サバイバルする皮膚 思考する臓器の7億年史 (河出新書) [Kindle]

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  • 人間の皮膚には驚くべき機能、能力が備わっている。著者によれば、人間の皮膚(表皮)はなんと、「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感すべてと、眼や耳で感知できない紫外線、超音波、気圧の変化、磁場などまで感知できる驚くべき感覚器官」であり、「人間が感知する様々な出来事、そのほとんどを眼や耳、鼻や舌とは別に、感知する機能を持っている」のだという。更に、表皮を構成する細胞「 ケラチノサイトに、大脳の情報処理の基礎となる情報伝達物質、それらによって作動される受容体も存在し、機能していることも」判明しているという。「身体と世界の境界にある表皮は、確かに世界に向けて開かれていて、かつ世界からの情報を身体全体や脳に対して制御する機能も兼ね備えている」のだ。

    いやはや、皮膚がこれ程偉大な存在だったとは! 皮膚、恐るべし。


    本書の中で特になるほど、と思ったことを三点ほど。

    ○鍼灸など東洋医学について真っ向から否定する識者も多いが(例えば、サイモン・シン「代替医療解剖」)、著者は、皮膚の機能から科学的に十分に説明できるという。何となくモヤモヤしていた、鍼灸やツボマッサージ等の効用について腑に落ちた。スッキリした!

    「皮膚には東洋医学の鍼灸学で知られているように、ある場所、それは経穴だったり経絡だったりするのであるが、その場所への刺激が、特定の臓器、あるいは全身の循環器系、消化器系、自律神経系、免疫系に作用する。経穴、経絡の存在は、実験科学的に証明されてい」て、かつ、人間の皮膚の持つ高度なセンサー機能や脳並みの情報処理・シグナル伝達機能からして「体毛が無い人間の皮膚表面に臓器とつながる情報網があることは特に不思議ではない。臓器から皮膚への情報の流れは関連痛として現代医学でも認められている。その逆、皮膚から臓器への情報の流れが存在してもなんら不思議ではない」。

    ○人間の意識の形成にも、当然ながら皮膚が大きな役割を演じているという。皮膚あっての意識なのだ。

    「人間の皮膚は、人間が持つ感覚のすべて、眼や耳や鼻や舌で感じるもの、それ以上を感知する能力がある。そして、そこで得られた情報を処理して脳に送っている可能性がある。一方で、その情報を基に、脳が全身に命令するのと同じホルモンなどで、脳とは別に全身に皮膚が指令を送っている可能性もある。さらには、表皮の指令が脳に届いていることもありそうだ。そう考えると、表皮への刺激は、人間の意識、無意識に作用しているようだ。その結果、人間の判断、情動は、皮膚、表皮と密接なつながりがあるのだろう。いくつもの心理実験で、皮膚への軽い刺激、それが人間の判断に影響することが示されている」。

    「電脳空間に個人の意識が完全に移行されることは絶対にないと考えている。なぜなら、電脳空間には皮膚がないからだ。絶え間なく膨大な環境情報を感知し脳に送る皮膚という装置があって、個人の意識が作られる。だから個人の意識も絶え間なく変化する。見方を変えれば、個人の意識は個人の皮膚によって個人の身体に付属させられている。個人の意識は皮膚から離れられない。それが人類の進化の結末である」。

    ○生物の進化と皮膚の関係も家族としてのとても興味深かった。

    人類は、猿から進化する過程で体毛を無くし、皮膚を外界に直接さらすようしたことで、(皮膚が本来持っていたセンサー機能や情報処理・シグナル伝達機能が復活し)、皮膚を通して外界から得られる情報が格段に増え、それを処理するために脳が発達して、他の動物にはない高度な知能を獲得したという。

    一方、「人類と正反対の戦略をとって進化したのが昆虫」で、「彼らは全身の皮膚を殻で覆い、その脳を構成する神経細胞の数は100万ほどに過ぎない」が、「昆虫は4億年前に現れ、100万を超えると言われる数の種がある。皮膚感覚を制限し、脳を軽量化する、という戦略は成功したと言えよう。 一方、現存する人類は一種だけである。数万年前まで存在した亜種もすべて滅んでしまった。これは皮膚を環境にさらし、脳を大きくするという戦略の難しさを示している」。人類の進化の道は、薄氷を履むがごとき危うい道だったのだ。

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著者プロフィール

1960年生。京都大学工学博士。資生堂研究員、JST CREST研究者、広島大学客員教授を経て明治大学MIMS研究員。主著に『皮膚感覚と人間のこころ』 『驚きの皮膚』。表皮研究で世界的に知られる。

「2021年 『サバイバルする皮膚』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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