現代経済学の直観的方法 [Kindle]

著者 :
  • 講談社
4.26
  • (36)
  • (37)
  • (9)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 568
感想 : 43
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (565ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「組織には属さず仲間と研究生活を送っている」という謎の物理学者、長沼氏による1冊。
    『世界史の構造的理解』に続いて拝読しましたが、出版時期は本著の方が先ですね。

    「一般に無味乾燥な話でも、そこに何か一つテーマやストーリーが設定されていると頭に入り易いもの」として各種経済学の概念を説明した1冊。わかりやすい解釈が実にスッと落ち、それが世の中の理解やビジネスに役立つ所に落とし込まれている著者のセンスが凄いです。
    例えば、中世では「お金は核燃料のようなもの」で、「パワーがあるが剥き出しで放置すると社会の精神を汚染する」とされていたというくだりや、「日本の資本主義を駆動する精神とは『心配』」として列強への恐怖感を描写したくだり。
    独自性がありすぎるのと語り口が強いので好みが分かれそうですが、かと言って読まないのも勿体ないように感じます。
    最終章は『世界史の構造的理解』と一部重なる内容ではありましたが、避けて通るには重要すぎるテーマであり、あらためて理解が進んだと思います。

    個人的には、「自由貿易というものはそれはそれで暴力性を秘めた制度」「一番最初に二階に上がった者がはしごを引き上げてしまう仕掛け」というフレーズも非常に印象に残りました。
    「自由」って言うだけで先進的で公平な仕組みに思えてしまいますが、パンチ力が強い方が「ノーガードで殴り合おうぜ」と言ってるに等しい仕組みだったのかと。

    本著内の「経済学の同盟ゲーム」も印象的でした。
    投資家層、生産者層(企業家層)、消費者層(労働者層)の3つ巴で、2対1に持っていけると勝つ、というもの。
    こう思うと、最近話題の人的資本経営は、投資家層が消費者層に手を伸ばす試みなのか?もはや投資家層が一強になってしまったから、体制維持のためのガス抜きなのか?とモヤモヤ考えてしまいます。

    読んでおくべき1冊。著者の他の作品にも手を伸ばそうかと思いました。

  • どうだろうかな。そういう見方もあるんだろうな、という程度かな。語り口がややクドイ。

  • これまで読んだ本の中で1番ためになった。(といってもすぐ仕事に活きる知識が手に入ったわけではないが…)資本主義とは何か、貿易とは、お金とはについて、わかりやすい言葉で書かれていてグッド。何回も読み直したい本。

  • 『#現代経済学の直観的方法』

    ほぼ日書評 Day673

    Day641『世界史の構造的理解』の長沼伸一郎氏の著作を遡ってみた。

    前書きにもある通り、あえて厳密性は追わず、巧みなアナロジーを用いて経済学の本質を炙り出す試み、みごとに成功しているオススメ本である。

    内容としては『世界史の…』でも語られる "縮退" が、本書でも既に大きなテーマとなっている。
    一言でいえば、"縮退" を回避するための経済的フレームワークが資本主義であり、休むことなく等比級数的拡大を続ける宿命を負わされた現代世界の動きを理論的に説明する仕組みが「経済学」である。

    (米国の)南北戦争は、自由貿易を主張する南部と、保護貿易派の北部の対立に由来する、世界初の南北問題(的な対立)であった…という解説は面白い。

    また、仮想通貨(本書では貨幣との比較対照をあきらかにするためにあえて暗号資産ではなく、この言葉を使っているとのこと)は、マネーストックの観点からは「現物」資産であるとの指摘も、納得感があった。

    https://amzn.to/3OTpNKa

  • 私は学問としての経済学を学んだことはないが、その程度の前提知識でも、本書を読むことによって資本主義経済についての筋道だった考え方を、一通り学ぶことができる。

    1〜8章は、マクロ経済学の基礎理論を、史実をもとに解釈し、直観的な理解を提示する。たとえば、

    1. 消費者は、所得を「消費」と「貯蓄」に回す。この「貯蓄」は、資本主義経済においては、経済成長のための「投資」と等価であり、利子によって資本主義経済は成長が必然的に組み込まれる。

    2. 経済成長に伴い、農業が衰退しサービス業が拡大するという、いわゆる「ペティ・クラークの法則」の根底は、資本主義経済において事業の機動性が優位性の最も重要な要素であることによる。

    3. 好景気においては、サプライチェーンのどこかのボトルネックにより、需要に対して供給が滞ることでインフレが発生する。逆に不況期では需要が低下し供給サイドの賃金低下、消費の冷え込みをもたらし需要を更に減らすというデフレ・スパイラルを引き起こす。それぞれの局面において、「労働者」「企業家」「投資家」で損得の構造が変化する。

