいたと思う。
    個人的には、VISIONの研究は、わりと研究者が身につけた特殊能力をもって証明されていることがなきにしもあらずと感じている。卑近な例で言えば両眼立体視とか。これは才能か、一定以上の情熱を持っていないと獲得できない能力である。万人向けではない。
    そういうことができる前提の説明は、そういうことができない、あるいはやる気もない読み手にとってはわかりにくい。できる前提は、図やたとえ話にもあてはまるのかもしれない。たとえ話がだんだんと適切ではなく感じられてきて、興味よりも疑念がまさるようになった。

    疑念をおぼえた理由の一つとして、著者が論拠として提示した図がある。動物について、目が顔の前面についているか側面についているかを体格別に示す図であり、そこに現れる分布として、葉を好んで食べるか否かが表れる図がある(図19図20あたり)。
    ネコ科とハイエナ科、イヌ科を「いくぶん葉を好む」とする分類に恣意が感じられる。好意的に見ても「いくぶん」の幅が広すぎる。

    ネガティブな念を抱かされてしまった訳書について、いつからかやるようになってしまったことがある。原題と邦題の比較である。
    原題"THE VISION REVOLUTION How the Latest Research Overturns Everything We Thought We Knew About Human Vison"。
    邦題『ヒトの目、驚異の進化 視覚革命が文明を生んだ』。
    本書は進化は主題ではない。進化の結果、獲得された視覚認識についての新説である。定説を、野心的な自説で革新してやるぜくらいの意味にしかとれない。
    邦題についてはまったくのタイトル詐欺で、原題については「どうぞご自由に読み間違ってください」というところか。

  • 同じ長さの物なのに、一方は長く見えたり、短く見えるのはなぜ?
    人間は色々な色を認知できるのは?
    文字を認識できるのは?

    本来人間が持っていないとされている「透視」「霊視」「読心術」「予知能力」の4つは存在する、というところから議論が始まり、
    そこから人間の目の仕組み、それによってどう人間が周りの世界を知覚できるようになっているのかがわかる一冊。

    個人的に面白かったのは、「読心術」で、人間は、肌を通じて自分の体調がわかるように
    さまざまな色を認識できるようになったとともに、肌の色は体のコンディションやいる場所によって若干変化する。
    極論を言うと、肌は色々な色彩を帯びることができる、と言うところは目から鱗だったかなと。

    あとは、一種の予知能力として、脳が動く物体の一瞬先の虚像を作ることから、実際の物の動きよりも早くものが動いているように見える錯覚は面白いなと。

    目が「デザイン」されている、とは普段から思わなかったけれども、動物としての進化とともに必要な機能をつけていったと考えると目もデザインされている物の一つになる、という考え方には納得する。

    しかし障害物の向こうのものを見通せることを「透視」と呼ぶのはちょっと言い過ぎなのでは?
    肌の色にしても、人間が「肌色」を明確に定義できないのは、科学的な理由だけでなくて、社会的な要因もあるのでは?

  • 【文章】
    読み易い
    【ハマり】
     ★★★★・
    【気付き】
     ★★★★・

    人の目は、相手の感情や健康状態を認識しやすいように、色覚が最適化されている。
    左右の視野の重なりは、立体視できるだけでなく、目の前の物体を透過させる働きがある。
    錯視は、未来予測の能力によって生み出されたもの。
    様々な地域で生まれた文字の形には共通点がある。自然界に現れる形(T結合部やX結合部など)の頻度と、それぞれの文字に見られる形の頻度は、正の相関関係にある。

  • 難解な部分もあったが興味深い内容だった。
    私たちが見ているのは0.1秒だけ過去の現実世界。それを「現在」に補正して見ている、という話は特に興味深かった。

  •  この本のテーマにもあるが「目から鱗」な本である。
     「私たちの目は、人の心を読み、物体の向こう側を透視し、未来を予見し、死者の思考を観ている」という煽り文句がいかにも胡散臭いのだがヒトの認知について根拠をもって説明できている。
     しかも素晴らしいのはこの煽り以上に有用な情報が得られる。ヒトのセンサーと情報処理がいかにいい加減で都合の良いように捻じ曲げられているかが明らかになる。
     「認知の歪み」に気をつける、「バイアスをなくす」などと良く言われるがまずはこの本を読んだ上でその言葉に意味があるか考えて欲しいとも思う。

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著者プロフィール

カリフォルニア工科大学の特別研究員、レンセラー工科大学の准教授を経て、現在、2AI Labsの主任。邦訳書に『ひとの目、驚異の進化――4つの凄い視覚能力があるわけ』(インターシフト)がある。

「2013年 『<脳と文明>の暗号 言語・音楽・サルからヒトへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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