インド残酷物語 世界一たくましい民 (集英社新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 以前インドに2ヶ月弱ほど滞在したときの衝撃がよみがえる。文字通り残酷と呼べる事態にもいくつか直面したので、「インド残酷物語」というタイトルにいくらか尻込みしながら本書を手に取った。

    ら、たしかに残酷な事件についても触れられていたが何より、本書はインドの「残酷な社会構造」について書かれた本だった。それにしても、予想以上にインドでも格差が広がっているのかという驚きがまずあった。

    著者はカルナータカ州を拠点にフィールドワークを行った人類学者。とくに、本書にはカースト制度にまつわるあれこれが詳しく書かれている。現代インドは、カーストに加え、経済的格差による差別もまた広がっているようだ。

    北インドあたりを旅するさい同行してもらった運転手さんの口からも、インドの人たちは生まれによってほぼ職業が決まってるみたいなことを聞いたけど、いわゆるバラモン、クシャトリア、ヴァイシャ、シュードラ、というカーストの認識と現実がいくらかずれていて違和感をおぼえたものだ。その謎が本書で氷解した!

    なんとそうしたわかりやすい差別的ヒエラルキーは植民地時代の大英帝国が便宜上こしらえたものだったのだ。
    じっさいのところは、職能別グループというのが近いらしい。職業によってカーストがあり、各カーストがグルという宗教的指導者をいただく(彼らは法廷での近代的裁判とは違う、諍いの実質的な仲裁役をになったりもする。中央政治を動かすほどの実権を持ったりもする)。

    そして実際に力を持っているのは農業に従事している多数のカーストであり、政治戦略上、近代的補助制度による恩恵を受けるためにカースト制度を逆利用し、新たにカーストが生まれたりもしている。なんともしたたかなこと!

    しかしそうしたカーストの序列にさえ加えられないのがダリトと呼ばれる旧不可触民であり、今もなお根強い差別が残る。本書に語られるダリトのエピソードはほんとうに痛々しい。とくに、冒頭で紹介される、自身の親の仕向けた殺し屋によって夫を目の前で惨殺されたカウサリヤの事件。いまだ信じがたい。

    インドは人脈と賄賂の国だということもやはり本当なのだ。
    党派、主義主張は違えど、個人的に知り合いなら、一見敵と見なされる人が問題を解決してくれたりもする。

    現地ではもはや「カオス」としか形容できない不可思議さで、先に書いた運転手さんの力を借りて、トラブルが魔法のように解決されたことも一度や二度ではなかった。自分自身、手続きを円滑にするために何度賄賂を払ったかわからないが、これがインドのやり方。腐敗といって一方的に非難できることでもないと、本書を読んでひしひしと実感した次第。ポリコレっていったいなんのお遊びなの!?と思わずため息とともに呟きたくなる。

    さっきから運転手さんとばかり書いているのは、本書にもスレーシュという、ゆえあって前科者にされたタクシードライバー&ボディガード(そういえば私の運転手さんも屈強なプロレスラーみたいな人だったな)が頻繁に登場するからだ。苦労人である彼一人の生い立ちにさえ、インドの混沌たる社会構造が色濃く反映していて、考え込まずには読めなかった。

  • 私が直接対応する予定はないが、インドの会社が取引先になった。
    仕事上のやり取りの上で、相手の思考の背景・文化を理解しておいた方が良いかもしれないと思ったときに目に入ったこの本を購入。
    5人のインド人のエピソードを語っている。

    違う国の違う文化なので単純に是非を語れるものではないし、筆者の方はインドに足を運びそれぞれの人と信頼関係を築いた上での視点なので、安易に理解したともいえないが、根を張った階層社会の中で生き抜いているという点で残酷な社会のたくましい人々ではあろう。
    自分にとって全く接点のない国に対する、背景理解の一端にはなった、と思う。

  • 今まで読んだインドに関する本の中で、いちばんインドに深く入り込んでいる気がする。それでいて簡にして要を得る鋭さ、地に足のついた体験談、表現力の豊かな文章、読み物としても十分に魅力的。

  • ふむ

  • インド料理がうまいし、( デリバリーでDosaハマっている)インドのオフィスともやり取りするし、インドどーなのよーと軽い気持ちで読んだ。
    最初は軽やかな日常で、ふんふん。異国ですよねーと。これは読めそうだなと読んでた。
    インドを理解するうえでの一つ目のトピック、カーストで、残酷エピソードをさくっと2件紹介されて、面食らった。読めることは読める。サクッとかいてあるから。自分の基本知識なさにかなりひいた。またまた読み進めて、『発展の順序とは。と批判する権利は我々にない。』とピシャリと書いてあり、私の感じていた感情を注意されてて、すいませんでした。とおもった。
    消えた女性たちという論文解説パートがあり、一億人以上いるはずの女性が消えていると。日本の人口の近くが消えてる理由を読んで、想像して苦しかった。賄賂や交渉文化のところはアジアですよねーと想像してた通りだった。
    ウーバータクシーの進出によるエピソードは、この本のタイトルにもあるたくましさが一番かんじられた。

    読んでる最中ずっとインド人とどうやって会話弾ませたら良いだろうかと怯んでしまったが、日本も他からみたら受け入れられない文化もあるんだし、様々な環境のなかでもチョイスは色々あり、ギャップに面食らってばかりで怯んではいけないよなと最後は思えた。

  • 衝撃的な面白さであった。

    新NISAの新たな投資先としてインドが注目されているが、多くの日本人にとってカレーやガンディー、ガンジス川といった歴史に出てくる範囲しか馴染みのない国だと思う。

    近年少しずつビジネス的な側面も注目されているが、それもアメリカIT大手で活躍するインド系アメリカ人や、BPOの拠点としてのイメージだろう。

    どうしても、インドの一般的な人々がどのような原理原則に基づき、どのような生活をしているのか、カーストの影響とそれに対する感情は、といった側面が忘れられがちである。

    本書は、著者が実際にインドに滞在する中で接した、一般的な人々、ややもすると階層としては虐げられてしまう人々、にスポットライトを当て、その生活が赤裸々に語られている。

    これで全てが分かった気にはなってはいけないが、この本を読まずしてインドのことが分かった気になってもいけない、そんなレベルの本である。

  • ヒンドゥー至上主義者の行動として、雌牛保護運動やヒンドゥー教の迷信悪習を批判する知識人の暗殺、ラーマヤナ主人公ラーマの生誕地にあるモスクの破壊など

  • 「名誉作人」という強烈な事件の紹介で始まる本書ですが、そこから著者の視点はインドに生きる個人の生の声にズームインしていきます。インド経済やいまだに残るカースト差別について触れた本はいくつもあります。でもそのほとんどが、統計的な推移や制度の仕組みについての「マクロ」な説明です。それに対して本書は、徹底的に「ミクロ」な視点で書かれた本です。ヴァルナやジャーティーなどの制度の解説や統計値などは各章末にコラムとして置かれており、あくまでメインは著者が南インドのベンガルールを中心としたフィールドワークの中で取材した人、そして運転手や家政婦など身近な人達のエピソードです。インドのごく普通の人々の普通の生活について生の声を知ることができます。

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