- Amazon.co.jp ・電子書籍 (141ページ)
感想・レビュー・書評
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ブクログで知ってビビッときてすぐにダウンロードして読みました。いつもありがとうございます。
出生の自己決定権が与えられた50年後の日本が舞台。科学技術の進歩によって、胎児の性別、性的指向、国籍、両親の経済状況や持病などを総合的に判断して割り出された「生存難易度」をもとに、なんと胎児自ら生まれるか生まれないかを判断することが可能になっている。それどころか、胎児の意思に反して出産に踏み切った場合、両親は犯罪者として社会から排斥されてしまうのだ。ちなみに、この日本では、安楽死も合法化され、女性天皇や同性婚も認められている。
前提となる「正論」や「倫理観」が現在と違いすぎて、頭の中をさまざまな「?」がよぎるけれど、それでも荒唐無稽とは片付けられず、描かれるさまざまなケースについて、その都度真剣に考えながら読んだ。
実際に人生を生きたことのない胎児に、データだけで何がわかる?出産間近のおなかの子に「リジェクト」される、そんな悲しいことはやっぱりあってはいけないんじゃないか?
だけど、私自身、子どもを産みたいと思ったのは、はっきりいってエゴだ。子どもには生まれて良かったと思える人生を送ってほしいと心から願っているし、そのために親として精一杯やってきたつもりだけど、そうじゃなかった場合についてとことん考えたことなんて今に至るまで一度もなかった。子育て、楽しかった。なんて無責任。
いっぽう、子どもとしての自分はどうだ? もともと私は人生を謳歌するタイプではなく、今も安楽死が許されるならとうっすら憧れているけれど、生まれてこなければよかったと思ったことは…ないかな。人生が辛いとすれば、勝手に産んだ親ではなく、努力が嫌いな自分のせいだと思うし。それに「産んでくれなんて頼んだ覚えはないよ!」っていう反抗期の捨て台詞が使えず「生まれたくて生まれたんだろうが!」と一蹴されてしまうのって、余計しんどくない?
だけどだけど、女性天皇や同性婚が認められるなど、この社会が明らかに人権を尊重する方向に改善されていることを思えば、出生の自己決定権もその延長線上にある、やっぱり当然の権利なのではないか?
ラストの主人公の決断・選択は意外なようで、一拍おいて「うん。それしかないよね」というすがすがしさがこみあげるものだった。
「合意出生制度」に反対するカルト組織、主人公と姉との関係などはミステリー仕立てで、テーマありきでなく小説として純粋に面白かったし、何より、主人公が同性のパートナーと結婚して、ともに生きていることがほんとに当たり前のこととして描かれているのが読んでいて心地よかった。根底にある価値観・世界観が信用できるからこそ、エッジの利いた、固定観念を揺さぶられるような設定・物語にもノイズなしに安心して没入できるんだろうな。村田沙耶香さん(この設定では想起せざるを得ない)が、自分が書いているのは「ディストピアではなくユートピア」と語っていたのを思い出した。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
その昔、私の出産時に「合意出生制度」というものがあったら、うちの子供は生まれてきてくれただろうか?生を受けたら最後、下手すると100年生きちゃう。それでも思い切って生まれてきてくれたか?はたまた私だったら生まれることを選択したか?生きてるって素晴らしい!!と大手を振って言えない悲しさ。それなのに子供が欲しいと勝手に産む身勝手さ。考え過ぎると倫理的にヤバい気がして思考停止…うん、忘れよう。
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圧巻の小説でした。
温暖化などから始まる現代の課題尽くしの近未来を背景に、普遍的な課題と希望が浮かび上がります。 -
生まれてくるかこないかを自分で決められたらー
胎児の出生の同意がなければ産むことができない、安楽死も合法化されている近未来の話。設定が面白いし生について考えさせられる。生まれた時から産んでくれてありがとう、親の言うことは絶対、と叩き込まれてきたけれど、そもそも生まれることに同意してないし、新しい生を授ける、子を産むことは親のエゴである、なかなか言葉にできないことをうまくストーリーに落とし込んだ作品だと思いました。