選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子 (文春文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 重いテーマであり読み進めるのにはエネルギーが必要だったが、夢中になり一気に読み切ってしまった。
    一時話題になった出生前診断について、自分なりの考えを持っていると思っていたが、それはあまりにも浅はかで、多くを知らないなかで持っていた考えであることに気付かされた。
    また、助産師などの現場の医療従事者の視点での意見にこれまで触れた機会はなかったため、本書から彼ら彼女らの思いを少しでも知ることができたのはよかった。
    議論自体をタブーとすることは何も生み出さず、法と現状の狭間で苦しむ人がでるだけだと思う。明確な結論を出さずに曖昧なままとすることは適切ではない。難しくとも、様々な立場の当事者が意見を出し合い、きちんと法を見直し、今のあるべき姿を議論すべきと感じた。

    読んでいて苦しくなる場面も多く、簡単に人に薦められる本ではないと思うが、多くの人に本書を読んで考えてもらいたいテーマと感じた。

    筆者のリサーチ力も素晴らしいと思う

  • とにかく重い内容の本でした。
    読めば読むほど、気持ちが沈んでいきそうになりました。
    命の選別、という難しい問題です。
    誰もが、生まれてくる赤ちゃんは、五体満足の元気な子どもであってほしいと望んでいます。
    それが事前にある程度、どんな子が生まれてくるかがわかれば、選びたい気持ちもわかります。

    母体保護法、出生前診断、そして過去の強制避妊手術されられたことが問題となった今は廃止となっている優生保護法。

    選べるのはダウン症のみ。
    出生前診断を行って、ダウン症の可能性が高いと妊娠継続しなかった親は、生まれた子が、検査では分からない他の種類の先天性の病気や、出産時のトラブルで何か重篤な症状が出たら、そして出産後に感染症や重篤な病気になったら、重い発達障害などの症状だったら、育てていけるのだろうか。
    きっと大半の人が育てていくのだと思います。
    ダウン症の子を育てていくことも、それと同じなのかな、という気がします。

    でも事前にわかる診断があって、その結果が望んでいないものならば、排除したい気持ちもわかります。
    そもそもこの検査を行う目的の『陽性が出た場合、出産前に、心の準備をしてもらう。』という意味が分かりません。
    殆どの人が不安が増すのでは?
    だったらこの診断の目的など、なんの意味も持たないと思います。

    医療者側として、この検査によって中絶を望む人が増えたため、それを受け入れる病院のスタッフは大変辛い気持ちで働いている話もありました。
    このくらいの週になると、身体も人間として出来上がってくるので、出産、という形になり、生まれてきたは保育器に入らず、膿盆にのせられ、死ぬまで放置されるというのです。
    私も知人からこの話を聞いたことがあり「赤ちゃんが生まれてくる手伝いをするはずの助産師が、なぜ殺すことに加担しなくてはならないのか、本当に辛すぎる」と言っていました。

    誤診を受けたために出産したが合併症により亡くしてしまった親が医師を訴えた話や、医療従事者の話、ダウン症を実際に育てている人やその本人の話、ダウン症の子は育てられない、と母親が預けた先の里親の話、そして誤診により訴えられた医師の弁護士の話、過去に強制不妊手術を受けた人の話などが載っていました。

    その中で、訴えられた医師の弁護士の「生命は受精した瞬間から命である。命をどう考えるか、という問題である」、
    そして日本で大学を卒業したダウン症の岩元綾さんが、誤診でダウン症の子を出産した後、合併症で亡くし裁判を起こした親について「赤ちゃんがかわいそう。そして一番かわいそなのは、赤ちゃんを亡くしたおかあさんです」という言葉が心に残りました。

    出生前診断の目的は、その結果によって実際に取られている行動(中絶)を正当化するための建前なのでしょうか。
    選択できる機会が与えられれば、苦労だと思っている方を選びたくないものではないでしょうか。
    選別される側と、選別する側。
    人間が命の選別をしていいのか。過去の優生保護法と照らし合わせてどうなのか。
    こんな内容の本は初めて。
    本当に読めば読むほど、きれいごとでは済まないのかな、と辛くなる内容でした。

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著者プロフィール

河合 香織(かわい・かおり):1974年生まれ。ノンフィクション作家。2004年、障害者の性と愛の問題を取り上げた『セックスボランティア』が話題を呼ぶ。09年、『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』で小学館ノンフィクション大賞、19年に『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』で大宅壮一賞および新潮ドキュメント賞をW受賞。ほか著書に『分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議』『帰りたくない 少女沖縄連れ去り事件』(『誘拐逃避行――少女沖縄「連れ去り」事件』改題)、『絶望に効くブックカフェ』がある。

「2023年 『母は死ねない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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