シン・君主論 202X年、リーダーのための教科書 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 君主論の時代に「非連続な時代で国を統治する君主はどうあるべきか」が説かれたという。まさに現代と同じ。
    結局、時代は変われど、人間の本質は変わらないのかもしれない。
    人間が社会的な生き物である以上、組織として行動することは人間の本能そのものであるはず。
    しかし、これだけ様々なリーダー論が溢れているというのも面白い。
    内容的には当然似た部分もあるし、本質的なところはどれも同じと言える。
    しかしながら、集団としては崩壊してしまって成り立たない組織がある一方で、まとまって高度な結果まで出せる組織とが存在するのはどういうことだろうか。
    後者においては、優秀な人材が揃ってさえいれば、必ず結果が出せそうなものだが、そんな簡単な話ではない。
    一流選手を揃えても試合で勝てないチームがあるように、個の力は弱くても、チームとしてまとまって、最高の結果を出せる組織もあるのは事実だ。
    君主論や帝王学、組織論、リーダーシップ、様々な理論がある。
    それぞれ、組織を崩壊させないためという目的のものもあれば、チームとして最高の結果を出すためという目的のものもある。
    崩壊しているマイナス組織をゼロの状態に戻す理論なのか。
    如何にゼロ状態をキープして、組織を長く維持するための理論なのか。
    チームとして最高の結果を出すにはどうするかという理論なのか。
    目的がそれぞれ異なるので、微妙に表現が異なったりする。
    現代に求められているのは、おそらく安定運用なのではないだろうか。
    不安定な時代だからこそ、安定を求めたい。
    イノベーションも大事だけど、1発当てて、そこで終わりでは意味がない。
    どうやってこの不安定で不確実な時代を安定的に経営していくのか。
    当然、そこに明確な正解がある訳ではない。
    だからこそ歴史を参考にしつつ、トライ&エラーで模索していくしかないのだろうと思う。
    「君主論」では様々な点が記されているが、個人的に気に入ったのは、「リーダーこそ冷酷無比であれ」だ。
    これはパワハラOKという話ではない。
    現代のリーダーは優し過ぎると思うのだ。
    部下に対して厳しいことを言いたくないがために、リーダー職に就きたくない人もいるくらいだという。
    これは現代が、パワハラ含めて、コンプライアンス・ガバナンスの逸脱を許さない状況になっていることも大きく影響していると思う。
    当然に法令は遵守しなければいけないし、物事の決裁だって正当に統治されていなければいけない。
    それらと「厳しいリーダー」とはトレードオフでないはずだ。
    両立できるはずであるのにも関わらず、「厳しいリーダー」のデメリットばかりが注目されてしまっている。
    しかし君主論に書かれている通り、現実的に「優しいリーダー」ほど国民にとって罪なものはない。
    直属の部下にとっては優しい上司は有難いかもしれないが、組織全体にとっては全く貢献に値しない。
    これは自分の会社を見ていても、非常に心当たりがある事象だ。
    今の時代、嫌われない事が重要視され過ぎてしまったことの弊害が、各所に表出していると思う。
    「そんなに嫌われることは罪なのか?」と思ってしまうのだが、それは私がリーダー職に就いていないから気軽に言える台詞なのかもしれない。
    現代は、芸能人にしても政治家にしても、たった一つのミスに対して許されない風潮がある。
    コテンパンに叩きのめすまで行われるのは、SNSの弊害であるが、もっと寛容的になれないものだろうかと思ってしまう。
    様々な意見があって、それを自由に発言できることが民主主義の本質である訳だが、その制度も、ここまで弊害が出てしまっては、機能不全を起こしていると言わざるを得ない。
    リーダーが誠実であることは当然であるが、全ての物事が綺麗事で進む訳ではない中で、どこまで人々がリーダーに対して寛容になってくれるのかは、ものすごく重要なポイントだと思うのだ。
    君主論では、制圧した新しい土地に、リーダー自ら住みついて現地を統治するべきであると説いている。
    現代で言えば、M&Aなどで買収したら、買収先企業側に率先して社長が行けということか。
    戦争が起きたら、率先してリーダーこそ前線に出よ、とも君主論の中で説かれている。
    これは現代の企業の中ではどうだろうか?
    社長が現場まで来てリーダーシップを発揮することがよいことなのか。
    現場を知っているのはあくまで現場担当者なのだから、社長が余計なことを言わずに現場に任せた方がよい面もある。
    君主論では、リーダーたるもの、そういう意識でいろ、という事なのだろう。
    もし有事が起きた際は、率先して現場に駆けつけて、リーダーが様々な判断をして実行させなければならないだろう。
    そういう意味ではケースバイケースか。
    君主論の中では「痛みを伴う改革は一度でやり切る」とも記載されている。
    これについてはすごく共感できる。
    意外とこういう外科手術的なことを断行できるリーダーは少ない。
    とある事業が不採算部門で、そこを閉じる必要があるのであれば、速やかに例外なく厳格に行った方がいい。
    もしリストラするにしても、ダラダラ行っていてもしょうがない。
    部下から「あの人だけは助けてくれ」と泣きつかれた際に、いちいちそれに応じていたら、色々な改革の辻褄が合わずにブレブレになってしまい、結果社員の信用を失うことになる。
    そんな事象は私もよく見てきた。
    部下から非道と言われても、会社のためを思って一気に改革を断行するというのは、簡単には出来ないものかもしれない。
    リーダーは孤独だし、この判断が合っているのか間違っているのかは、決断に自信がないときもあるだろう。
    それでも決める時に決めるのがリーダーである。
    この「覚悟を持つ」ということが「言うは易く行うは難し」ということか。
    いくら立派な君主論が書かれていても、この実行こそが難しい。
    だからこそ、各種のリーダーシップ論が今でも論じられているのだろうと思う。
    冷徹な判断をし、覚悟を持って決断できるリーダーこそが求められている。
    不安定で不確実な時代だからこそ「君主論」。
    結局は実行できなければ意味がない。この実行こそが大事なのである。
    (2023/9/15金)

  • ちょびっとだけ中だるみしましたが、後半になるにつれ事例も面白いものが多めでした。

    リーダー論は結構グサグサ来ましたw

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著者プロフィール

冨山 和彦(トヤマ カズヒコ)
株式会社経営共創基盤(IGPI)グループ会長
1960年東京都生まれ。東京大学法学部卒業、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。ボストン コンサルティング グループ、コーポレイト ディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画し、COOに就任。2007 年の解散後、IGPIを設立。2020年10月より現職。日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長、パナソニック社外取締役、経済同友会政策審議委員会委員長。財務省財政制度等審議会委員、内閣府税制調査会特別委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生会議有識者、国土交通省インフラメンテナンス国民会議議長、金融庁スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員などを務める。主な著書に『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)、『コロナショック・サバイバル』『コーポレート・トランスフォーメーション』(いずれも文藝春秋)などがある。

「2022年 『両利きの経営(増補改訂版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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