- Amazon.co.jp ・電子書籍 (627ページ)
感想・レビュー・書評
-
内外の膨大な資料を精査しつつ、まだ生存している関係者に直接取材し、改めてロッキード事件とは、田中角栄とは、を問うた大作。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ロッキード事件のことは誰でも聞いたことがあるけれど、くわしく説明できるひとは少ないと思う。その理由は単純に、事件に関連する情報が膨大なうえに不透明な部分が多いからだ。当然、真相はわからない。
本書は真相を説明するものではない。
主役である田中角栄は審理の最中に亡くなっており、関係者の多くも鬼籍に入っている。
600ページ以上の大著なだけあって、リサーチはしっかりしている。ただ、ロッキード事件の説明をしているものではない。概略を知りたかったらwikipediaを眺めたほうが早い。(本書を読んでからロッキード事件のwikiを読むと比較的しっかりまとまっていると思う)
当時の検察が、様々な証拠や証言を使い、田中角栄を有罪にするためのストーリーを作ったのは事実だとは思う。翻って本書は、田中角栄を無罪にするためのストーリーである。
最初に書いたとおり、真相が書かれているわけではない、だからといって嘘が書かれているわけではない。ノンフィクション小説のように読むのがよいと思う。読みやすさやおもしろさは充分なので、その前では「真相が書かれていない」などは小さすぎる瑕疵だと思う。 -
めちゃおもろい。
-
改めて振り返るロッキード事件。あれは、フワフワと現れ、フワフワと消え去った事件、と語る、ロッキード丸紅ルートの判決に関わった最高裁元判事の言葉から書き起こす、小説家真山仁。小説家の作業は、戦後復興に関わったCIA関係者の足跡をたどる作業に広がります。いわゆるCIA三人衆の動きに注目。CIAの在東京コントローラー(右翼の大物 児玉誉士男の管理官としての)福田太郎、ロッキード社の東京支配人鬼俊良、そして金庫番の日系人シグ・片山の戦前から戦後への経歴等の掘り起こします。この三人は、裁判で証言をする事はあっても、起訴されることなく生涯を全う。三人の人生の向こう側に見える米国の動き(含むキッシンジャー、中曽根元総理)等。三木総理の頑張り等で、思わぬ展開となり田中逮捕となりましたが、本筋はこちらではなかったのか。それは、P3C導入であり、中曽根康弘、総理への道筋等、に、なるほどね、という展開。児玉に渡ったとされる21億円(当時)は、おそらく、米国に還流(ニクソンの再選資金に)しているという見立てにもなるほどであります。ロッキード事件は、最初から最後まで、米国による米国のための事案だった、とも思われます。★四つです。
-
私が物心ついたころには田中角栄はすでに死去していた。
小学校高学年の頃か、社会の資料集で歴代総理大臣の略歴を読んでいて、逮捕された総理という認識だった。
当時は2021年現在とくらべて、政治家の金銭問題に対する憎悪が社会全体に強かったように感じる。
ニュースで無駄な公共事業が取り上げられることが多く、政治家の利益誘導をマスコミが盛んに糾弾していた。
今は支出と言えば社会保障費がメインになり、公共事業の少々の増減など問題にならなくなった。
またその受益者はテレビや新聞のメイン顧客である高齢者なのであまり強い批判にならないのだろう。
話を戻して、かつての私にとってもっとも謎の政治家が田中角栄の娘、田中眞紀子であった。
当時の田中眞紀子はトップクラスに知名度と人気があり、2001年に小泉内閣ができたときには、彼女の応援が大きな追い風となり、小泉が逆転勝利を果たしたと記憶している。
汚職で逮捕された政治家の娘が、政治家として人気なのは全く訳がわからなかった。
昔だって今と同じく悪者はどんなに叩いても許される風潮はあった。
角栄は汚職で逮捕されたが、実は嫌われていないということになる。
彼への興味はふくらむものの、ロッキード事件の概要を見た程度では感慨もおきず、宙ぶらりんのままになっていた。
本書は角栄の人生と彼の生きた時代を丹念に追っていくことで、昭和の時代の香りに浸るような心地で読める。
知らない時代の退屈な事実を読むのはよっぽどの必然性がないと難しい。
真山さんだからこそ、事実をストーリーに構築して、一気に読ませることができる。
過去の事件を通じて、時代で変わることと、変わらない我々大衆の本性が浮き彫りにされる。 -
600ページ近い大部の書籍であるが読みやすく、一気に読了。ロッキード事件について最近秘密解除された文書を含め丹念に追った労作。本事件についてはいろいろな解説がなされているが、これらの諸説も追いながら丁寧に持論を展開している。昭和史の貴重な文献。