2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か (日本経済新聞出版) [Kindle]
- 日経BP (2021年11月20日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (292ページ)
感想・レビュー・書評
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最初に断っておくと、タイトルの割りに目新しい話はありません。
地政学と言うのは長らく物理的な地理的要因でしたが、近年ではデジタル空間も含まれる。
半導体は「21世紀の石油」とも言われ、重要な戦略物資となった。
世界で半導体製造になくてはならない企業は3社
・TSMC(台湾)
・ASML(オランダ)
・アーム(イギリス)
最重要なのはTSMC
以前は半導体の製造を一つの企業が設計開発から生産まで一貫して行っていた。
しかし1990年頃からファウンドリーとファブレスに分業化が進む。
自社では工場を持たず設計にみに特化するファブレス企業
インテル、AMD、クアルコム、エヌビディア
製造を請負うファウンドリー企業
TSMC(台湾積体電路製造)
ファウンドリー企業では、TSMCが技術力の面でライバルを先行している。
(10年先行しているとも言われている)
最先端の設計を形にできる半導体メーカーは世界でTSMCのみ。
これにより下請けであるはずのTSMCとファブレス企業との立場は逆転。
価格決定権すらも握られている。
AMDは製造をTSMCに切り替えてからシェアを拡大し、インテルの凋落が始まった。
ちなみにTSMCは1987年の創業の際に、インテルに出資を求めたが断わられている。
30年たったいま、皮肉にもインテルは自社での製造に切り替えた。
そんなわけなので、台湾をめぐり米中で戦争になるのも必然。 -
半導体がこれからの社会において、米から石油のように大切な物資になっていくこと、それをアメリカが本気で囲み、中国と対抗していること、中国は国内のスタートアップを蠱毒のように争わせ、国力を高めていること、台湾のTSMCが如何に巨大な半導体ファウンドリーなのかがとてもよくわかった。
NTTの開発しているという光電融合素子を使った半導体が世界を席巻して、日本が半導体の世界で再びリードできる日が楽しみです。分割されたNTT株買わないと。 -
北大理学部で量子物理化学を専攻した日経新聞編集委員による2021年の本。2021年当時(といってもわずか2年前なのだが。。。)の日本を中心とした地政学の視点による観察。章とコラムの組み合わせが飽きさせない。
さすが新聞記者。文体が簡素で読みやすい。
TSMCによるアリゾナ進出はバイデン政権の国家戦略によるゴリ押しであることをTSMCのステートメントの行間から解説しているあたりは、とても新聞的。
半導体製造の工程おいて強固な立場や技術がある日本企業も列挙。ちょうど今週、産業革新投資機構による買収が発表されたJSRも登場したのはタイムリーな読書体験だった。
シンガポールが実は親中で習近平政権への支持率高いという話も興味深かった。この見出しは「紅色供応鏈」。紅いサプライチェーン、中国企業に繋がる貿易の流れという意味の中国語らしい。
ヨーロッパについては、2021年の本なのでロシアによるウクライナ侵攻以外のファクターを解説している。ロシアに支援されているアルメニア(最古のキリスト教国)とトルコに支援されているアゼルバイジャン(イスラーム国家)の間で紛争の火種がくすぶっている話など。
時間が経つと「旬」が失われてしまうのがもったいない、高級寿司屋のような本。 -
TSMCがアメリカに工場を設置とか熊本に工場を建設予定など半導体関連のニュースをよく聞くけれど、そのニュースを半導体と地政学と国家戦略という切り口で読んでみよう、というのが本書。
大昔は鉄は国家なり、今も昔も石油は重要!だけれど、最近はそれに加えて半導体も、ということらしい。
ここでいう「半導体」は物質という意味に加えて、半導体の材料を調達する会社、機器を設計する会社や製造する会社を含めて(いわゆるサプライチェーン)の半導体である。 -
半導体が戦略物資であることを理解できた。各国で覇権を争う理由もよくわかる。
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半導体と各国をめぐる状況がよく分かる。
半導体の材料、装置、特許が各国間の取引のカードとなっていることがよく分かる。 -
綿密な取材に裏付けられた良書 アルメニア エレバンのコンピュータ研究所の人材シノプシスがEDAで立地 ロシアゼレノグラードにMCST開発のエルブラスCPU 東大はTSMCとDLab立ち上げ慶応大黒田忠広教授を招聘
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半導体のサプライチェーンは安全保障上の重要な意味があるというのはまさにその通りで、TPPやらQUADやらも絡んで複雑な情勢と、重要性がよく分かる内容になっていました。
個人的にはこれだけ需要と戦略的な重要性が上がっている中では、サイクル関係なくなっていくのかもしれないとも思いました。