[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき (PHP文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 保守の聖典とされる割には読まれることの少ないバークであるが、それには相応の理由がある。評者は水田洋氏の訳もそれほど苦にはならないのであるが、現代の視点からはあまり重要と思われない部分が多過ぎて、通読するだけで骨が折れ、バークの保守思想の真髄がぼやけてしまうのだ。その意味で佐藤氏の抄訳は誠にありがたい。バークの主張で興味深いのは「固定観念」の擁護であろう。固定観念であるにもかかわらず大事にするのではなく、固定観念だからこそ大事にするというところがミソだ。(prejudiceの訳語については「固定観念」も悪くないが、「偏見」という従来の訳語もその逆説性を際立たせる上では捨て難いし、「先入見」という水田訳が意味としては正確だ。) 既存の制度や慣行が果たして正しいのか、未来永劫守り続ける価値があるのかどうか、不完全な人間の知恵では計り知れない。だから、時の試練に耐えてきたという事実を謙虚に受け止め、よほど不都合が明らかとならない限り、取り敢えずはそれに敬意を払うという構えだ。だからバークの保守は必ずしも進歩を否定しない漸進主義である。これは理性を全否定するのではなく、「裸の理性」の横暴(これがまさにフランス革命だ)への歯止めを伝統に期待するという、オークショットやハイエクも含めた広義の保守の共有財産である。

  • フランス革命勃発の1年3か月後に、イギリス人政治家によってフランス革命について書かれた本。フランス革命は、自由と平等の象徴的出来事と習っているが、実際は革命後、フランスは長期にわたり混乱していたことがわかっている。革命直後に、その状況を的確に分析していたイギリス人がいたことがわかった。著者は、フランスの議会や行政、法整備や税制、軍事など、多岐にわたり情勢をよく観察し、的確に分析していると思う。その能力に驚かされた。
    ただし、本論以外で訳者が解説している部分の内容は稚拙で、本書の質を台無しにしていると思う。残念。
    「(フランス革命の定義)絶対王政下にあった1789年のフランスで、政府の財政危機を直接的な引き金として生じた革命。「自由、平等、博愛」の高邁な理想のもと、当初は立憲君主制をめざす動きも見られたものの、ほどなくして過激化、国王ルイ16世、王妃マリー・アントワネットの処刑を経て、「恐怖政治」と呼ばれる粛清の嵐に至る。1799年、ナポレオンのクーデターによって終結」p3
    「私はこの革命を、残念ながら非常にいかがわしいものと見なしている」p57
    「国王にへつらうのは見苦しいが、民衆にへつらうのは望ましいなどと思ってはならない」p61
    「(革命の評価には、次の視点が必要)この自由は、政府による統治といかなる形で結びついているか? 公の権威は保たれているか? 軍隊は規律正しく、統帥は乱れていないか? 国の歳入および歳出は健全か? モラルや宗教は安定しているか? 所有権は保障されているか? 平和と秩序は実現されているか? 人々の振る舞いには落ち着きが見られるか? こういった点が満たされていないとき、自由であるのは望ましいことではないし、そもそも長続きしないだろう」p62
    「歴史に革命は数あれど、フランス革命ほどメチャクチャなものはかつてない。仰天するような出来事が次々に起きている。革命政府の姿勢や方法論は、たいてい不条理かつバカげたものにすぎず、軽蔑にしか値しない。支離滅裂なヒステリーとも呼ぶべき、かかる混乱のもとでは、自然な秩序は完全に崩れており、あらゆる犯罪や愚行が一緒くたに繰り広げられている」p65
    「どんなに高い地位や肩書きを持つ者であろうと、一時的な思いつきで権力を行使することは許されない。普遍的な理性、宗教的良心、信義や公正さ、国家の伝統的あり方といったものの方が尊重されるべきなのだ」p70
    「当の変更によって、国のあり方全体が崩れるようでは話にならぬ。重要なのは、これまでの社会機構をなるべく温存しつつ、新しい安定的なシステムをつくり上げることである」p72
    「フランス人諸君は、伝統的な社会機構など、自分たちの都合や気分次第で全否定しても構わないと思っているようだが、イギリスでもいずれ同じ風潮が台頭するかもしれない」p75
    「王位が確実に継承されることは、国家全体が安定して続いてゆくことを象徴的に示すものなのである」p76
    「あらゆる格差や不平等をなくすことは、どんな社会にも不可能なのだ」p94
    「フランスは、王権の手綱をいったん緩めるや、何でもやりたい放題やるのが自由だという風潮の台頭を許し、宗教を否定する言動まで放置した。結果として、かつてなら富と権力を握っていた層にのみ見られた不正や腐敗が、社会全体に広まってしまったものの、それすら「特権のおすそわけ」のごとく美化されている」p95
    「(フランスの状況)法はくつがえされ、裁判所はなくなり、産業は活力を失って、商業は衰退の一途。税金は納められず、だが人々は貧しくなるばかり。教会は略奪され、国政の危機はいっこうに解決されない。市民社会でも軍隊でも無秩序がはびこり、国家の負債をなくすために貴族も聖職者も犠牲にされる。行き着く先は、フランス自体の破産以外にない」p96
    「優れた者の地位を引き下げることで平等が達成されることはないのだ。どんな社会であろうと、多種多様な人間によって構成されているかぎり、支配層が現れるのは避けられない。「引き下げ平等主義」にこだわる者は、物事の自然な秩序を狂わせる」p112
    「民主主義と独裁は、驚くほど多くの共通点を持つ。こう喝破したのはアリストテレスである。民主主義のもとでは深刻な対立が生じやすくなるが、少数派となった人々は、多数派から情け容赦なく弾圧されるだろう」p193
    「宗教、道徳、法律、王権、特権、自由あるいは人間の権利といったものは、いずれも悪徳をはびこらせる口実となりうる。というのも、これらはそろって正義や善に通じているからだ。正義や善を根絶やしにしてしまえば、災厄をもたらす口実も存在しえないものの、それで自由で平和な世の中が実現されるだろうか。王、大臣、聖職者、法律家、将軍、議会、このいっさいを廃止せよと決議したところで解決にはならない。どんな名称で呼ばれようと、社会から権力が消滅することはなく、権力を濫用しうる立場の者も存在し続ける」p211
    「行きすぎに行きすぎを重ねた果て、革命派は前代未聞の独裁政治をつくり上げたのだ」p220
    「(修道院からの収奪と崩壊)修道院こそは政治的な善行をなすための格好の道具であった。修道院の収入は、大部分が公共の福祉のために使われることを前提にしている。また修道士は俗世間から距離を置き、世のため人のために尽くす者たちではないか」p230
    「現在の制度ではこうなる。ある地域で、周囲の人々と比べ100倍の税金を納める者がいるとしよう。にもかかわらず、彼は1票しか与えられていない。地域の代表者が1人なら、この1人をめぐって、貧しい連中の意向が100対1で反映される。ひどい話だ」p259
    「(租税の自由化)フランスでは、税の支払いを拒否する人々が続出しており、ある地方が丸ごと納税をやめてしまった例まで出た。かくして税制は、革命前より公平になるどころか、恐ろしく不公平なものと化す。政府に従順な地域、秩序が良く保たれている地域、あるいは国のために尽くそうとする意欲を持った地域に、税負担がすべて押しつけられたのだ」p339

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著者プロフィール

政治思想家

「2020年 『[新訳]フランス革命の省察』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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