ロッキード (文春e-book) [Kindle]

著者 :
  • 文藝春秋
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感想・レビュー・書評

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  • 内外の膨大な資料を精査しつつ、まだ生存している関係者に直接取材し、改めてロッキード事件とは、田中角栄とは、を問うた大作。

  • ロッキード事件のことは誰でも聞いたことがあるけれど、くわしく説明できるひとは少ないと思う。その理由は単純に、事件に関連する情報が膨大なうえに不透明な部分が多いからだ。当然、真相はわからない。

    本書は真相を説明するものではない。
    主役である田中角栄は審理の最中に亡くなっており、関係者の多くも鬼籍に入っている。
    600ページ以上の大著なだけあって、リサーチはしっかりしている。ただ、ロッキード事件の説明をしているものではない。概略を知りたかったらwikipediaを眺めたほうが早い。(本書を読んでからロッキード事件のwikiを読むと比較的しっかりまとまっていると思う)

    当時の検察が、様々な証拠や証言を使い、田中角栄を有罪にするためのストーリーを作ったのは事実だとは思う。翻って本書は、田中角栄を無罪にするためのストーリーである。

    最初に書いたとおり、真相が書かれているわけではない、だからといって嘘が書かれているわけではない。ノンフィクション小説のように読むのがよいと思う。読みやすさやおもしろさは充分なので、その前では「真相が書かれていない」などは小さすぎる瑕疵だと思う。

  • めちゃおもろい。

  • 改めて振り返るロッキード事件。あれは、フワフワと現れ、フワフワと消え去った事件、と語る、ロッキード丸紅ルートの判決に関わった最高裁元判事の言葉から書き起こす、小説家真山仁。小説家の作業は、戦後復興に関わったCIA関係者の足跡をたどる作業に広がります。いわゆるCIA三人衆の動きに注目。CIAの在東京コントローラー(右翼の大物 児玉誉士男の管理官としての)福田太郎、ロッキード社の東京支配人鬼俊良、そして金庫番の日系人シグ・片山の戦前から戦後への経歴等の掘り起こします。この三人は、裁判で証言をする事はあっても、起訴されることなく生涯を全う。三人の人生の向こう側に見える米国の動き(含むキッシンジャー、中曽根元総理)等。三木総理の頑張り等で、思わぬ展開となり田中逮捕となりましたが、本筋はこちらではなかったのか。それは、P3C導入であり、中曽根康弘、総理への道筋等、に、なるほどね、という展開。児玉に渡ったとされる21億円(当時)は、おそらく、米国に還流(ニクソンの再選資金に)しているという見立てにもなるほどであります。ロッキード事件は、最初から最後まで、米国による米国のための事案だった、とも思われます。★四つです。

  • ロッキード

    著者:真山仁
    発行:2021年1月10日
    文藝春秋

    ロッキード事件は、全日空がエアバス(大型旅客機)としてマクドナル・ダグラス社のDC-10の購入を決めていたが、ライバルのロッキード社がトライスターを売りたいために、田中角栄などの政治家にお金を渡し、全日空にトライスター購入を働きかけてくれと頼んだ汚職事件。ロッキード社からのお金は、次の3ルートを経由して政治家に流れたとされる。①児玉・小佐野ルート(右翼のフィクサー)②丸紅ルート(ロッキード代理店)③全日空ルート。
    *この当時の「エアバス」とは「空飛ぶバス」というイメージの一般名詞で、現在一般的なヨーロッパのエアバス社のことではない

    ①と②には理解できる。しかし、③についてはどうしても理解できない。トライスターを買うのは全日空だ。政界に力を持つ①の両者や売れれば利益の上がる②から田中角栄に流れ、田中角栄が全日空に口利きをするというという構図は理解できる。しかし、自分ところが金を出して買う全日空が、どうして田中角栄にお金を渡さなければいけないのか?逆じゃないのか?

    高校生の時に発覚した一大汚職事件の基本フレームの中で、いまだに説明できない。当時からいろいろ読んだり、人に聞いたりしてきたが、明確な説明に出会うことはなかった。せいぜい、全日空がトライスターに変更するためにはあと何年か時間がかかるため、ライバルのJALにもエアバス導入を遅らせるように行政指導をしてくれ、と頼むためだったという程度の説明だった。納得できるような、できないような。

    この点について、この本には書いてあるのではないかと期待し、600ページ近い本に挑んだ。真山仁は「ハゲタカ」などを書いた小説家。本格的なノンフィクションは初めてらしい。さすがに小説家、すらすらと読ませる筆回しで、ノンフィクションにありがちなあれもこれもという情報過多がなく、読むこと自体は楽しかった。でも、それだけだったという裏返しでもある。全日空ルートの素朴な疑問については、274ページに書いてあった。同じ疑問を著者も持っている。しかし、明確な回答はなかった。

    読んで暫くすれば分かってくるが、著者は「田中角栄無罪」と考えている。無罪だというために、多くのページをさいて説明している。しかし、それは著者なりの「説明」や「考え」にしかすぎない。新しい資料に出会った、これがその証拠だ、というようなものはない。それどころか、著者が取材した相手は、当時の関係者のごく一部にすぎない。物故者が多いので無理もないといえばそれまでだが、その反面、当時の関係者がこう言っていたのを聞いていた人に取材した、としてそれを〝証拠〟のように使っている。中には、当時の裁判官が心境を吐露したのを間接的に聞いたという人を知っている、といって又聞きを紹介している部分すらある。
    読んでいて、なんじゃそりゃ、となってしまう。

