最後の竜殺し (竹書房文庫) [Kindle]

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  • 魔法の使える架空の文明世界を舞台とする小説である。魔法が使える世界と言えば中世レベルの文明が定番である。資本主義が発達した世界で魔法が使えるとしたらどうなるか。想像すると楽しい。
    有名な魔法ファンタジー小説『ハリー・ポッター』も現代が舞台である。日本語訳は「inn」を「旅籠」、「writing desk」を「文机」と訳しており、中世らしさを醸し出している。しかし、原書を読むと、むしろ現代文明の中で魔法があったらという世界に感じる。『ハリー・ポッター』日本語版は訳者の趣味が強いだろう。
    この現代文明で魔法があったらという世界観は、実は日本のエンタメ作品が古くから取り上げている。『ドラえもん のび太の魔界大冒険』である。凄い魔法を使うためには高価な道具や資格が必要という世界であった。
    魔法が使える世界の物語は現実を逃避して夢を見させる要素がある。『魔界大冒険』は、それほど甘くないというブラックジョークの笑いになった。一方で近時の日本のエンタメの転生物では現実世界のスキルをファンタジー世界で通用させる展開が増えている。それだけ市場経済が確固たるものとして人々の意識の中に定着したということか。
    本書の魔法はプログラミング的である。20世紀の感覚では魔法と科学は対極に位置付けられるが、魔法とITは親和性がある。システムエンジニアはコンピュータ全ての構造を知らなくても成り立つ。ある分野はブラックボックスであり、魔法のようなものである。
    システムエンジニアはテクノロジーの最前線にいるが、ラジオを分解して構造を把握するような20世紀の科学少年とは異なる。説明できないものを存在しないものと否定する20世紀的な科学万能の唯物論に凝り固まらない。魔法をITの感覚で説明することは合っている。
    不動産業者の時間をかけた陰謀がある。心を許した相手に付け込み、信頼を裏切る許し難い陰謀である。典型的な詐欺師である。八つ裂きにしたくなるくらい腹立たしい。主人公の積み上げたものが全て不動産業者の陰謀で壊されるかと思ったが、あっさりと消滅した。これはスカッとする。会社の結末も最後に一文で説明されているが、これもスカッとする。悪徳不動産業者には再チャレンジの機会を与えること自体が不公正である。因果応報の物語として完璧である。
    物語は不動産業者に代表される資本主義に対して、主人公はドラゴンランドの自然保全など資本主義のオルタナティブな価値観で対抗するものに思えた。しかし、最後は人々の欲望を最も強い意志と位置付け、計画を無理強いするのではなく、各自の動きに委ねる展開になった。これは神に見えざる手の市場原理に重なる。
    不動産業者は市場経済の申し子のような論理を振りかざすが、その手口はフェアな市場ルールからは不公正なものである。それは国家権力を使って身内の経営する企業を儲けさせる国王と似たようなものである。利権資本主義とでも言うべきものである。自由資本主義と利権資本主義の対決に感じた。

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