【目次】
1章 とてつもない数式
負の数は数学界のパラダイムシフト/1兆という「量」を想像できますか?/累乗は爆発的に増加する/数学の女王と整数の不思議/素数はいまも未解明 etc
2章 とてつもない天才数学者たち
無限を捉えた数学者の闇/欧米エリートの必読書『原論』とユークリッドの謎/インドの魔術師の驚異のひらめき/不完全性定理を証明した完璧主義者etc
3章 とてつもない芸術性
数学の美しさは内的快感にある/ピタゴラスと数秘術/数学は音楽や天文学だった!?/曲線の博物館へようこそ/タイルを敷き詰める数学etc
4章 とてつもない便利さ
「1対1対応」と秀吉のひも/フェルミ推定と「だいたい」/先頭に来ることが最も多い数字/有益な情報の見つけ方/統計が国家を変えたetc
5章 とてつもない影響力
大きな数はN進法で攻略せよ/ネイピア数は科学を支える/人類は円周率を探求する/虚数と量子コンピュータetc
6章 とてつもない計算
「魔方陣」で頭の体操/万能天秤を知っていますか?/両手を電卓にする方法/2桁の掛け算をすぐに暗算etc.
数学は、
・奇人変人だらけの天才数学者たちが織りなす壮大な思考の歴史
・たった数行の数式で世界や宇宙の物理法則を記述する
・絵画、彫刻などの美術や音楽などの芸術、あるいは自然の美しさの背景には、数学理論に裏づけられた法則がひそんでいる
・インターネット、統計、AIなど、現代社会、テクノロジーを下支えしている
というように、学問としての奥行き、美術や音楽を語れる芸術性、実学としての有用性が揃ったとてつもない学問である。本書は、「とてつもない」という切り口から数学の魅力を伝える。文系でも理解できるわかりやすさと読み物としての面白さを兼ね備えた数学エッセイ。
・・・ピタゴラス、デカルト、フェルマー、ニュートン、ライプニッツ、オイラー、ガウス、カントール......などの天才数学者たちの功績を紹介し、彼らがもたらした方程式、関数、微分積分、集合、確率、統計......といった数学上のブレイクスルーの意味をお伝えした。また、負の数、虚数、無限、 進法といった概念や、円周率やネイピア数という不思議な定数とその影響力の大きさ等についても書いた。
数学の大きな魅力の1つである「美しさ」にも1章を割いたし、魔方陣や万能天秤といったパズル的な話題を通して、数そのものの不思議さが感じられる「計算」も紹介した。我ながらヴァラエティに富んでいると思う。それだけ数学という学問は間口が広いのだ(本書の「おわりに」より)。
いきなりだが、次の問題を考えてほしい。
「横浜市内に、髪の毛の本数がまったく同じ人は複数いるか? ただし横浜市の人口は約350万人、人の頭髪本数は、最大15万本とする」1日に抜ける髪の毛の本数や小さな産毛まで考えたら、「わかるわけないよ」と思うのが人情だ。正解はなんと、「いる」である。「適当に言ってるんじゃないの?」と突っ込まれそうだが、数学の「鳩の巣原理」を使えば証明できる。4羽の鳩に対して3個の巣があるとする。4羽がみんな巣に入ったとすれば、2羽以上の鳩が入る“相部屋”が“必ず”できる。これが「鳩の巣原理」である。冒頭の問題に当てはめると、横浜市の人口(鳩)は1人の髪の毛の本数(巣)より多い。したがって、同じ巣(髪の毛の本数)に入る人は複数出てくる。ゆえに、数学的には「100%いる」と言い切れるのである。
数学は、このような複雑に見える問題も一瞬で解いてしまう。まさに、究極の合理性と美しさを兼ね備えた学問である。数学への苦手意識から「数字アレルギー」の人も少なくないだろう。しかし、現代のビジネスパーソンに欠かせないロジカル・シンキングや統計学、デザイン思考も、元をたどればすべて数学に行き着く。数学は、今を生きる私たちに欠かせない教養なのである。
本書は軽い切り口から深遠な“数学沼”に誘ってくれる、道先案内人のような一冊である。数学が好きな人も嫌いな人も、一読して損はない。ぜひ手にとって、数学のとてつもない面白さを実感していただきたい。
要点1: 巨大な数は「単位量あたりの数」に変換することで、具体性を持って理解させることができる。
要点2: 数学の古典である『原論』は論理的思考法の基礎が詰まっており、欧米エリートの必読書になっている。「論理力」はリーダーの資質として欠かせない。
要点3: 「ベンフォードの法則」を使えば、帳簿や投票の不正まで見抜けるようになる。
要点4: 相関関係があるからといって因果関係があるとは限らない。統計を読み解くにはリテラシーが必要である。
とてつもなく面白い数学
1兆ってどのくらいの大きさ?
