日本中世史 (東洋文庫0146) [Kindle]

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  • 本書は内田銀蔵の『 近世の日本・日本近世史 (東洋文庫) 』とともに日本の近代的実証史学の草創期における名著としてつとに有名である。原の専門は西洋史であり本書は言わば原の余技に過ぎないが、それが後の国史学の大きな流れを作ったというのも驚きである。内田の上掲書にも共通するが、本書の特徴は西洋史との比較において日本史をとらえるスケールの大きさである。自由と名誉を重んじ、平安貴族に代わって歴史の主役に躍り出た東国武士に、ローマ帝国の頽廃を突き崩して西洋中世を切り拓いたゲルマン民族の姿を重ね合わせるとともに、虚飾を排して庶民の救済を念じた鎌倉仏教に宗教改革を対比させる。

    ここに赴任先の京都と京都人の貴族趣味を終生嫌い続けた関東人としての原の価値観が反映していたのかどうか評者の知るところではない。ただ、律令制を基礎とする古代的な奴隷制社会に抗する新興勢力としての武士階級に、新たな時代精神を読み取ろうとした石母田正の『中世的世界の形成』や、その決定的な影響を受けた石井進をはじめとする東大系史学の日本中世史像の原点は、武士の台頭に着目し、日本史における中世という時代区分を初めて学問的に確立した本書にある。後に原以来の日本史学界の定説が武士階級を過大評価するものであるとして、寺社勢力の役割を強調した黒田俊雄の「権門体制論」が京都の学風から起こったのは何とも興味深い。

    本書は学説史的にも極めて重要な著作であるが、 特筆すべき魅力はその流麗で格調高い文語体である。平安朝の幕開けを描写した冒頭の一節はこんな調子である。「新都の経営既に成りて、朱門は八荒に輝き、画棟は空に聳え、典章爰に具はりて、百官有司各其職を分かち、春秋の朝議夏冬の節会には、縉紳の衣冠粲としてそれ輝けり・・・」原の今ひとつの名著『東山時代に於ける一縉紳の生活』とともに、最初はとっつきにくいが、文学作品としてもじっくり味わいたい一冊である。

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