収容所(ラーゲリ)から来た遺書 (文春文庫) [Kindle]

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  • 極寒と飢餓と重労働のシベリア抑留
    仲間が絶望に囚われる中
    アムール句会を作り
    各々の句から一筋の光や心の安らぎを見出していく
    知性が 決して暴力に負けないという希望

    正直 句にそんな力が?
    と思うんですが
    故郷を懐かしみ
    自分の心を素直に言葉にする
    特別な勉強がいらない
    心があればいい
    というのが よかったんでしょうね
    皆さんが詠まれた句が
    素晴らしかった

  • 1945年(昭和20年)年、敗戦とともにソ連軍に捕われ、シベリア各地の収容所(ラーゲリ)で俘虜として過酷な抑留生活・肉体労働を強いられた日本人はなんと60万人にも及ぶという。そしてその一部、「満州国の警察・司法関係者や満鉄調査部北方調査室員や特務機関員だった日本人」は、多くの俘虜が日本に送還された後も「戦犯」として長く収容所(矯正労働収容所)に留め置かれた(抑留期間は最長11年に及んだ)。

    そんな抑留者たちの中にあって、ロシア語が堪能な元満鉄調査部社員・山本幡男は、長く過酷な抑留生活を耐えただけでなく、希望を持ち続け、勉強会や句会(アムール句会)を主催し、収容者たちの心の支えとなっていった。「ぼくはね、自殺なんて考えたことありませんよ。こんな楽しい世の中なのになんで自分から死ななきゃならんのですか。生きておれば、かならず楽しいことがたくさんあるよ」。

    そんな山本だったが、労苦が徐々に身体を蝕んでいき、ついには癌に侵され、帰国を待たずに収容所で亡くなってしまう。アムール句会で山本の教えを受けた者など、山本を敬愛する仲間たちは、彼が死ぬ前に記した遺言を必死に暗記し、帰国が許されると日本の遺族の下へ持ち帰ったのだった。

    その遺言の文面がいい。「日本民族こそは将来、東洋、西洋の文化を融合する唯一の媒介者、東洋のすぐれたる道義の文化──人道主義を以て世界文化再建に寄与し得る唯一の民族である。この歴史的使命を片時も忘れてはならぬ」(子供館へ宛てた遺言の一部)。まさに「これは山本個人の遺書ではない、ラーゲリで空しく死んだ人びと全員が祖国の日本人すべてに宛てた遺書なのだ」!

    極寒の冬の厳しさ、過重な肉体労働、不衛生な環境、僅かで貧しい食事、密告による抑留者の分断。こんな過酷な状況下に置かれれば、現代人ならたちまち精神を病んでしまうだろうな(いや、体を壊して死んでしまう方が先か?)。極限の環境を生き抜いた抑留者たちの逞しさ、ちょっと想像できないな。そして何より山本の心のタフさ、ポジティブさ、日本文化への造詣の深さは驚嘆に値する。本書の中で、山本は聖人のように輝いている。事実は小説より奇なりを地でいく、素晴らしい作品だった。

  • ラーゲリから愛を込めてという映画を見て、原案も直接読んでみたくなった。
    映画と異なる点や映画では映像のみで詳細に説明されていないものも多く、原著を読む甲斐はあると思った。

    過酷なラーゲリ生活の中で生きる希望を見出しながら、自分の信念を貫く、主人公の山本幡男さんの姿に感銘を受けた。
    どの時代も空気に流される人が大多数の中、1人違った行動をとることのできる力。
    それは、教養やアートなのかなと思った。
    映画中に出てきた、麗なもの美しいものに国は関係ない、という言葉はまさにそれを表していて、自分が好き・キレイだと感じることを大切にして生きる。
    その姿こそが私には美しく感じられた。

  • 人柄

  • 先日 収容所についての本を 資料館で教えてもらったので早速読んでみました。

    収容所の過酷な状況はなんとなくわかってきましたがこの本は そのつらい事だけに焦点をあてているのではなく 一人の人物を中心に いかに心豊かに生きてのか という事が書かれていました。

    収容所に何年も入っていて 仲間同士で 密告したり食べ物の事で争ったりしていくうちに 帰国が 夢また夢となり 心がすさんでいく人が多い中 この遺書を残した 山本氏は 日本古来の文化などに心を寄せて俳句を読んで 仲間で句会を開いたり勉強会などをしていました。
    (本来ならば そういう行為は禁止でしたので 隠れながら)
    生きる希望をなくした 仲間も 山本氏のお陰で
    シベリアの青空の美しい事などに気がつかされたり
    季節の移ろいに感動したりして 10年以上もの抑留に耐えて生きていました。