    4. 需要と供給が世界で不均一であることが、貿易が成立する根底にある。制限貿易はブロック経済による情勢の不安定化を誘引し、自由貿易は自国産業の破壊を招く。自由貿易は、先に競争力をつけた国が結局は有利になるため、不平等な側面もある。

    5. ケインズ経済学は、公共政策により政府が資金を市場に投入することの理論的な根拠を与えた。政府が投入した資金は、賃金として消費者に支払われ、消費者が一部の貯蓄を除き消費に回すことを繰り返すため、数学的に (投入資金)x(1/貯蓄割合) の経済効果をもたらすことを説明できる。
    ただし、財政赤字とインフレを伴う。

    6. 貨幣は、貸し借りを繰り返すことで、実際のお金(実のマネー)と、信用で成り立つ貸出手形(虚のマネー)を生み出しながら増殖する。その過程で、元本を担保できないいわゆる又貸し状態が必ず発生するが、それをリスクとして許容して成長しているのが現在の資本主義経済である。

    といったことが、具体的な事例をもとに理解できた。

    9章は、資本主義経済に組み込まれた「縮退によるコラプサー化」と筆者が称する問題点と解決に向けての考察となっている。

    縮退とは、一部のプレイヤーが経済拡大のほとんどを担い、それ以外のプレイヤーが重要な役割を果たさなくなってしまった状態のことである。狭い例だが寡占市場を思い浮かべるとわかりやすい。

    全体としては経済成長しているのであれば、この状態は資本主義経済としては正しい状態である。しかし、人間の生活は均質化し、将来の変化の可能性の乏しい、人間にとっては不幸な状態である。

    資本主義経済には、はたして縮退を防ぐ仕組みを見出すことができるのか?
    できるとすれば、人間は想像力のある生き物であって、将来の可能性と現在の物質的な豊かさをセットで受け取ることで幸福になれるのではないか?そうであれば、人々の長期的な視点に基づく理想(長期的願望)が、いっときの欲望(短期的願望)に押し勝ち、縮退から遠ざかることを指向するのではないだろうか。

  • とんでもない名著に出会ってしまった。
    経済の入門書にして深くおもしろく、
    その道のプロが読んでも唸らせる。

    仮想通貨などトレンドをおさえながら、
    本書のベースは30年前に出来てたと。

    おそるべし長沼氏。

  • 議論の展開方法が優れており、初学者にも分かりやすい経済学の解説本だが、
    現代経済学から見ると議論の分かれる点に補足が無かったり、異論のある点が多い
    そしてこれは、著者の専門が経済学ではないことに起因するだろう

  • 賢い人だな~~と思った。こういう人がを賢人というのだろうな。本質を見抜く力があって、それを表現できる。

    米国南北戦争に関する話は面白かった。ヨーロッパの経済圏にどっぷりだった原料供給元としての南部と、自国経済発展のため、工業を守り育成したい北部の戦いが南北戦争。北部が南部を併合して一国としての体裁を守ったが、帝国主義の現れとも見えるというのは、その通りだな~と思った。これを正当化するための人権保護というフェイクのコンセプトが、現在により強く影響しているのも世の中が面白いと感じさせられる。

  • 本書は経済学を直観的に把握するための本だけど、一番の盛り上がりは経済成長を「縮退」と捉えたところとそれを説明する「作用マトリクス」の部分だろう。
    作用マトリックスについては前書の「物理数学の直観的方法」に書いたらしいから、そちらを読んでみたけど難しくてわからなかった。
    なんとなくわかったこととしては、部分の総体は全体と一致しないということを行列を用いて数学的に証明したということらしい。私なりに言い換えると、結果から特定した原因を改善しても望む結果にはならないということだと思う。

    経済成長は善いことなのかという議論はよく目にするけど、縮退と捉えると、世界から富を引き出しているのであり、その分世界は貧しくなると考えると、手放しで善いこととは言えなさそうだ。
    とはいえ、民主主義というルールを採用する限りは過去に後退することはできないので、どうしようかと途方に暮れる

  • 絶賛する。
    名前に釣られて経済学の本かと思って読み始めたが、物理学や歴史学を巻き込んだ壮大な話になっていく。そのスケールの大きさもさることながら、経済の発展や歴史の進展から語られる未来像が類を見ないほど素晴らしい。
    本書には『要するに』という言葉がよく出てくる。前段までが要約されてこの語に続くわけだが、その要約と比喩が秀逸。何度も頷きつつ唸ってしまった。
    未読の人は是非。

全43件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

パスファインダー物理学チーム代表

「2022年 『世界史の構造的理解』 で使われていた紹介文から引用しています。」

長沼伸一郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×