あなたは、「1兆」の大きさをイメージできるだろうか? 「◯兆個」のものを目にする機会は滅多になく、その大きさを実感するのは難しい。
では1から順に1兆まで数えると、どのくらいかかるか考えてみよう。1時間は3600秒で1日は24時間だから、1日は約9万秒。1日あたりだいたい10万まで数えられるとすると、1年で3650万、3年で約1億。1兆まで数えるとおよそ3万年かかる計算だ。今から3万年前というとネアンデルタール人が絶滅した頃である。
ちなみに、1兆メートルは地球のおよそ2万5000周分であり、地球から太陽までの距離の約6.7倍である。このように意味付けされることで、「1兆」がとてつもなく大きな数であることが初めて実感できるだろう。
単位量あたりの大きさを利用した意味付けは、他人を説得する際に欠かせない。2008年、スティーブ・ジョブズはアップルのイベントで、初代iPhoneが「発売200日間で400万台売れた」ことを紹介した。その際「毎日2万台売れていることに等しい」と付け加えている。ジョブズは「1日2万台」という単位量あたりの大きさをうまく使うことで、一瞬にして数字の大きさの意味を聴衆に理解させることに成功したのだ。
大きな数字をイメージしやすくするために全体を小さな数字に縮小する手法は、様々な場面で利用されている。
累乗のとてつもない爆発力
「2×2×2」のように、同じ数を繰り返し掛けることを累乗という。掛け合わせる回数が増えると、途中から爆発的に変化する。
たとえば、新聞紙を折った時の厚さ。新聞紙の厚さを0・1ミリメートルとすると、n回折り曲げたときの厚さは0・1×2n(ミリメートル)である。14回では約164センチメートルと、成人女性の平均身長を超えるくらいになる。しかし、この後が急激だ。30回で約170キロメートル(東京〜熱海間の距離)、42回で月までの距離(約38万キロメートル)を超える。累乗は途中から爆発的に大きくなることがイメージできるはずだ。
累乗を拡張した指数関数を使うと、社会現象も記述することができる。18〜19世紀に活躍したイギリスの経済学者マルサスは『人口論』の中で、「今後、人口は等比数列的に増加する」と予測した。「等比数列的に増加」とは、「1、3、9、27、……」と、最初の数に同じ数を繰り返し掛けていくことである。その増え方は累乗の増え方にほかならない。
実際、19世紀末から世界人口は「人口爆発」と呼べるほどの速さで増加している。1800年に約10億人だった世界人口は、200年後の2000年には61億人まで増えた。2056年には100億人に達すると言われている。
指数関数というシンプルな初等関数で、人間の自由意志による社会活動の営みが表現できてしまう。そこに数学のとてつもない可能性を感じる。
整数の不思議
0と、0から順に1ずつ増やす(1、2、3、……)か減らす(-1、-2、-3……)と得られる数の全体を、整数という。整数は私たちに馴染みのある数であるが、その性質は謎に包まれている……