    残念ながら 山本氏は 帰国できずに亡くなってしまったのですが せめて 彼の遺書を届けたいと いう 思いで 仲間たちは必死になって 覚えたのです。
    というのも、帰国に際して 文字の書かれた物などは 持っていけなかったのです。
    だから 今日本に持って帰ってきてあるものは 着物に縫いつけたりしてうまく隠して持って帰ってきた 貴重なものなのです。
    そして 収容所にいる時も 文字の書かれた物を持っていたら 没収されたり 罰を受けたりしたそうです。
    多くの仲間たちは 空腹で 頭がもうろうになりつつも 山本氏の遺書を覚えて 俳句や 詩なども 覚えて帰国し 奥様の元に 届けたのです。

    山本氏の遺書は お母様宛て 奥様宛 子ども達宛てと いくつかあったので 仲間達は 数名に分けて 覚えたそうです。

    覚えるのは大変だったけれど
    この遺書を届けるまではという 強い思いで 仲間たちは 生きて帰国しました。

    本当に この収容所にいた 人々の苦労は大変なものだったと思います。
    でも、どんな場合でも 心に希望があれば 生きていけるものなのだと思いました。

    出来れば この本も多くの人に読んでもらいたいと思いました。

  • 「ラーゲリより愛を込めて」の映画をきっかけにこの本に出会いました。映画も良かったですが、それにプラスして読むことで、当時の様子や、彼らが考えていたことがより一層理解できる、奥深い本だと思いました。

    山本さんが家族に宛てた遺書は、ソ連で命を落とした日本人から遺族への遺書だと感じ、それぞれが使命感を持って暗記して帰って来たことを知り、はっとさせられました。
    また、子供たちに宛てた遺書には
    「日本民族こそは将来、東洋、西洋の文化を融合する唯一の媒介者、東洋のすぐれたる道義の文化 人道主義を以って世界文化再建に寄与し得る唯一の民族である。この歴史的使命を片時も忘れてはならぬ。」
    と書かれており、山本さんが自らの死が近いことを悟りながらも、将来を力強く見据える様子が伝わってくるように感じました。

    なぜこの本が1989年になって出版されたのかが不思議でしたが、出版の経緯も書かれていた点も良かったです。

  • 戦後も長くシベリアに抑留されていた日本人が帰国をあきらめず、最期の時間を戦いながら書いた元満鉄職員/二等兵山本幡男の遺書をキーとしたドキュメンタリー。
    没収を免れて遺族へ持ち帰るためには仲間が分担して暗記するしかない、と本人の希望によりその方法は実行された。事実を当事者たちに取材して書かれた本書は、「事実に着想を得て」書かれたそのへんの小説とは全く重みが違うと思う。

    1945年 敗戦間際の満州にソ連が侵攻。多くの日本人が俘虜となる。言いがかりのようなスパイ容疑などで懲役刑となった者多数。いくらかずつの帰国があったものの、長期服役となって先の見えない者たちがいた。過酷な労役と生活環境に加え、厳しい検閲や思想教育、スパイ行為の強要、帰国への絶望などで順々に倒れ、死んでいった。

    1956年末 最後の帰国の船が出た。山本の仲間たちがようやく戦後を迎え、暗記した遺書を家族に伝えたとき、実に12年が経っていた。

    遺書を暗記して家族に届ける。あまりに劇的な物語で、映画化されたものを見たときはてっきり小説だと思っていた。
    知的で句会を催すなど仲間を励まし続けた山本幡男だが、特別な偉業を成し遂げたとか、収容所をまとめるリーダーだとか、そんな人物ではない。
    物静かで希望を捨てない彼の言動が仲間に希望を捨てさせなかった。また、彼の遺書を伝える責任感が生きる力となった。
    何より、彼の遺書の内容は、山本本人だけのものでなく、仲間すべてを代表するものだったのだ。山本は家族への励ましとこれからの生きる指針を書いている。

    実は、遺書は生き残ったすべての日本人に向けられたものだったろう。これは今を生きる日本人にも真摯に受け取られて良いものだと思う。

    あとがきによると、著者が山本の遺書に出会ったのは昭和61年(1989)読売新聞と角川書店が主催した「昭和の遺書」の募集だったそうだ。
    遺書にとどまらず、取材をして収容所の長い抑留生活をていねいに描き、山本の最期の様子と本音の叫びを書きつけたメモまで掘り出してきたことで一層の迫力と実感がある。
    もはやこのような取材ができる時限は過ぎてしまった。本書は大切に読まれて良いと思う。

  • 俳句を詠みたくなった
    そんなに知ってるわけじゃないけど、日本の文化に誇りを持てた

  • 戦後、ソ連に抑留された日本人の中で俳句会を催したり、帰国(ダモイ)をあきらめずに皆を鼓舞したりした主人公が病に倒れ、妻にあてた遺書を書いたのを日本人捕虜同士が決して短くない文章を暗記して伝える話。過酷な抑留生活に必死に生きる日本人の姿に生きる意味を考えさせてくれる感動的な小説。

  • 戦争がいかに残酷なものか、知っているはずなのに目を背けてきていました。
    私が生まれる前に終わったはずの戦争が、その抑留者が帰るまでに何年も要したことがこの本で知るとは…

    いまの戦争にダブってとても切なくなりました。

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