    ロッキード事件の主な陰謀説は二つ。
    ・角栄がアメリカより先に中国と国交を結んだことで怒らせた(虎の尻尾を踏んだ)
    ・角栄はエネルギー問題でアメリカの逆鱗に触れた(石油やウランなどの資源を米国経由以外からも獲得しようと躍起になったから)
    著者はその両方とも否定する。前者は1972年8月に軽井沢でのキッシンジャーとの会談と、ハワイでのニクソンとの首脳会談において、渋々ながらも日中国交回復を認めてもらっている。
    一方、後者については、①オイルショック前から角栄は資源確保を世界中で画策したが何も成果はなかった②オイルショック後、石油確保のためにユダヤ人でもあるキッシンジャーが反対するアラブ寄りの政策をしたものの、ロッキード事件が発覚したのは資源外交で奔走した時期ではなく総理辞任後だった、という理由をあげて否定

    アメリカの陰謀があるとしたら・・・1974年10月9日発売の文藝春秋誌上で立花隆による田中金脈問題が報道され、それがやっと終息するやに思われた22日、角栄は日本外国特派員協会の昼食会でのスピーチに招かれた。質問の時間になり、スピーチの本題ではなく金脈問題に関するストレートな質問が次々と出始めた。陰謀があるとしたら、この会見こそそれだと著者は指摘している。

    結局、ロッキード事件の本命、本質はなにか?
    著者は、田中角栄の有罪判決は無理があると見ている。職務権限もないし、丸紅ルートで受け取った5億円は授受があったことすら疑わしいと考えている。そして、結局、3つのルートのうち、解明されなかった児玉・小佐野ルートにこそ本質があるとする。
    金額も21億円と他ルートよりはるかに高額であり、お金の行方も解明されていない。しかし、児玉誉士夫がお金を持って働きかけたとしたら、全日空ではなく、防衛庁であるとする。彼は軍事にこそ強い。そして、次期支援戦闘機や輸送機、対潜哨戒機の国産化を強く望んだ中曽根康弘は佐藤内閣で防衛庁長官をしており、その際、結局、対潜哨戒機(PXL)の国産化を諦めている。ロッキード社は経営危機を迎えていて、アメリカは国をあげて支えようとした。そこで、PXLとしてロッキードのP-3C「オライオン」の購入を強く働きかけたのではないかと分析。絡むとしたら、中曽根、そして、総理の佐藤栄作だろう、と。
    中曽根の秘密が暴かれていたら、角栄は破滅しなかったのではないか、とまで言っている。

    *著者は検察が描いたストーリー通りに証拠を集め、起訴にもっていくことを批判しているが、このノンフィクションも自らが使っている言葉である〝妄想〟を著者自身が膨らませ、そこに向けて論を進めているという、検察と同じ誤謬をしているように思えてならない。

  • 私が物心ついたころには田中角栄はすでに死去していた。
    小学校高学年の頃か、社会の資料集で歴代総理大臣の略歴を読んでいて、逮捕された総理という認識だった。

    当時は2021年現在とくらべて、政治家の金銭問題に対する憎悪が社会全体に強かったように感じる。
    ニュースで無駄な公共事業が取り上げられることが多く、政治家の利益誘導をマスコミが盛んに糾弾していた。
    今は支出と言えば社会保障費がメインになり、公共事業の少々の増減など問題にならなくなった。
    またその受益者はテレビや新聞のメイン顧客である高齢者なのであまり強い批判にならないのだろう。

    話を戻して、かつての私にとってもっとも謎の政治家が田中角栄の娘、田中眞紀子であった。
    当時の田中眞紀子はトップクラスに知名度と人気があり、2001年に小泉内閣ができたときには、彼女の応援が大きな追い風となり、小泉が逆転勝利を果たしたと記憶している。
    汚職で逮捕された政治家の娘が、政治家として人気なのは全く訳がわからなかった。
    昔だって今と同じく悪者はどんなに叩いても許される風潮はあった。
    角栄は汚職で逮捕されたが、実は嫌われていないということになる。
    彼への興味はふくらむものの、ロッキード事件の概要を見た程度では感慨もおきず、宙ぶらりんのままになっていた。

    本書は角栄の人生と彼の生きた時代を丹念に追っていくことで、昭和の時代の香りに浸るような心地で読める。
    知らない時代の退屈な事実を読むのはよっぽどの必然性がないと難しい。
    真山さんだからこそ、事実をストーリーに構築して、一気に読ませることができる。

    過去の事件を通じて、時代で変わることと、変わらない我々大衆の本性が浮き彫りにされる。

  • ロッキード資金は実は日本側に渡っていなくて、ニクソンの選挙費用に回った?

  • 600ページ近い大部の書籍であるが読みやすく、一気に読了。ロッキード事件について最近秘密解除された文書を含め丹念に追った労作。本事件についてはいろいろな解説がなされているが、これらの諸説も追いながら丁寧に持論を展開している。昭和史の貴重な文献。

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著者プロフィール

1962年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』でデビュー。映像化された「ハゲタカ」シリーズをはじめ、 『売国』『雨に泣いてる』『コラプティオ』「当確師」シリーズ『標的』『シンドローム』『トリガー』『神域』『ロッキード』『墜落』『タングル』など話題作を発表し続けている。

「2023年 『それでも、陽は昇る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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